表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
153/738

152 憧れの象

 アイポと並んで坑道を歩いていたら、広い空間に出たぜ。横穴がたくさん開いていて、それぞれにトロッコと線路があるぜ。

 ただ、入り口の線路は広場で途切れやがるんだよな。

「ンだよ、妙に効率が(わり)ぃな。線路切り替えとかの技術はねぇのか」

「デッドは切り替える方法を知ってるの?」

「そういや知らねぇや。調べりゃどうにかなるだろうけどな」

 ググるって言っても、アイポにゃさっぱりだろ。

「なんだ、(えら)そうなこと言ってデッドも知らないじゃん」

「うっせ、殺すぞ」

「デッドが怒ったー。捕まると殺されちゃーう」

 ドスのある声を出して睨みつけると、おちょくるようにキャーキャー悲鳴を上げながら広場へ走っていった。

 イラつくことしやがって。僕が殺しかけたことを忘れてんじゃねぇのか。

「ところで、さっきから人影がねぇのが気になるな。もっとこう、隠れながら侵入するスリルも感じてぇんだけど」

 頭をかきながら広場に入り込むと、アイポが逃げる足を止めてクルリと振り向いた。髪が(なげ)ぇからよく揺れるぜ。

「今日の鉱山はお休みの日だからねー。誰もいないと思うよー」

「どおりで。手間(てま)(はぶ)けたというか、拍子抜(ひょうしぬ)けというか」

 ちょっと残念かもな。ん?

 ツルハシが一つ、壁にもたれかかってやがるな。

「キヒヒ。片づけ忘れたのか、それともズボラなやつでもいるのか。とにかく運がいいぜ」

「デッド、どうしたの」

 僕がツルハシを拾いにいくと、アイポが近づいてきやがった。

「なんだよ。よく見るとボロボロじゃねぇか。でも少しは使えるだろ。せっかく鉱山に入ったんだ。宝石堀りの真似事(まねごと)でもしようと思ってな」

「わぁ、おもしろそー。見つかったらわたしにくれない」

 ピンクの瞳を輝かせてお願いしてきやがった。

 どうすっかなぁ。見つけたらヴァリーのお土産にしようと思ったんだけど……まっ、いっか。

「見つけたらな。期待はすんなよ」

「やったー。ありがとーデッド」

「うおっ、抱きついてくんなバカ」

 背中から温かくてやわらけぇ感覚に包まれたぜ。クセッ毛がチクチクとくすぐってぇし、()れねぇっての。

 ジタバタしながら引きはがそうにも、変に力が強いせいでなかなか振り払えねぇ。

 不意に、遠くからジャリっと足音が聞こえてきた。

「やべぇアイポ。離れろ。人が()っぞ」

「えっ、やだ」

 束縛(そくばく)(ゆる)まった隙をついてアイポをはがす。顔を見ると慌ててんのか真っ赤に染まってやがったぜ。

「あっちの岩陰に隠れっぞ。急げ」

「えっ、あっ……うん」

 プニッとした腕をつかんで走るぜ。手を握ったまま岩陰に背中を預けて、荒い息を潜めながら耳を澄ます。

 奥歯に力が入っちまう。心臓がバクバクして身体を突き破りそうだぜ。

「……ここにもないか。確かこのあたりに忘れたと思ったんだけどな。まぁいい。ちょうど替えどきのツルハシだったからな」

 野太(のぶと)く小さなボヤキを漏らすと、重い足音は出口の方へ遠ざかったぜ。

「ふぅ。ヒヤヒヤさせやがって。寿命(じゅみょう)(ちぢ)んだらどうするつもりだっての。大丈夫か、アイポ」

 手を放して確認すっと、あって残念な声をあげやがった。スリルでも満喫(まんきつ)してたのかもな。何気にふてぇやつだ。

「あっ、うん。大丈夫だよー。そのツルハシ、さっきのおじさんのみたいだねー」

「あぁ? 探しもんはコレかよ。間抜(まぬ)けなやつ。まっ、諦めたみたいだから戻ってこねぇだろ。奥いこうぜ」

 ツルハシを肩に担いでから、テキトーな横穴を選ぶぜ。首をクイッとやって促す。僕が先に歩くんだけど、アイポはなかなかついてこなかった。

「どうした。置いてくぞ」

「あっ、待ってよデッド」

 振り返ると、慌てたように駆けてきやがったぜ。

「薄暗いから転ばねぇように気をつけろよ。アイポはドンくさそうだかんな。キヒッ」

「あー、バカにしたなー。許さないぞー」

「やっべ、(たた)かれる。逃げろー」

 握った両手を上げてカンカンに怒ってくるアイポに背を向け、僕は横穴へと駆け込んだぜ。

 しばらく道なりに(おに)ごっこが続く。

「まっ……待てー」

 苦しそうにゼェゼェしてやがんのに、しぶとく追いかけてきやがんな。根性(こんじょう)だけは(みと)めてやんぜ。止まってやんねぇけど。

「誰が待つかよ……ん?」

 ヘビがゆったりクネるような一本道を逃げていたら、不意に岩壁が気になって足を止めたぜ。

「なんだ。妙に気になんな」

「やっ、やっと観念(かんねん)したなー。怒りの鉄拳(てっけん)を食らわしてやるんだからー」

「ちょいタンマ」

 足をフラつかせながら追いついたアイポを、僕は壁を眺めたまま手で(せい)す。

「何よ。ごまかす気」

「いいから。ここ、ちょっと掘ってみようと思ってな」

「ここ? 変な所で掘るねー」

「まぁな。危ねぇかもだからちょっと下がってろ。いくぜ」

 アイポがうんと返事して距離をとったのを確認してから、気合を入れたぜ。

 ツルハシを両手で持って、勢いよく振り下ろす。ガッとした音と同時に、両手から衝撃が身体に響いた。

「うおっ、意外と響くな。一回で削れる量も少ねぇし、こりゃ時間がかかるぜ」

「ファイトー。わたしは金の原石(げんせき)がほしいなー」

余計(よけい)注文(ちゅうもん)つけんじゃねぇ」

 文句を力に変えて、ツルハシを振るう。しばらくはカッ、カッて掘る音と衝撃の連続だぜ。

「そういえばデッドの夢って何?」

「いきなりだな。どうしたんだよ」

「だって(ひま)なんだもん」

「ケッ、こっちは忙しいっての。まっ、答えてやらねぇでもねぇけど。僕の夢はなぁ……」

「待って、わたしが当てるね。ズバリ勇者になりたい、でしょー」

「あぁ、勇者?」

 僕が手を止めて振り向くと、壁に背を預けて体操座りしてやがった。愉快(ゆかい)そうに口が弧を描いていて、期待に輝いたピンクの瞳で見上げてやがる。

図星(ずぼし)でしょ」

 自身に満ちあふれた笑みだぜ。正反対(せいはんたい)もいいとこだがな。

「勇者はかっこいいもんね。男の子はみんな憧れてるもん。弱き者を守って、凶悪(きょうあく)強大(きょうだい)な魔王を倒すんだよね」

「ハズレ。むしろ僕は……いや僕らは魔王を目指してんぜ」

 え? っと意外そうな声を耳に入れながら、作業を再開する。

「聞こえなかったか。魔王だよ。人をたくさん殺して、世界に絶望(ぜつぼう)の闇を()()らすんだ。キヒヒ。いい趣味(しゅみ)してんだろ」

「うっわー。デッドてば悪い子だよー。怖いし。けどデッドらしいね」

 ンぁ? 案外あっさり受け入れやがんな。

「わかってんのかアイポ。テメェも僕の標的だぜ」

「わかってるよ。さっき殺されかけたもん。すっごく怖かったんだからねー」

 (うら)みがましい文句を背中からぶつけてきやがった。遠慮(えんりょ)って言葉を知らねぇんじゃねぇか?

「でも、もしホンキで侵略するつもりなら、わたしを一番に殺してほしいなー」

「ンだよ。自殺(じさつ)願望(がんぼう)でもあんのか」

「まさか。でも僕らって言うからには、兄弟みんなでやるんでしょ。だったら、デッドの手で殺されたいかなー」

「ケッ。メルヘンなやつ……おっ」

 掘っていた手応(てごた)えが変わった。音もどこか(にぶ)かったし。こりゃ当たりかもな。

「なんか出るかもしんねぇぜアイポ。おうりゃ!」

 気合を込めてツルハシを振りぬくと、岩壁が音を立ててボロボロ崩れやがった。とっさに後ろに跳んだから、被害はねぇぜ。

「デッド、大丈夫」

 モクモクと上がる土煙を眺めてっと、アイポが思わずといった感じに駆け寄ってきやがった。腕をつかんで顔を覗き込んでくる。

「問題ねぇよ。それよりほら、宝物だぜ」

「あっ、ホントだ。すごーい」

 横穴にはボロい木箱がチョコンと置いてあったぜ。

 近づいて箱を開けると、金貨が大量に入ってやがった。けど、コレは……

「すごーい。金ピカ。これ全部、見つけたわたしたちの物かな?」

「いや、やめといた方がいいと思うぜ。たぶん、誰かのヘソクリだからよぉ」

 キョトンとしながら、ヘソクリ? と首を傾げた。

「どう考えても、がめついバカが隠した宝だ。持ってくにしても、金貨一枚が無難(ぶなん)だぜ。ほらよ」

 金貨を持って指で弾くと、ビィィンと回転しながらアイポの手へと納まっていった。

「えっと、いいのかな?」

「魔王らしからぬ、せこい(ぬす)みだけどな。僕が盗んだんだから気にすんな。一枚や二枚はバレっこねぇよ」

 僕もニヤつきながら金貨をポケットにしまったぜ。

「二人だけの、秘密の宝物だぜ」

 アイポは口を開いて驚い(おどろ )たが、じんわり破顔(はがん)すっと飛びついてきやがった。

「うおっ」

「うん。ありがとデッド。大事にするね」

「そいつはいいけど、いちいち飛びかかってくんじゃねぇ。うっとおしい」

 なぜか上機嫌のアイポは、なかなか離れてくれなかったぜ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ