164 仕事人のシェイ
「おら、泣き顔見せてみろよ。それとも怖くて声もあげれねぇってか!」
膝蹴りを受けて壁に叩きつけられます。ホドホドがどういう意味だったのかPCでググりたいぐらい、やりたい放題ですね。
えっと、いくら殴られましたっけ。全員から五発以上もらいましたが、もう数えてないです。
それだけならまだいいのですが時折、見せしめに少年がムチで打たれるのが不条理ですね。
「テメェもかわいそうになぁ。嬢ちゃんが強情なせいで痛い思いしなきゃいけねぇんだからよぉ!」
ほら、また。自分が泣きついたところで、簡単にやめるつもりもないクセに。少年に恨ませることによって、自分のメンタルも壊すつもりなのでしょう。
「ホント、痛いですね」
「ようやく泣き言か。聞いたかみんな。強情なお嬢様が泣きに入ったぜ」
耳障りな哄笑が合唱になって部屋に響きます。何がそんなにおもしろいのだか。
身体をゆっくり動かそうとするだけで、ピリッとする痛みが走りますね。が、耐えられないほどではないです。
「あぁ? 誰が立っていいって言った。地面に這いつくばってる方がお似合いだぜ!」
またピシャンと、身体をムチで打たれました。右肩から左の腹まで熱い衝撃に襲われます。が、もうオーバーにリアクションするのも飽きました。
「おいおい、嬢ちゃんが立ったままじゃねぇか。手心でも与えてやったのか?」
「いや、そんなはずは」
手応えがあったはずが、相手が微動だにしない。そのことに動揺を覚えているのでしょうね。少し恐怖を煽ってみますか。
前髪で瞳を隠したまま、ニヤリと笑ってみます。するとヒッて悲鳴が聞こえました。
「みょ、妙な真似すんじゃねぇ」
「おいおい、何ビビってんだよ。B級がガキにみっともねぇなぁ」
仲間に対する嘲笑。かわいそうに、まだ事態の変化に気づいていないのですね。後ずさりしている一人だけが、転機に気づいているだなんて。
「うっせ。下手なことをしてみろ。そっちのガキが酷い目に合うぞ」
情に訴える策できましたか。相手によっては有効ですが……自分は生憎、魔王サイドですよ。
「どうぞ。好きに痛めつけてください」
「うっ、うおぉぉぉ!」
雄叫びは鼓舞するためか、それとも怖気にあてられたのか。必要以上にオーバーモーションで鞭を振るいました。
少年がギュっと目をつむって、顔を背けます。
スパン! と影から闇の手裏剣を放って鞭を切りました。
まぁ、自分なら動かずとも助けられるのですけどね。
「なんだ! ムチが勝手に切れやがった!」
ワナワナと震える男。傍観していた男たちも驚きに目を向けました。
あぁ、いいですね。この湧き上がる恐怖を抱いている闇は。やっと心地よい闇に触れられましたよ。
頭のなかでは必殺仕○人のBGMが大音量で流れています。さぁ、殺りますか。
肩をつかんで首を回しながら、一歩ずつ踏みしめるように前に出ます。
「はぁ? 鞭が勝手に切れたからって調子に乗んっ……あぁ?」
プスリと、男の左腕に闇の剣を刺します。剣は、自分の右腕から伸ばしました。
「ギャァァァ!」
「今更ですが忠告しておきます。ケンカを売るなら、まず相手をよく見ることですね。まぁ、自分の場合は大穴もいいところですが」
クスリと笑ってやると、ヒヤリと縮こまった視線を向けられました。怖気づくのがお早いことで。
「なっ、何をしているんだ。高い金で雇ったB級冒険者だろうが。そんな見せかけだけのガキ一人ぐらい、どうにかしっ!」
壁際にいた店主が喚きだしたので、彼の影から斧を作って真っ二つになっていただきました。
「うるさいです。黙って下さい」
血が、ドロリと床に広がります。
「うわぁぁぁ! 何がどうなってやがんだ。今夜はガキいたぶるだけの簡単な仕事のはずだろ!」
最初に刺した男が喚きます。傷を負っているせいか、動揺も激しいようです。もう一人ぐらい消しても、いっか。
「あなたも黙って下さい」
「アガッ!」
叫び散らして注目を浴びていた男の影から、闇の槍を突き刺します。特に隠密にしようと思っていなかったので、全員が目撃したでしょう。
「ガイラス!」
「なんだこの槍。いったいどこから」
「フフ。B級が揃ってみっともないですね。そんなので魔物と戦り合えるのですか」
慌てふためいていたはずが、自分の小さな声を耳に拾ったようです。さて、どんな温度で聞こえたのでしょうか。
「ガキ……いったい何をした」
ツバをゴクリと飲み込む音が聞こえました。最初の威勢が見る影もなくなっていますよ。
「闇の魔法でスパン、ですよ。そういえば人を殺したのは初めてですね。案外、どうとも思いませんね」
自分の手を見つめる。生粋の人間だったら、何かを思っていたのでしょうか? 栓なきことを考えても仕方ありませんね。
「テメェ、誰にケンカ売ってんのかわかってんのか。俺たちはB級なんだぞ」
まるで男自身に言い聞かせるよう叫びました。そうでもしないと動けないのでしょう。
「わかっていますよ。だから、連携が取れるよう残しておきました。B級を、正面から体感しておこうと思いまして」
ついでです。脅しも踏まえて正体も明かしますか。
自分は闇色の光に包まれると、一つ目の姿に戻りました。
「なっ、魔物だと。城塞都市のなかに!」
B級たちは怯えながらも、それぞれの得物を取り出し構えます。
部屋のなかで前衛三・後衛一ですか。さて、お手並み拝見といきましょう。自分も両手に闇の剣を纏います。
「あっ、そうそう。自分が勝ったらここの奴隷、全部もらっていきますね」
余裕の笑みを見せるとB級から冷汗が流れ、石床に落ちたのでした。




