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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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165 お手並み拝見

「シェイ、(まい)ります」

「魔物風情が、調子に乗んじゃねぇぞ!」

 正面でロングソードを持った男が叫びました。上段に構え、走る勢いのまま振り下ろしてきます。

 自らB級と言うだけって、剣筋は定まっていますね。ためらいもなく、間合いの取り方もうまい。下手な反撃は危険ですか。

 身体を()らして回避すると、男の後方から槍が伸びてきました。命を突き破らんと、鈍く輝きます。

「死ねやぁ!」

 性根(しょうね)はゆがんでいますが、いい連携(れんけい)です。でもそれだけでは自分を()れませんよ。

 バックステップ一つで(かわ)し、距離を取ります。硬い石床に着地する予定が、足が地面に沈んでしまいます。

「これは」

 自分の足元だけが泥沼に変わっていました。足がぬかるみ、移動がままなりません。

「まんまとハマったな化け物。封じたぜ、その足。俺の魔法で。ハッシュ!」

 杖の男がニヤリと笑うと、誰かを叫びました。

「オウよ。所詮は魔物。人間様に勝とうなんてチャンチャラおかしいんだよ!」

 上から影が迫ってきます。見上げると斧を持った巨漢が降ってくるところでした。

「これは、()けられませんね」

「くたばれ化け物がぁ!」

 振り下ろされる斧は両刃で、重量のありそうな大きさをしています。並みの剣で受ければ折られてしまうでしょう。並みの剣ならば。

 降ってくる巨漢を見据(みす)えました。両手にある闇の剣をクロスさせ、防御に入ります。

「バカがっ! 剣ごと真っ二つにしてやんぜ!」

 勝利を確信した笑みが心地いいです。これからどう、ゆがでくれますか?

 微笑みながら斧を受けます。さすがに重くて足が沈んでしまいますが、しっかりと止めてやりました。巨漢の顔が驚愕(きょうがく)に染まります。

「なっ、バカな」

 おやおや、こんなもので驚かれては困ります、よっ!

 両手に力を入れ、斧を切り()きまず。ガランと鈍い音を立てて、残骸(ざんがい)が転がりました。巨漢の手にはできそこないの棒しかありません。

 まじまじと切られた斧先を観察しています。戦闘中だというのに。

「ボディがガラあきですよ」

 右の剣を床にさして軸にし、軽く蹴りを入れます。ハグッと情けない叫びを浴びて壁に叩きつけられました。

 うっ、と(うめ)きながら冷たい床に倒れます。

「ハッシュ!」

 男たちが叫びます。仲間の心配もありそうですが、それ以上に恐怖の色を感じ取れました。

「おやおや、軽く蹴っただけでしたが。もう少し踏ん張ってほしいものです」

 小さく呟いたつもりでしたが、しっかりと男たちの耳に届いていたようでした。動きが硬直し、怖いものを見るように自分へと首が動きます。

「さすがB級ですね。流れるような(よど)みない連携に、ためらいのない攻撃。長年に(わた)って繰り返されてきた動きでした。大変参考になりましたよ」

 笑みを見せると、男たちは半歩下がりました。口元が引きつり、つばを飲もうにも飲めない動きをしています。

 所詮はB級ということでしょう。少なからず、B級の最低限の力は理解できました。

「あぁ、さっきから自分を魔物呼ばわりしていましたが、訂正(ていせい)しておきます」

 死にゆく人間風情に説明するのもどうかと思いますが、冥途(めいど)土産(みやげ)にはもってこいでしょう。

「自分は魔物ではなく、魔族です。それも次期魔王コーイチの第七子。あの世での自慢話にしてください。あなたたちはこのシェイの、第一の被害者ですから」

 震える足が行き先を迷わせているようです。立ち向かうか、逃げるか。待ってやるのも一興(いっきょう)ですが、既に父上を心配させています。即決(そっけつ)できるよう、促し(うなが )てあげましょう。

 一歩だけ、間合いを詰める。男たちはおもしろいほど過剰(かじょう)に反応し、痺れを切らしました。

「ふざけんな! 返り討ちにしてやギャァ!」

 ロングソードの男が剣を振り上げたので、影から無数の細槍でハチの巣に突き刺してやりました。支えがあるせいで絶命(ぜつめい)しても倒れられません。

「じょじょじょ……冗談じゃねぇ。助けてくエェ!」

 杖の男が踵を(きびす )返して逃げ出しますが、許すほど自分は甘くありませんよ。セリフの(なか)ばで影から剣を伸ばし、背中から一突きします。

「あっ……ががっ……」

 手が傷口を抑えたそうにしていたので、剣を抜いてやりました。同時に傷口も開いたため出血。そのまま倒れます。

「ひぃぃ!」

 槍の男が腰を抜かしました。股間から尿音(にょうおん)が聞こえ、(また)に湖を描きます。

「おや、B級のお()らしが入りましたか。これはレアなのでしょうか」

 思わず首を傾げます。状況から見て、もう戦意(せんい)は残っていないだしょう。もしも演技だとしたら相当な役者になりますね。

「たっ、助けてくれ。何でもする。だから、命だけはぁ」

 震えた声で情けなく叫びます。命乞(いのちご)いなら土下座(どげざ)の一つでもしてほしいのですが、無理そうですね。

 自分は一歩ずつゆっくりと足音が響くように近づき、ギリギリまで接近しました。恐怖にゆがんだ顔が目の前にあります。

「初めて、命乞いを聞きました。残虐(ざんぎゃく)な人間ほど、命は大事なんでしょうか?」

 (たず)ねるように独り言を放ちます。答えは求めてはいなかったのですが、男は泣きそうな顔で首肯(しゅこう)しました。

「ではあなたは、命乞いした人間を助けたことがありますか? 奴隷をいたぶるのに良心が痛みましたか?」

 男は助かりたいがためか、必死に首を縦に振ります。誰が見てもウソだとわかるでしょうね。

 詰問(きつもん)していると、後ろから影が忍び寄ってきました。男の視線が自分の後ろに向かいます。

「わかりました。自分はあなたを殺しません。好きにして……」

 男が安堵(あんど)に微笑んだ瞬間です。

「死ねや化け物がぁ!」

 後ろの巨漢がロングソードを振り下ろしました。途中で止まれそうもない勢いで、ちゅうちょなく。

 気づいていましたよ。蹴飛ばして動かなかった斧の巨漢。仲間のロングソードを拾って不意打ちですか。ま、影を感知できる自分には無意味ですけどね。

 影潜りで槍の男の影に緊急(きんきゅう)回避(かいひ)します。

「なっ! うわぁぁぁ!」

 獲物を失ったロングソードは勢いをそのままに、槍の男を襲いました。同士討ちですね。連携が完全に瓦解(がかい)しています。

「うわぁぁ! 消えた、なん……アガッ!」

 影を移って巨漢の背中を取り、背中から一突きしました。

「自分を人間の(くく)りと勘違いした、あなたの負けです」

 震える耳元に囁きかけてから、横に切り抜きました。あふれ出る血液を見下ろします。

 さてと、後始末をしなくてはいけませんね。事を起こしてしまいましたし、奴隷商の方々には全滅していただきますか。

 自分は、天井を()かすように眺めました。

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