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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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15 対面させてみる

 グラスの誕生を喜んでから他の母親たちの様子を見て回る。幸か不幸か、誕生の兆しは見られなかった。三人目はまだ少し先だろう。子供は嬉しいけど、立て続けは勘弁願いたい。

 アクアもグラスもしばらくの間、母親が預かってくれるそうだ。手の届くところで世界に馴染ませたいらしい。俺が頼りないと思っているんじゃないかと心配だがな。

「とりあえずは母親任せにしちまうけど、子供同士の初対面は早いうちにしておきたいな」

 チェルの部屋にある丸テーブルで向かい合って座る。

「子供同士の顔合わせ、のんきなことを考えているわね」

 細く(つや)やかな指を組んであごを乗せると、憂いのため息をふーっと吹いた。

「そういえば、実験の詳細について詳しく話したことはなかったわね」

「人間と魔族の子供がどれほどの兵力になるか、じゃないのか?」

 前々から思っていた俺の読みだ。どうせ俺は頭がよくないのでこれ以上の考えはない。

「大体あっているわ。でも、実験といっても興味本位の趣味みたいなものだったの。失敗するならするでかまわない程度のね」

「はっ、じゃあ完全なお遊びなわけ?」

 文字通り身体を張らせておいて。

「最初に言ったと思うけど、コーイチのことはオモチャとしか思っていなかったのよ。多少の思惑はあるけれどね」

 とんでもない本音を聞いたぞ。でもオモチャにするとは言われた気がするし、俺も甘んじて受け入れたからな。こめかみはピクピクしちまうけども。

「んで、思惑って何?」

 俺は顔を逸らしながら、投げやりに吐き捨てる。

「戦力に関しては期待していないけど、人の姿に近ければスパイはできそうでしょ」

 なるほど、人間に近ければ紛れ込ませることも可能か。アクアにはきつそうだが、グラスは身体をマントで隠せばいける。情報収集はバカにならないからな。

「なんだ、ちゃんと考えてるじゃなねぇか」

 感心して視線を戻すと、チェルは俯いていた。

「けどそれだけよ。一番重要な戦力のことを考えていなかったから困っているの。実験が成功してしまっているせいで期待も高まってしまっているし」

 言葉を紡いでいくたびに声が小さくなってゆく。

 やっぱり魔王の重圧は大きいみたいだ。責任を一人で負っちまっている。しかも悶々と悩んでいるうちに、背負った荷物が雪だるま式に大きくなっている感じだ。

「だったらよぉ、子供たちに戦力として期待しちまおうぜ」

「おもしろい冗談を言うのね。もしも魔族に人間の脆さが影響されていたら目も当てられないわよ」

「そこはポジティブに考えりゃいいだろ。ダメだったらダメでいいんだしさ。それと魔族と人間の子供の名称をつけないか。モンスターの娘と息子がいるだろ、娘と息子両方ともムスって最初につくから、モンムスでいいかな?」

 なんだかテンションが乗ってきた。自分でも気づかないうちに声を大きくして相談すると、蔑ん(さげす )だような赤い瞳で見つめられてしまった。

「話がどうでもいいところまで飛んでいったのだけれど。正直、どうでもいいし」

「えっ、気に入らなかったかな。いい感じだと思ったのに。じゃあハーフモンスターで」

 かなりイケてると思ったんだけどな。モンムス。

「どっちでもいいわよ。気に入った方で呼べばいいでしょ」

「じゃあモンムスで」

 ちょっぴり嬉しい。チェルは心底どうでもよさそうに半眼になっているけれども。

「でだ、部下同士が一枚岩っていうのも不安があるし、ここは俺のモンムスたちを早い段階で仲良くさせた方がいいと思うんだ」

 意見はいくらでもあった方がいいしな。全部がおんなじ考えだと、必ず行き詰るはずだ。これは現代社会だろうが魔族社会だろうが変わらんだろ。

「コーイチって夢を追うタイプよね。ある意味尊敬するわ」

 もはや投げやり状態だ。それなら好きにやらせてもらおう。

「じゃあ明日アクアとグラスの顔合わせな。どうなるか楽しみだなぁ」

 どんな反応するんだろ。きっとどう反応してもかわいいんだろうな。

 立ち上がって妄想する俺に、チェルはため息を浴びせたのだった。


 翌日。俺はクラーケンのもとへ、チェルはマンティコアのもとへ向かった。チェルの部屋でモンムス達の初対面だ。

「って、わけでクラーケン。アクアを預かりたいんだけどいいかな?」

「すっごくいい。アクアもコーイチに会いたがってたし、かわいがってあげてね」

 クラーケンにグラスの誕生を教え、顔合わせのことを話すと二つ返事で承諾してくれた。

 水から出てきた二本のイカ足からアクアを受け取る。アクアが手足をきゃっきゃと動かして喜んだ。

「おぉ、ご機嫌だなアクアちゃん。今日は弟と出会うからなぁ」

 今日もやさしそうな青いたれ目がかわいい。ウェーブのかかった青い髪が水に濡れて肌に張りついている。下半身は相変わらずウネウネだけど、だからと言ってマイナスにはならない。むしろいい感じにかわいさが引き立っている。

「じゃ、行ってくるぜクラーケン」

「うん。楽しんできてねアクアちゃん」

 俺は手を振って顔合わせへと向かった。


「というわけでグラスを連れて行きたいのだけれど、いいかしら?」

「チェル嬢がわざわざきてくれたのだ。無下にするわけにもいくまい」

 ご機嫌に手足を振っていたグラスを差し出され、両手に抱きかかえる。私の手に収まった瞬間、グラスは表情を崩して大声で泣き出した。

 口を大きく広げて玉になった涙をいくつも流しながら、金色の髪を乱して暴れる。

「あら、これはどうしたことかしら」

「おい、グラス。すまないチェル嬢。こんなつもりではなかったのだが」

 グラスの不敬をマンティコアが申し訳なさそうに謝罪する。まるで赤子の機嫌一つで地位が落ちてしまうのではないかと恐れているみたいに。

「気にしていないわ」

 子供の気分ひとつで降格させるほど悪政ではないわ。けど、愉快なものではないわね。何が不満なのか知らないけど、逃げるように暴れている。私はそんなに怖いのかしら。

「でも、こうも暴れられると落としてしまいそうで怖いわ。大切なコーイチの子供だから、おとなしくしてちょうだい」

 グラスに語りかけると、ほんの少しだけど収まっているような気がした。言葉に反応してか、或いは疲れただけかはわからないけれども。

 対してマンティコアは緊張に身体を硬直させていた。グラスをあやす言葉が、脅しに聞こえてしまったのかもしれないわね。

「大丈夫よマンティコア。グラスは丁重に扱うわ。借りていくわよ」

「うむ。グラスよ、幹部候補として恥じぬよう、またアクアとやらに舐められぬようにふるまうのだぞ」

 生後一日の聞かせてわかるのかが疑問だ。でもグラスはあう! と大声で答えたのだった。


「ほーらアクア、弟のグラスだぞ。よろしくしようなぁ」

 俺は赤ちゃんでもやさしさが伝わるように、甘い声を出して促した。チェルが正面から気持ち悪いと言った気がする。大丈夫だろうか。体調を悪くしていないといいのだが……と、チェルを心配しておこう。

 チェルの部屋に急遽(きゅうきょ)フカフカのカーペットを敷き、二人を対面させる場所を作った。チェルも向かいからグラスを降ろす。

 さぁいよいよだ。ちゃんと仲良くやってくれるだろうか。それともケンカしちゃうかな。

「あぅ、あー」

 アクアがグラスに興味を持ったようだ。イカの下半身をしているせいでハイハイができないから、匍匐(ほふく)前進でもするようにずるずると近づいていった。

 一方グラスはまだハイハイもできないようで仰向けのまま手足を勢いよく振っていた。

 アクアがグラスを覗き込むように近づく。青くおっとりした瞳で、ネコ科特有のレンズ型の黒目を見つめる。

「おー、いい感じだ。初対面は順調かもな」

「どうかしら。赤ちゃんなんて常に予想外よ。私はさっき体験したもの」

 チェルはグラスに泣かれたらしい。俺も後で抱きたいんだけど、泣かれたくないなぁ。

 心配している間にアクアが手を伸ばした。あぅ、と言いながら小さなてでグラスのおでこを撫でる。

 おぉ、やさしいじゃないか。アクアはいい子に育つぞぉ。あっ。

 感動していたらグラスが握った手を振り回して、アクアの顔に思いっきりヒットした。あっ、みるみるうちに涙目に。

「あぅ! ……う~、うわぁぁぁん!」

「あちゃー、痛かったぁアクア。うん、よしよし」

 泣いてしまったアクアを抱きかかえ、左右に揺らしながらあやした。

 グラスはご機嫌に手足を振っているのだった。

 こうして初対面は意思の疎通ができないまま終わるのだった。

 しょうがないよね。


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