155 収穫祭
あたしはそよ風をあびながら眺めていた。黄土色のサイドテールがゆらゆら揺れている。
視界には、畑いっぱいに農作物が広がっていた。小麦色に染まっていながら、頭を重そうにたらして風に揺れている。
「これが、お米って食べ物」
魔王コーイチがこれだけは作れっていった作物。
半年前まで荒れ地で、作物を育てようとも思わなかった土地なのに。
視界を遠くすると、緑豊かな農業地帯が眺められる。木々には甘い果実が丸々と実っていて、畑は青々と葉が密集していた。
村のみんなが声を上げて喜んでいる。長老も、おじさんやおばさんも、普通なら出稼ぎしているお兄さんたちも、お父さんも。
明るい笑顔で喜びを分かち合っている。これで冬を越えられるって。もう躍る勢いだ。コーイチの魔物に監視されているのに。
みんなわかっているの? この農作物の半分を、コーイチが持っていこうとしているんだよ。
絶対に食べきれない量なのに、侵略したからって理由で贅沢に持っていくんだよ。あたしは悔しいし、嫌だよ。
指図するだけで働きもしないやつらが、楽してご飯を食べるだなんてさ。
それに収穫だって大変だよ。この前、野菜の収穫をしたときもそう。
腰を痛めた人が何人もいたし、ぎっくり腰で大変になったおじいちゃんだっていたんだから。
しかも大々的な収穫祭なのに、あの魔王は顔を出さないし。それどころか家族と旅行しているだなんて、ふざけすぎ。
半年前に植えた怒りの種が、ムカムカ育って収穫期って感じ。
別にあのヘラヘラした情けない顔を見たいってわけじゃない。
普段は散歩でもするようにのんびりと村を見て回っているっていうのに、いざというときにいないだなんて無責任すぎる。
いいよ。そのまま一生、戻ってくんなだよ。
そんな働いてない暇人みたいな魔王なのに、どうして村のみんなはあんなのに感謝しているの?
村を監視して回っているときだって、村の人から笑顔でコーイチに話しかけているし。場合によってはお茶菓子なんかもあげている。
みんな、もうすっかり洗脳されてしまったんだ。
この収穫祭だってそう。作物を取りきるまで働けって言っているようなものだよ。
眺めても景色に収まりきらない量をさ。そうやって村のみんなを苦しめているんだ。
だから、あたしだけは騙されない。
いつか、いつか絶対にコーイチからみんなを助けてあげるんだから。
ためらいなんて、絶対にないんだからね。




