153 約束
鉱山で見つけたヘソクリは予定外だったぜ。お宝には違ぇねぇが、できれば原石を掘りたかったぜ。
けど、収穫はあったんだ。これでよしとすっか。
隣を歩くアイポを見ると、手元の金貨をもてあそびながらニヤニヤしてやがんぜ。そこまで金に困ってたんか?
僕は何気なく金貨を指で弾きながら歩いた。
ツルハシを元の場所に立てかけて鉱山を出る。ずっと暗い所にいたせいか、目が眩むぜ。
「眩しっ。長く鉱山に潜っていたつもりだったけど、まだそんなに経ってみたいだねー。デッド、これから何しよっかー」
ピンクの目を細めながら、顔を向けてくる。
「僕はそろそろ帰るぜ。一人で隠れて単独行動してっからな。バレる前に戻るつもりだ」
えっ、て口をあけると、萎れたように目を逸らしたぜ。
「もともと家族旅行で来てたんだけどよぉ、つまらなそうだったからコッソリ抜け出したんだよ。それに冒険におあつらえな鉱山があんだぜ。侵入するしかないっしょ」
ニヤつきながら同意を求める。退屈な観光旅行なんてまっぴらだかんな。
「もー。デッドってば勝手なんだからー。でもわかる気がするー」
「だろ。まっ、短い間だったけど、楽しい冒険だったぜ」
一人で楽しもうと思ってたけど、アイポと一緒も悪くなかったな。
「後は、人に見つからねぇように村を抜けるだけだな」
「あれ、村の外まで行くの。てっきり宿から抜け出したと思ってたけど」
不思議そうに眉をひそめながら、首を傾げた。
「キヒヒ。さっきも言っただろ、僕らは魔王になるって。ベルクヴェルクは将来の侵略予定地だぜ」
「侵略するんだ。ちょっと信じられないなー。今までこの村は魔族に襲われなかったから」
「そこは、魔王にも事情があんじゃねぇのか。アレコレめんどうなやつがよぉ」
侵略のバランスとか人類が逆転する糸筋とか、そういうもんを残さねぇといけねぇからな。詳しく説明しても、アイポにゃわからんだろ。
頭をかきながら眺めるも、納得は全くしてない様子だぜ。
「まっ、そんなわけで視察しにきたってわけだ。隠密にな」
ジジイもめんでぇことに巻き込んでくれんぜ、全くよぉ。
「ふーん。よくわからないけど、デッドも大変なんだねー」
「だろ。わかってくれっか」
「まあねー」
生意気にもアイポはニヒヒと、めんどう見がいいお姉さん風に笑いやがった。
テキトーな相槌かもしんねぇが、嬉しいもんだな。味方がいるって。
「それとさー、村の外までわたしが案内してもいい。人目のつかない場所、知ってるよー」
「ケッ、余計なお世話だ……って言いたいとこだけどな。どうせだからつき合ってやんよ」
このまま別れんのも名残惜しぃしな。
「もー、素直じゃないんだからー」
「っ痛。やめろバカ」
機嫌よく笑って、バシバシと背中を叩いてきやがったぜ。ガチで痛ぇんだからな。背中に手形がつかなきゃいいけど。
テキトーに巡回するドワーフの視界を、建物に隠れたりしながら村の外に出たぜ。ぷちメ○ルギアごっこだな。
周囲は木々が生え揃っていて、緑の葉や草が生い茂ってやがんぜ。かといって空気が澄みきっているわけじゃねぇ。鍛冶場の、鉄の臭いが混じってやがる。
アイポに案内されるまま村を出たけど、悪くねぇ脱出経路だったぜ。
「ありがとな、アイポ。もう充分だ」
「うわっ、珍しー。デッドがお礼を言ったよー」
よほどビックリしたのか、瞳孔を小さくして身体をのけ反らせやがった。
「そんな驚くもんか? まぁいいけど」
どうもやりにきぃ、思わず頭をガリガリかいちまうぜ。
「で、わたしはこれ以上進んじゃいけないんだよね」
「まぁな。ってか、気づいてたのか」
得意げに、まあねーと返しやがった。何気に勘が鋭いじゃねぇか。ちっと舐めてたかもな。
「まっ、今更どうこうするつもりもねぇよ。誰かに喋ったところでどうこうなるとも思わねぇし」
アイポは六歳のガキだかんな。大人……それもドワーフが気に留めることもねぇだろ。アイポ自身は油断できねぇけど。
思わず苦笑しちまったぜ。
「別に喋らないよ。わたしもあの村、嫌いだから。ねぇデッド。手に入れた金貨、大切に持っていようね。約束だよ」
「この金貨か?」
パーカーのポケットから金貨を取り出して、手のひらに乗せた。
なんの変哲もねぇ金貨だし、思い入れもねぇんだけどな。
微妙に思いながら、アイポの表情を覗く。真剣に僕の金貨を凝視してやがんぜ。行く末を心配してんだろぉな。
「わぁったよ。大切な宝物にしてやんぜ」
強く握りこむと、アイポがニンマリと満足そうに笑ったぜ。
「ありがと。いつかまた会ったら、お互いの金貨を交換しようね。絶対だよ」
「勝手に条件を増やすんじゃねぇよ。お安い御用だけどよぉ」
「うん。じゃあわたしは、村に帰るね。またねー」
アイポは小さくてやわらかそうな手を元気よく振ると、勢いよく走ったぜ。
途中で止まって振り向いたから、僕が手を振ってやる。それで正解だったのか、アイポは微笑みながらもう一回手を振った。そして今度こそ村へ走っていったぜ。
「ドワーフのクセに、忙しいやつだぜ。ンじゃ、僕も帰るか」
ため息をついてから、踵を返したぜ。




