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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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16 卵の中身

 毒々しく淀んだ空に光の弱い太陽。魔王領特有の青空もだいぶ見慣れたものだ。

「しっかし、目覚めきってない朝だよな。太陽が丸く見えるまで登っているっていうのに、どうも陽の光を浴びてる気がしねぇ」

 俺はまぬけに口を広げ、大きくあくびをした。身体に吹きつける風が強く、服がバタバタとはためく。ホットコーヒーがあったらワイルドに感じるだろう。

 魔王城の東にある塔の屋上はハーピィの巣でもある。いたるところにワラで組まれた鳥の巣があり、スヤスヤと眠りについている。もちろん朝に強い鳥……いや、ハーピィもたくさんいる。羽を散らしながら羽ばたき、魔王城を巡回していた。

「おはよーコーイチ。今日は早いね。一人みたいだし、どうしたの」

 馴れ馴れしく声をかけてきたハーピィは、全体的にヒヨコのような黄色いカラーをしている。基本的にハーピィは薄汚れた茶色をしている。また他のみんなは喋ることができない魔物なので彼女の特殊さが伺える。

「ん、あぁ。アクアとグラスが生まれてから三日経ったからな。そろそろ次の子供が生まれるんじゃないかってそわそわしてんだ。チェルは起こすのも悪いと思ったからおいてきた」

「あはは。コーイチはせっかちさんだね。でも嬉しいよ」

 無邪気な笑顔は何も考えていないように朗らかだ。見ていて気持ちが落ち着く。実験そのものは恐ろしかったが、彼女の印象はかなりいい。

 傍にいるだけで不安な気持ちなんて吹き飛ばしてくれそうだ。

 鳥の外見も他の魔物と比べて恐ろしくないのが効いているのかもしれない。

「そんなに気になるんなら卵でも見ていく?」

「おっ、いいな。せっかく屋上まで上がってきたんだ。見せてもらうよ」

 ハーピィと共に、卵が収められている鳥の巣まで近づいた。見下ろすと、一ヶ月前と変わらないままの白い卵が転がっていた。

「何の変化もないな。もっとこう、大きくなったり、ひび割れてたりしてると思っていたんだが」

 昔やったRPGに出てくる妖精ヒロインのように。ンでもって主人公とボスを見間違えるやつ。

「あはは。見栄えは生まれるまで変わらないよ。もうすぐ孵ると思うけど、卵に変化はしないね」

 笑いながら黄色い羽で背中をバシバシ叩いてくる。どこまでも陽気な性格だ。酒を飲ますとどうなるんだろうか、そのまま笑い上戸になりそうだ。泣き上戸だったらギャップもあるかもしれんな。

「痛た、何が愉快かしんねぇけどそんなに叩くなよな」

 ただの建前だ。他の魔族たちと比べてシャレになっているのでちょうどいい。

 陽気に笑い合っていたら、ピキっと音が聞こえた気がした。

「ん、なんか喋ったか?」

「えっ、常に喋ってるけど」

「じゃあ気のせいか」

 首を傾げながら流そうとしたが、再びピキっと聞こえてきた。

「……まさか、卵か?」

 ハーピィと一緒に注目すると、卵に小さなヒビが入っていた。ピキピキするたびにヒビは全体に広がっていく。こころなしか揺れ動いている気がする。

「生まれる。コーイチとの子供が孵るよ」

 はしゃぐハーピィを横に、俺は生唾を飲みこんだ。どうしよう。望んで塔まで登ってきたのに、いざとなったらどうしていいかわからねぇ。

 ピキピキいっていた音はやがてゴンゴンに変わる。丁寧に殻を剥いていたのに、手間になってハンマーで叩きだしたような音だ。てかモンムスよ、何をやっているんだ。

 そこはかとない不安を抱いていると、やがてゴンっ! と大きな破壊音を響かせて、モンムスは頭から強引に生まれてきた。

「やったよコーイチ。孵ったよ」

 ハーピィがぴょんぴょんと跳んで喜びを表す。対する俺はちょっとドン引きしていた。

「おっ、おう。生まれたな」

 まだ顔しか出していないが、雛が孵ったとき特有のぬれ方をしている。黄色く短い髪が張りつき、髪と同色のパッチリした瞳でキョロキョロと周囲を見渡した。

 かわいい人間の顔をしているけど、まだ性別の判断がつかない。

 注目するのはおでこだろう。ちょっと血で滲んでいる。最後はヘッドバッドで殻を破ったのだろう。生まれたいという本能に驚きを隠せない。ホントすげぇ。

 身体はまだすっぽり卵のなかに収まっていて拝見できないが、そのうち出てくるだろう。

「あっ、待っててね。すぐに身体も出してあげるから」

「おい、何をするんだよ」

「いいからいいから。黙って見てて」

 ハーピィは四つん這いになって顔を近づけた。きょとんとしているモンムスにかまわず、硬いくちばしで外からつつき始める。まんべんなく卵をつつくと、ヒビは広がって細かくなる。

「うん。こんなところかな。さっ、あとは自分でできるでしょ。出てきて」

 立ち上がって納得すると、外の世界に誘うように呼びかけた。

「あうっ! うぅぅ~」

 モンムスも理解したのか目をぎゅーっとつむって力を込める。ひび割れた卵が膨らむと、パリンと音を立てて殻を破り捨てた。

「おっ、おおおっ」

 感動すると言葉ってでなくなるんだな。誕生の神秘に打ち震えながらモンムスを眺める。

 ぷにぷにした手に丸っこい身体。背中には黄色い羽が生えているけど濡れているせいで細っこくて広がっていない。足は鳥そのもので細く、枝にとまりやすい形状をしていた。

「そっか。女の子だったんだな」

「あうっ」

 俺がボーっと感動すると、モンムスは目を見て答えた。

「さっそくお祝いしないとね。コーイチ、この子の名前を決めてよ」

 ハーピィがモンムスを抱きかかえて期待する。

「あっ、やっぱり俺が決めるんだね」

 アクアのときもグラスのときも俺が決めたからな。何となく予想はついていたよ。名前は考えてなかったけどな。

 半分やけっぱちである。でも決めないとしょうがない。この子も単純にいくか。

「じゃあこの子の名前はエアにしようと思うけど、どうかな?」

 鳥といえば風。だからエア。単調だけど女の子らしい……気がする。

「エアちゃんか。うん、いいね。大空を高く飛べそうな名前。今日からあなたはエアだよ。よろしくね」

「あいっ」

 感極まったハーピィは、エアに頬ずりしながら踊りまわった。

「ははっ、気に入ったなら何よりだよ」

 見ていて心がホッとする。

 生まれたな、三人目。きっと物怖じしない明るい子に育つだろう。

 未来が賑やかになりそうな、そんな予感に心が躍る俺だった。


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