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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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160 シェイの油断

 宿の外に出ると、寒い空気に全身が包まれました。地面にはモコリと雪が敷かれています。

 呼吸をするたびに肺のなかが冷えて、はくと白い息が空気に消えてゆきます。

 辺りはすっかり暗く、宿の隣に建っている家すらも闇のベールに包まれていました。夜空には二つの月が輝いています。

「少々寒いですが、心を(しず)めるには静かでいい夜です」

 ドア付近で止めていた足を動かす。一歩ごとにシャクっと足跡をつけながら、宿の周りを歩きます。

 シャトー・ネージュは城塞都市だけあって、外壁が立派でした。規模も大きいので今までとは比べ物にならないほど人も住んでいますね。

 シャクシャクと耳にやさしい足音とは裏腹に、気持ちは鬱々(うつうつ)と沈んでゆく。

 ただ闇の雰囲気も大きく、禍々(まがまが)しい街です。水の都ヴェッサー・ベスにも、ドワーフの村ベルクヴェルクにも闇はありましたが、この都市は比じゃありませんね。

 肌にドロドロと(まと)わりつくような、不快な闇で充満しています。こんな居心地(いごこち)の悪い闇も、あるだなんて。

 ふと都市の中央を眺める。

 夜闇だというのに、月明かりに照らされて堂々と建っている城が明確に見えた。この城が一番豊かで、絶対の場所だと威張っているようです。

 広大な都市ゆえに、貧富の差が激しい。そして差が激しいだけ、不快な闇がドス黒く漂っている。

 足元の雪はこんなにも白いというのに。

 そして奴隷商。顕著(けんちょ)に闇の不快さが表れていた。貧民層(ひんみんそう)を詰め込んで売りに出す場所だけあって、まさにカオス。

 ケーキとカレーとトムヤンクンとニシンの缶詰を、一つの箱に入れてミックスしたような場所と言っても過言ではなかった。

 奴隷の質というべきか、闇もまたピンキリでした。

 犯罪者の奴隷()ちや、お金を失った女性が身体を売っているのはまだいい方。まだ生きる希望があるのだから。

 酷いのは、食い扶持(ぶち)を失って親から切られた子供ですね。トントンと売られたならばともかく、売れ残りは餓死(がし)に直結してしまいます。

 どの奴隷商の人影を探ってみても、むごい死の影がいくつも感じられました。

 人間同士の貧富の差が、あそこまで酷い闇を生み出しているとは。闇に酔ったせいで父上に、(ろく)な助言もできなかった。

 買う側として言うのもおかしいですが、存在していい場所ではないですね。

 奴隷は魔法の首輪によって、買った主人に逆らうことも逃げ出すこともできないようになっています。人は奴隷に落ちた時点で、人ではなくなるようです。

 まぁ買った側が反発を受けては(たま)ったものじゃありませんし、奴隷商の信頼も失うので仕方がないのでしょうけど。

 けど、人間社会がここまで腐ったものとは。想像を(はる)かに超えていましたね。

 角を曲がって歩く。もう一回で宿に戻ってしまう。寒くて、指先なんかは痛いほど冷えている。けど、まだもうちょっと外にいたかった。

 特に、最後の奴隷商は闇が一段と酷かった。しかも、父上に売ろうとしていた男たちは奴隷じゃなかった。

 偽物の首輪。買っても暴れ放題、逃げ放題の状況だった。

 果たしてあの奴隷商は何を考えていたのやら。

 最後の曲がり角に差しかかったとき、ザザザと急いだ足音が耳に届いた。

 こんな夜中に忙しい人がいますね。と思った瞬間、背中から口を塞がれ、力強く抱き上げられてしまった。

 なっ、これは。

 混乱しながら手足をジタバタと暴れさせる。後ろの男に気を取られたせいで、前から近づく足音に気がつけなかった。

「っ!」

 走る勢いをそのままに、男の拳が自分のボディに刺さりました。口を塞がれていたせいで悲鳴すら漏れません。

 グッタリと力を抜くと、男たちは自分を麻袋に入れました。担ぎ上げて、裏路地へと忍び込んでゆくのでした。

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