171 太陽の塔
地面に穴を掘って作られたドーム状の家や、動物や植物のデザインをされたテントが町に広がっていた。
どの家にも鳥の骨らしき物が飾ってある。風土の習わしかなんかだろう。
地面は平らだけど、崖のように立つ岩がいくつかあった。その崖さえも掘って集合住宅になっている。
この町の人たちはしたたかな性格をしていらっしゃるようだ。
俺たちは町の手前で様子を眺めていた。太陽の塔は町の外にあるみたいだ。
「へー。なかなか風情が漂う町だな。家屋を見ると村と間違えそうだけど、規模が村じゃねぇな」
ただ気になるのが、T・○ークやジェロ○モみたいな衣服のやつがウジャウジャいることだ。なんって言ったっけ、そういう民族を。
「ふっ、アメリカン・インディアン女性の民族衣装もそそるものではないか。ここの女性たちは落とし甲斐がありそうだ」
「ぜひ男性の民族衣装を目に焼きつけてください。ほら、あの上半身。程よく鍛えられて腹筋が割れていますよ」
「やめてくれシェイ。ヤローの上半身なんてほとんど裸じゃないか」
そーそー、インディアンだ。シャインがいつものバカをやっているようだけど、たまには役に立つじゃねぇか。
本人は目を押さえて深刻そうにうずくまっているがな。
「で、コーイチ。町の名前は思い出せたかしら」
「あっ」
エアの様子がおかしかったのが気になってすっかり忘れていた。チェルを見ると赤い瞳がジトリと俺を捉えてやがった。
「あっ……なんて町の名前ではなくてよ」
不意に上げちまった声を俺の答えにしないでくださいませんか。なじるような態度もやめてさぁ。
タジタジになっていたら、グラスが嘆息をはいたぜ。
「この町は『ソル・トゥーレ』だよ、パパ」
「そうそれだ。アクア。ソル……なんやらだ」
「おとーはぁ、相変わらずだねぇ」
アクアの援護射撃を無駄にしたら、フォーレに苦笑いされちまったぜ。いやぁ、申し訳ない。
「キャハハ。とりあえず町に入ろうよー。デッドも気になって仕方ないよねー」
「はぁ? 別に僕は……」
「デッドも気になるって。パパ、チェルちゃん早く行こうよ」
デッドが文句を言っているが、ヴァリーは聞く耳なしだった。
「落ち着けヴァリー。町は逃げねぇから」
「おいヴァリー。僕とジジイを同じ扱いすんじゃねぇ」
俺とデッドの手を取り、町へと引っ張っていった。みんなも微笑ましく笑って、後に続いたぜ。
町には川が流れていて、カボチャやトウモロコシ、豆などの作物が育てられていた。不毛の地のように見えたけど、思いのほか農業もできるようだ。
町の人たちも気さくで、喋ったら冗談交じりに言葉を返してくれたぜ。
インディアン嘘つかない。みたいな堅苦しいイメージをしていただけに、フレンドリーなのは助かった。
町の近くにいる動物や魔物を狩ることもあるようだが、意外と頻度は低いらしい。魚や木の実、農作物が盛んなおかげなんだと。
それと鳥の卵もおいしいらしい。なんでも、町の定位置に巣があって、人気の少ない時間に飛んできては生み落して帰っていくそうだ。
そういえば、ソル……ソルぅぅぅ。そう、ソル・トゥーレに入ってから鳥を見ていない気がする。なんでだろうな。
テキトーな店に入って昼食もとったが、悪くなかった。ちょっとクセが強かったから、子供たちで好き嫌いがわかれたぜ。
店は木造の吹き抜けで、風通しがよく景色がいいぜ。
箸やフォークがなくてチェルが戸惑ったが、渋々と手づかみの料理を堪能していたぜ。
「旅の方。我が料理は満足いただけたかな」
給仕の若い男が食器を下げながら話しかけてきた。顔にペイントがしてあり、落ち着いているダンディな男だ。
「いい味だったよ。ここらへんに来るのは初めてでね、土地の味を知るいい機会だった」
「僕はあんま好きじゃねぇけどな」
「あっ、ヴァリーちゃんもー」
「あなたたち、少しは場をわきまえなさい」
チェルが窘めめると、給仕の男は声を上げてハハハと笑ってくれた。
「いやいや、子供は正直が一番さ。ソル・トゥーレにはなんで来たんだい」
「家族で世界旅行さ。イカレてるだろ」
ニヤリと笑ってやると、気分よく背中を叩かれたぜ。痛いから手加減してほしいもんだ。
「ねーおじさん。あの塔って見学できるの」
エアが景色の一部となっている太陽の塔を指差し、興味津々に聞いた。黄色い瞳が輝いている。
「太陽の塔か。鳥神様が祀られるているから神聖で、魔を打ち払う力が宿っている場所だ。けど入らなければ怒りに触れることもないだろ。かっこいい塔だろ」
「うん。特に高いところがかっこいいな。父ちゃん。後で行ってもいいかな」
テーブルに身を乗り出した。行きたくてウズウズしているのが見ただけでわかるぜ。
「エアは空とか好きだからな。わかったよ。なぁ、ここから塔までどれくらいかかるかな」
「見た目に反してかなり遠いからな。三〇分はかかるぞ。おチビちゃんたちにはツラいかもしれないぞ」
店主の心配にデッドが噛みつく。
「けっ、僕をなめんじゃねぇっての」
「そうだよー。楽勝だねー」
「はっは。いやおじさんが悪かったよ。おまえらは立派だ」
店主が褒めると、デッドとヴァリーは満足しておとなしくなった。子供の扱いがうまい方だぜ。俺も見習いたいもんだ。
「太陽の塔か。楽しみだな」
エアはターゲットを定めるように、塔から視線を離さないのだった。




