161 心配させてしまいます
麻袋にスッポリと入れられた自分は、男たちに担がれて乱雑に運ばれます。
「グヒヒ。運がいいぜ。上玉な娘が手に入るんだからなぁ」
「全くだぜ。のこのこと一人で出てきてくれるもんだからな。仕事が楽で助かるってもんよ。がはは」
下卑な笑いが不快に響きます。今すぐにでも始末したいのですが、目立つのは困るのでおとなしくしておきましょう。
「まっ、それでも手間には変わりねぇけどな。あのときウチの奴隷を買ってくれれば、もっと楽だったのによぉ」
「違ぇねぇ。寒いなかを張りつかなくてもよかったんだからな」
都合のいいグチをはきました。会話からに、最後の奴隷商絡みでしょうね。
(チェル様、聞こえますか)
どうにも長く時間がかかりそうなので、連絡を入れておきましょう。父上には外の空気を吸うとしか言っていませんし。
(シェイ、どうかして? 遅いからコーイチが心配しだしてよ)
クスクスとしょうがなさそうにチェル様が笑いました。もう既に手遅れでしたか。父上がオロオロしている姿が目に映るようです。
(みんなに伝えたいことがあるので、メッセージを繋いで下さい)
(お待ちになって……よくてよ)
(父上、聞こえますか)
(シェイか。あんまり遅いから心配したぜ。外は冷えるから早く帰ってこいよ)
自分の声を聞いたせいか、安堵のため息も聞こえました。裏切らなければならないのが、心苦しいです。
(帰りたいのは山々ですが、さらわれてしまいました。少々、時間がかかりそうです)
(そっか。さらわれちゃったら帰れねぇな……ワンモアプリーズ?)
かわいそうに現実逃避をしてしまった模様です。
(具体的に言うと、奴隷商に運ばれている途中ですね)
(ウソだろ。シェイがさらわれるなんて。しかも奴隷商だって。シェイ! すぐにシェイの影を追うんだ!)
叫びの最後にプツンと、通信が切れるような音がしました。チェル様がメッセージを強制終了させたのでしょう。
かなり錯乱させてしまいましたね。もう、聞くに堪えないぐらいです。
(コーイチはうるさいだけだから、キックさせてもらったわ)
(心遣い痛み入ります。力量的には問題なさそうですが、暴れる場所の都合もあるのでしばらくかかりそうです)
(そう。シェイが言うなら間違いないわね。けど、できるだけ早く済ませてちょうだい。コーイチがめんどうで仕方がないわ)
そう言いながらも、父上の反応を楽しんでいますよね。さて、早くすべきか遅くすべきか。
(キヒヒ、さらわれるなんてダッセェなシェイ。おら、なんか言い返してみろよ)
(ザマァないよねー。ヴァリーちゃんだったらそんなヘマしないのに)
(まぁ、あなた達ならそんなヘマしなさそうですね)
その代わり、別のヘマをしそうですけど。問題が起こったら目立ちそうで嫌です。
(シェイ。寂しくなったらいつでもミーを呼ぶ……)
(チェル様)
自分が呼びかけると、プツンと一つのメッセージが切れました。さすがです。わかっていらっしゃる。
(大丈夫だよねシェイ。これが永遠の別れなんて嫌だよ)
今にも泣きそうな震え声。アクアが縋りついてくるようです。
(必ず帰りますよ。こんなことで終わる自分ではありません)
(そうそう。シェイならズバッと敵をやっつけて、ビューンって帰ってくるよ。どんな戦いをしたかは後で教えてね)
(エアは楽観的すぎるのでは。けどその余裕、アクアよりお姉さんらしいですよ)
ある意味では、アクアに見習ってほしいです。
(おみやげよろしくねぇ)
(フォーレは相変わらずですね)
遊びに行くわけではないのですけど。事の重大さがわかっているのでしょうか……いるんでしょうね、きっと。
フォーレのことだって思うと、ため息が漏れます。
(あまり父さんをいじめてやるなよ、シェイ)
(さて、なんのことでしょうか。フフ)
グラスにはバレていそうですね。けど、今さら引くこともできません。自由にやらせてもらいましょう。
(シェイ、気をつけてね)
(はい、チェル様。いってきます)
密談をしているうちに、男たちは目的地にたどり着いたようです。




