157 寒風の城塞都市
イッコクへ転移してから二年と九ヶ月。イッコクのヘソにきてからは九ヶ月だな。子供たちは変わらずにスクスク育ち、今は七歳ぐらいの見た目に成長している
魔王城一階の骨組みが恐るべき速度で組み上がり、二階より上の骨組みに取りかかっている。
高さの関係でここからが大変だろう。鳥系の魔物が活躍するぜ。
ヴェルダネスは冬が訪れ、農作業も落ち着いてきた。まぁ冬の野菜もあるのだが、そこはのんびり収穫する。
秋の実りが大きいことは喜ばしかったのだが、いかんせん過労で何人も村人が倒れてしまった。
幸い、大事には至っていないのだが、ススキの視線がより厳しいものになったぜ。
圧倒的に人員が不足していることが浮き彫りにでちまった。
遅くても来年の春までには補充してぇぜ。
てっとり早く人を増やす方法をチェルに聞いたら、奴隷を購入する案を出されたぜ。
さすが中世風の異世界。奴隷商も公然とありやがる。
というわけで地下鉄を北へと伸ばし、俺たちは城塞都市へと辿り着いていた。
粉のように白く降りしきる雪に身体を震わせながら、辺りを見渡す。
元より寒い地方と聞いてたからな、俺お手製の防寒着を全員分用意しといてよかった。ちなみに俺は、マイルームにあったユニ○ロの黒いダウンジャケットだぜ。
刺々しい針葉樹森の上から線を一本引いたように、土を均して整備された道路が伸びている。
城塞というだけあって、レンガ製の塀が重く積みあがっている。見上げてみると、点のように小さな何かが動いていた。たぶん見張りの兵士だろう。
重圧な両開きの門が腕を広げるように開いている。都市に入ろうとする人間が列をなしていて、俺たちも列の一部分となっていた。
「でけぇ門だな。二トントラックが並んで入れそうだぜ」
「いっそ二トントラックで並んでる人を轢きながら入りてぇ気分だぜ。寒くてたまんねぇ」
寒さに震えながら物騒なことをほざくのはデッドだ。黒いロシア軍風の帽子に青いジャンパーを着込んでいる。
「今回ばかりはデッドに同感ね。いつまで私を待たせるのかしら」
不愉快に門を眺めながら同意したのはチェルだ。黒のキャスケット帽に赤いロングコートを羽織っていた。
「まったくもって厄介な寒さだね。見給え、周りにいる女性たちを。みんな服を着込んで露出のろの字もないじゃないか」
シャインがどうでもいい演説をしやがった。黒のライダージャケットを装着している。
「父上、シャインを脱がしていいですか。さすがに凍死なら蘇生もしないでしょう」
黒い瞳に殺意を込めてシェイがお願いしてきた。どてらを着込んで、ほんわか温かそうだ。会話内容は殺伐だけどな。ちなみに見えないが、腹巻も巻いている。
「シェイは相変わらずだねぇ。あたいはなんだかぁ、眠くなってきたよぉ」
「寝ちゃダメだからね。フォーレ」
ウトウトしだしたフォーレの頬を、アクアがペシペシ引っ叩いた。不満の声が上がる。
フォーレはホントに寝そうで怖ぇよ。宿に着くまで堪えてくれよ。
願いながら見下ろした。緑のダッフルコートにニット帽を被っているのはフォーレ。アクアは水色のポンチョに白のコサック帽、青いマフラーを首に巻いていた。
「運動さえすれば薄着でも耐えられる自信があるけど、じっと並ぶのはツラいな」
グチを漏らして仁王立ちするグラス。青のツバつきニット帽に迷彩のつなぎを着ていて、青のネックウォーマーを首につけている。
「でもでもー、夢は広がるよねー。凍った湖があったらスケートができそうだもーん。ヴァリーちゃんも氷上の妖精になるんだー」
フィギュアスケートを彷彿させながらヴァリーがクルクル回って跳んだ。白いラビットコートに黒タイツ、クマさんの帽子を被っているぜ。手は白ミトンを装着している。
「いいねヴァリー。ウチも滑りたいな。父ちゃん。スケート靴って開発してある?」
期待に満ちた黄色い瞳をキラめかせて、エアが見上げてきた。子供たちのなかで一番異彩を放つ防寒着を着ている。黄色いペンギンの着ぐるみに、同色のマフラーだ。
「開発はしてあるぜ。場所が見つかったらみんなで滑るか」
ヴァリーとエアの歓声が重なったぜ。
微笑みながら列の進捗を確認する。大半が馬車だが、徒歩の人もチラホラいるぜ。
たまに順番を無視して進む豪華な馬車があって、そいつは待たされることなく都市へ入っていく。
貴族かなんか知らんが、偉い人だろう。権力者の特権が羨ましいぜ……勇者もそうなんだろうな。
「ところでコーイチ」
「なんだ。改まって」
「この城塞都市は、なんというのだったかしら?」
退屈だからか、チェルが問題を出してきたぜ。いつもだったらアタフタするが、今回は事情が違ぇぞ。
「城塞都市『シャトー・ネージュ』だろ。さすがに答えられるぜ」
得意げに鼻を鳴らすと、白いため息と呆れた赤い視線が返ってきた。
「はぁ。コーイチが答えられるほど待たされているのね。それとも、ようやく答えられたのかしら」
列に並んでから十回以上は問われていた問題だ。さすがに何回も間違えていれば、答えらるわなぁ。
そんなこんなで長い時間をかけて門へと辿り着き、兵士に奇異の目で見られながら都市へと入ったぜ。
ちゃんと通行料も払った。チェルに出してもらったんだけどな。




