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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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174 鳥たちの楽園

 ウチは高度をあげながら、スーグルの猛攻(もうこう)をどうにか(かわ)していた。

 身体中が生傷だらけだけど、直撃をもらっていないだけ上出来かな。かなり疲れて飛ぶスピードも減速している気がするけど、泣き言なんて言ってられないや。

 縦横無尽(じゅうおうむじん)にポジションを変えながら、防戦一方(ぼうせんいっぽう)で飛び回る。

「どうしたエアよ。逃げてばかりいても我は手心など加えぬぞ」

 ウチの後方から鋭い羽根が風圧に乗って発射される。

「それ、ホントにやめてほしいな。言っても聞いてくれないだろうけどっ!」

 左右に動き、回転しながら躱していく。たまにブーメランのように曲がる軌道の羽根があるから厄介だよ。ゴールデンビーダ○ンの真似しないでほしいな。

 父ちゃんが作ってくれたお気に入りの服が。また傷ついちゃったよ。

 反撃をする隙がない。そんなことしていたら攻撃に捕まっちゃう。

「必死だねスーグル。そこまでしてウチを落とそうとするなんて。太陽の塔にはいったい何があるのか、余計に気になっちゃうよ」

 微笑みを向けると睨み返されちゃった。もっと肩の力を抜こうよ。

「勇者が訪れた際、風の力を授ける場が頂上にある。今、魔王軍に占拠されるわけにはいかんのだ。キサマらとて、わかっていてこの地に来たのだろうが!」

 感情任せの突進攻撃は今までよりも速く感じた。

「まだ速くなるの。冗談キツイよ」

 とっさに風魔法を明後日の方向へ放って緊急回避する。すれ違う際の風圧に翻弄(ほんろう)されては態勢を立て直す。

 崩れた態勢を立て直すのにも慣れてきたな。実践の緊張感はやっぱり違うや。

「冗談ではないのはこちらの方だ。この世界イッコクを、魔王の手に落とすわけにはいかない」

「ちょっと、早とちりしてないかな」

「問答無用!」

 突進を避けたと思ったのに、急旋回して正面から突っ込んできた。器用に縦回転したと思ったら、クジャクの尾で叩きつけてくる。

「わわっ、そんなのありぃ!」

 とっさに風魔法を叩きつけて相殺、そして反動による後退をすることでどうにか避けきれた。

 ヤバいな。頂上から遠ざかったよ。退()くことだけはしないつもりだったのに。にしても、ウチたちが魔王軍の侵攻に見えていただなんてね。

 下がる身体を風で支え、黄色い翼を羽ばたかせた。雲の向こうを目指して。

 だいぶ近くなってきた。スーグルの相手をしながらだと遠く感じるけど、でもいける。

「これも躱すか。しぶとい小娘だ。だがいつまでもその小さな身体が持つかな」

 強い風圧が近づいてくるのを全身で感じる。鳥肌が立っちゃうな。向こうはほとんど無傷だし。でも、飛びきってみせるんだから。

「持たせてみせるよ。ゴールまで後ちょっとなんだから」

 まだ見えていないけど、終わりが近い気がする。辿り着けたらウチは、もっと強くなれる予感がする。

「その後ちょっとを、我が許すと思うなぁ!」

 真下から散弾のように羽根を撃ち出してくる。

 あれ。この攻撃、当たらない。慌てて避けようとしたら逆にやられちゃうやつかな。ウチもそこまで間抜けじゃ……え?

 スーグルは喉元に何かを溜めるように膨らませると、口から密集した風圧を真っ直ぐ放ってきた。

 しまった。退路を羽根で塞がれている。シャレになってないよ。

「ブレス! そんなの聞いてなっ……あぁぁぁ!」

 下方からの一撃を背中に受けちゃったよ。翼が(きし)んで黄色い羽根がブワっと舞った。傷口から赤い血も一緒に舞ってるよ。

 衝撃が強すぎ。肺を圧縮されてるみたい。口をパクパクさせても空気を取り込めないよ。

 手足ものけ反っちゃてて、動かせない。

 身体中に痛みが走っているのに、頭はぼぉっと白いモヤがかかっちゃってる。

 ウチ、このまま終わっちゃうのかな?

 ブレスの一撃を受けた身体は、弾丸のように雲を突き破って空に出た。

 動かない身体で、(かす)む頭で雲上の空を眺める。

 小さな音がたくさん聞こえた。囀る(さえず )音や羽ばたく音といった、鳥たちの音が。

「ぁ……鳥……」

 雲を抜けた空で、たくさんの鳥たちが気持ちよさそうに飛んでる。あぁ。いい風、いい所だね。

 進行力を失った身体が、ゆっくりと自由落下する。

 このまま落ちたら死んじゃうな。けど、今は翼を動かすのもツラいよ。何かないかな。

 軋む首を動かすと、屋上を発見した。大小さまざまな鳥たちが、争うことなく休んでいる。赤茶色をしたレンガ組みの床も見えた。

 太陽の塔と同じ色。そっか。ウチ、飛びきったんだ。あそこまでなら、不時着できるかも。

 翼に力を入れて羽ばたこうとするんだけどうまくいかない。傘が強風でひっくり返っている状態になっているみたい。

 ダメかもしれないな。手も足も動かないや。こんなに高く飛んでいて、風も気持ちいいのにな。風に乗れないなんて。

 こうなったら、魔法でどうにかするしかないね。チャンスは一回だろうな。無事に不時着して見せる。

 下を向いて喉元に風を溜める。首、折れないといいな。

 バカなことを考えながら、地面に向けて風魔法を撃った。反動で落下を抑えつつ、屋上の床へと身体が向かう。

 お願い、届いて。

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