表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
170/738

169 鉄槌を落とすべき都市

 奴隷を強制的にヴェルダネスに送った頃には、もうすっかり夜が明けていた。

 家族初の徹夜作業となってしまいました。眠そうにしていたみんなにはホントに申し訳なく思います。

 その日はそのまま家に帰り、泥のように寝てすごしました。

 翌日。シャトー・ネージュがどうなったか情報を得るため、自分は父上と二人で電車を走らせます。

 家族総出で宿から抜け出したのです。(はた)から見たら行方不明でしょう。加えて、人目につかないように城門をくぐりました。

 諸々(もろもろ)を考えた結果、見つかってしまう危険を考慮(こうりょ)して父上には地下鉄で留守番をしてもらいます。電車のなかなら暖房も効いていますし。

 自分は影に(もぐ)って門を突破できるため、単独で都市を走り回ります。寒風なんて、気にしていられませんね。

 奴隷商が丸々ひとつ壊滅(かいめつ)したので、周囲は騒ぎになっていました。警邏隊(けいらたい)総出(そうで)になっていなくなった奴隷の捜索をしています。

 反乱を犯して市民に被害が出ることを恐れているようです。見つけ次第殺すと物騒(ぶっそう)な言葉も飛び交っていました。

 やれやれ。大事(おおごと)にはなっているものの、一時的な騒動ですね。あくまでも、奴隷は道具のようです。

 周辺の奴隷商は警戒こそするものの、平気で奴隷を売買しています。確認しただけで、気持ちが沈んでしまいました。

 次に、自分たちが泊まっていた宿も調べます。行方不明として捜索は出ているものの、大事(おおごと)にはなっていなかったです。

 気にはなるけど興味は薄いといったところでしょう。怪談話にはなっているようですが。

 一家揃って姿を消した宿。幽霊騒動のネタにはもってこいですね。

 風評被害(ふうひょうひがい)のことを考えると気の毒に思いますが、あまり気にしなくてもいいでしょう。間違っても、父上には伝えられませんね。

 ありがたいことに、自分たちの消失と奴隷商の壊滅を繋げた話は耳にしませんでした。

 同じ日に起きたことなので、疑いぐらいはかけられると思ったのですけど。もしかしたら、自分たち子供が八人いたことが幸い(さいわ )したのかもしれません。

 情報が集まったので影に潜り、シャトー・ネージュから出ます。父上の待つ地下鉄へと急ぎました。


 隠蔽(いんぺい)してある地下通路の入り口を通り、駅のホームまで降ります。電車に入ると暖かな空気に身を包まれます。父上は座って腕を組み、舟をこいていました。

 この数日は慌ただしかったので、疲れているのでしょう。寝かせておきたい気持ちにかられますが、休むなら家に帰ってからの方が安心です。

「父上、ただいま戻りました」

「んっ……あぁ。シェイか。すまん、いつの間にか寝ちまってた」

 黒い瞳を(うつ)ろに開くと、いかんいかんと首を横に振りました。

「報告しますが、よろしいですか」

「大丈夫だ。頼む」

 父上が顔を上げると、視線が合わさります。

「まず奴隷商の壊滅と自分たちが宿から消えたことの関連性(かんれんせい)ですが、ほぼ繋がっていないと考えられていますね」

「つまり、疑われたり足がつくことはないってことか」

「おそらくは」

 最初に懸念(けねん)事項(じこう)を取っ払うと、安堵のため息が返ってきました。

「よかった。隠蔽しているとはいえ、万が一に地下鉄(ここ)が見つかったらシャレにならねぇからな。んで、都市の様子はどうだった」

「大規模なことをやっただけあり、騒然(そうぜん)としていました。当分は収まらないと思うので、ほとぼりが冷めるまでは近づかない方が賢明(けんめい)です」

 対処する手段を持たない父上は安全な場所にいてほしいです。

「まっ、そうだろうな。他には」

「特には。他の奴隷商は警戒を強めるだけで、自重しようとは考えていません。都市の人々は怖がっているものの、どこか他人事です」

「巻き()え食わなきゃどうでもいい、か。どの世界だろうが変わんねぇな」

 いくら近くで事件が起ころうが、それが他人である限りはフィルター()しに見えてしまうのでしょう。

 一つ膜の向こうで起こった、自分には何も関係のないことと。

 少しでも親しい人が絡めばまた、別なのかもしれませんが。

「都市の暮らしも変わりがあるとは思えません。警備が厳重になったぐらいでした」

 小さな悪を一つ潰したところで、ほとんど変化なんて起きない。力のなき者が奴隷に落ち、人としての権利を失い、潰されてゆくサイクル。

 何か基盤(きばん)()るがすほどの衝撃を受けない限り、延々とサイクルは回り続けるでしょう。

 眺めていることしかできないのが、なんとも歯がゆいです。

 自分が俯い(うつむ )ていると、やさしく頭を撫でられました。顔を上げると温かな微笑みを浮かべていました。

「そっか。ご苦労様。寒いなかよくやってくれた」

「いえ。自分が暴走しなければ、父上はコソコソと逃げ隠れすることもなかったのです。よくなんて、やれていません」

 後から考えると、感情任せの行動がすぎました。自分もデッドやヴァリーとなんら変わらない子供ですね。

「気にしすぎだ。シェイのおかげで七八人の人員確保ができた。ヴェルダネスの人不足は深刻(しんこく)だから助かるぜ。後で奴隷用のマンションも建てないとな」

 父上はまるで、失態なんて一つもないように接してくれます。叱るときは、しっかり叱ってくれた方が嬉しいのですが。

「シェイ、ここで重要な話があるんだ」

 父上は急に眉尻が上げ、真剣な表情に切り替えました。

「なんでしょう」

「シャトー・ネージュを、シェイに侵略してもらいたい」

 不意にシャトー・ネージュがある方角に振り返りました。電車を透かして、立派な城壁を脳裏(のうり)に浮かべます。

「あの城塞都市を、自分に」

「あぁ。って言っても今すぐじゃない。俺が魔王になった(あかつき)に、だ。少々、()が重いか」

 不快な闇が蔓延(はびこ)る都市を、自分の手で侵略できるのですね。

 内側から変えるには内部が腐りすぎている都市。ならば外から壊滅級の打撃を与えて壊し、作り変えた方がまだ立て直せる気がします。

 自分の手で、意志で、成敗(せいばい)することができる。

 いいですね。やる気があふれてきました。ドス黒い闇から獣が唸りを上げるように、心が叫びます。()らせろ、と。

「父上、自分は残念でなりません。今すぐに鉄槌(てっつい)を下すことができないのが、とても」

「やる気があるのはいいけど、先走るのはやめてくれよ。時期ってもんがあるからな」

 振り返ると、父上は困ったように髪をかいていました。

「はい。自分に大役たいやくを与えてくれたこと、心より感謝します」

「任せるぜ、シェイ」

 握り拳を伸ばし、自分の胸をコンと叩いてきました。父上の(にん)が、拳を通して全身にしみわたっていくようです。

「はい。全身全霊を込めて、シャトー・ネージュを侵略します」

 膝をついて頭を下げます。

 自分の役目。必ず果たして見せましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ