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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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167 夜の奴隷大移動

(チェル様、聞こえますか)

 一通り落ち着いたので、メッセージで報告をします。

(シェイね。事は終わったかしら。まだだったら急いでちょうだい)

(父上なら、もう来ましたよ。自分の無事を確認して冷静になり、周りの惨状(さんじょう)に気づいて困っているところです)

「うわぁ、シェイはまた派手(はで)にやりやがったな。壊滅(かいめつ)してんじゃねぇのか。隠しきれるかな。疑われたらボロなんていくらでも出せる自信あるぞ」

「落ち着いてください父さん。幸い(さいわ )、まだ外には()れていません。考える時間は充分にありますよ」

 視線を向けると、父上がズーンと沈んで肩を落としていました。血に染まる部屋と怯える奴隷を見たのでしょう。グラスが必死に(なだ)めています。

(そう。コーイチのクセに、無駄に勘がよくて困るわ。で、そのコーイチは無事かしら)

(無事ですよ。ちょうど事を終わらせた瞬間に来ましたから)

(なんて悪運(あくうん)なの。まぁいいわ。それより、惨状とはどういうことかしら)

(そのことですが、先にメッセージを全員に繋いでください。父上とグラスにもです)

(全員同時かしら。念のために聞くけど、シャインも)

 不意にふざけた顔が脳裏によぎりました。神経を(さか)なでる声でヘラヘラと喋りかけてくる危険分子。思わず言葉が詰まってしまった。

(……はい。お願いします)

 断腸(だんちょう)の思いで、歯を食いしばりながら決断しました。チェル様の嘆息が返ってきます。

(どこまで嫌いなのか一度じっくりお話したいわね。繋ぐわよ)

(シェイ。お願いパパを探して! パパまでいなくなっちゃったら私っ……)

 全員に繋がった瞬間、アクアが泣きついてきました。これは、父上の失態ですね。

 父上を見ると、居心地(いごこち)が悪そうに頭をかいて苦笑いしました。

(あー、アクア。俺は大丈夫だ。グラスも一緒だったし、シェイも見つけたからな)

(えっ、シェイ。パパと一緒なの)

(えぇ。傷ひとつありませんよ)

 外傷(がいしょう)がないことを教えると、よかったぁと(しお)れるような安堵(あんど)が返ってきました。

「シェイに確認するまで安心しないなんて。なぁ、俺ってそんなに信用ないのか」

 父上の呟きに、自分とグラスは揃えて首肯をしました。

 父上は部屋の隅に移動して、体操座(たいそうずわ)りで縮こまってしまいます。

(ケッ、ジジイは無事だったのかよ。下手すりゃ死ぬと思ってたのによぉ)

(キャハハ、よかったねーデッド)

(おいヴァリー。今の僕のセリフ、ちゃんと聞いてたのか?)

 デッドの怪訝(けげん)な視線を、ヴァリーが笑って受け流しているのでしょうね。

(父ちゃんが無事でよかった。飛び出しちゃったときはどうなるかと思ったよ。ウチもチェル様も飛び出したかったんだよ)

(けどぉ、慣れていない都市で別行動は危険だからねぇ。グラスに任せて待つことにしたんだぁ。メッセージが入るまでぇ、気が気じゃなかったよぉ)

 父上はみんなに心配をかけていたみたいですね。心配度が自分の比じゃありませんよ。

 温か(あたた )みを込めて視線を送るも、父上はズーンと沈んでいました。ここは想われていることを喜ぶところのはずなのですが。

 グラスに視線で尋ねると、首を横に振って近づいてきました。耳元に口を寄せてきます。

「父さんにも男のプライドがあるんだから、シェイだけは空気を読んでやれ」

 囁き(ささや )に疑問を覚えます。父上が最弱なのは、今更な気がするのですが。とはいえこれ以上に落ち込まれては面倒なので、黙ることにします。

(みんな父上が好きなのですね)

(えぇ、コーイチは幸せ者よ。あなたたちに愛されているのだから)

 ふふっ。まるでチェル様を(のぞ)いた言いようですよ。まぁ、今は納得しておきます。

(しかし少々、妬けてしまいますね。自分がさらわれた事件がすっかりなかったことになっていますし)

(そんなことないよ。シェイのこともすっごく心配だったんだもん)

(ったく、そうだぞシェイ。なんたって俺がいてもたってもいられなくなったんだからな)

 父上は立ち上がると、ポンやさしくと頭を撫でてくれました。

 まったく。さっきまでヘコんでいたというのに。

(そうさシェイ。オヤジのことなんてシェイに比べれば空気中に漂う二酸化炭素とおんなじさ、ゴフッ!)

(あっ、シャイン。どうしてシェイの闇が?)

(自分を甘く見ないでください。影さえ探知できれば、多少の距離など気にせず攻撃できるのですから)

 とはいえ、ギリギリですけどね。威力も普段より弱いはずです。

(ははっ、痛いじゃないかシェイ。照れ隠しもいいけど、もうちょっと加減を覚えてほしいよ)

 あごをさすりながらウザいドヤ顔を決めていることでしょう。気絶するまで何発でも闇を浴びせていところですが、今シャインにお荷物になってもらうわけにはいきません。

(ところでフォーレ)

(シェイ、ミーの話は聞こえていたかい)

(なぁに、シェイぃ)

(お土産(みやげ)を用意しました。奴隷総勢(そうぜい)、一一二名です)

「は?」

「なっ、シェイ?」

 父上とグラスが思わず声を上げて、自分を見ました。

(シェイ、どういうことか説明できるかしら)

(さらわれた先が奴隷商だったので、自分が商人を全滅しました。状態の悪い奴隷も何人かいますが、全員まとめて今から全員を連れて地下鉄に強行します)

(ケッ、めんどくせーことになってんじゃねぇか)

(サイテー。ヴァリーちゃん、もう休みたかったんだけどー)

(あっ、あはは。シェイも言うときは言うね)

 非難(ひなん)の気持ちはわかりますが、時間を置く余裕がないのですよ。状況的にも、生命的にもね。

(えっとぉ。この寒さのなかをぉ、誰にも見つからずにぃ、一一二人を運ぶんだねぇ)

(一人残らず、全員です。生死は問いません)

「シェイ?」

 父上は不服なのでしょうね。

(都市の人々が奴隷商の惨状に気づく前に、おさらばしなければより厄介な状況になります。自分の独断で申し訳ありませんが、行動の開始をお願いします)

「シェイ……」

 父上は悲しそうな黒い瞳で自分を見つめると、キッと眼差しを強くした。

(みんな、シェイの計画を聞いたな。これより大量奴隷強行奪取作戦を開始する。タイムリミットは夜が明けるまで。死に体もヴェルダネスまで連れていくぞ。いいな!)

 父上の号令に、みんなが肯定の返事を返したのでした。

 やはり自分は、まだまだ父上に(かな)いませんね。

 

 その後。無事にシャトー・ネージュの門を抜けて地下鉄へと逃げ込み、不眠でヴェルダネスへと電車を走らせました。

 ですが途中で、力の弱い奴隷が数十名力尽きます。結局、無事な奴隷は七八名となってしまったのでした。

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