151 復活する探検心
鉱山のなかは入口の形に添って伸びてやがる。トロッコのレールも絶えず敷かれてっぜ。坑内は木材で補強された部分と岩壁の部分が交互に続いてやがる。強度的にはこの間隔で充分なのかもな。
「キヒッ。いいじゃねぇか。ゴツゴツしたむき出しの岩壁が雰囲気だしてっし」
明りの魔法も使われてっけど、妙に薄暗ぇな。間隔も遠いから影ができてっし。けど、悪くねぇ。
「いいねいいねぇ。この、物陰からなんか出てきそうな薄暗さ。冒険って感じがしてくるぜ」
僕は奥に向かって一歩ずつ進んでいく。後ろからグスグスついてくるすすり泣きを聞きながら。
「ンで、テメェは何で僕についてきてんだよ」
振り返ると、涙を手で拭いながらグズついてるドワーフの娘がいた。
「グズっ……何よ。邪魔するなとは言ったけど、ついてくるなとは言ってないじゃない」
潤んだピンクの瞳で、ウーって唸りながら睨みつけてきやがった。
コイツ、あれだ。なんとなくだけど、雰囲気がヴァリーに似てやがる。
「ケッ、僕は何でついてきてんのか聞いてんだよ。質問に答えやがれってんだ」
「いいじゃん。わたしの勝手でしょー。一人きりでいるのは寂しいんだからねー」
意地になって叫び返してきやがった。キーキー声が耳にうるせぇ。
「だったら家に帰りゃいいじゃねぇか。テメェにも家族がいんだろ」
格ゲーに出てくる軍人っぽいセリフだぜ。一度使ってみたかったけど、今回は意識してなかったな。
「嫌だよ家族なんて。遊んでって言っても遊んでくれないしー。ちょっとしたことでうるさいって怒るんだよー。ドワーフだったら静かにしろって。もーやんなっちゃう」
頬を膨らましながら文句をぶつけてきやがった。上目づかいで睨んできやがる。けど、気持ちはすげぇわかるぜ。
「ンだよ。テメェも苦労してんだな。僕のジジイも似たようなもんだぜ」
「そっちもそうなの」
驚いたのか目を大きく開いて振り向いた。
「っていうか、おじいさんなのー」
「いや、父親だ。僕はジジイって呼んでっけどな」
ジジイなんてジジイで充分だぜ。
「そのジジイが最悪でよぉ。テメェは何もできないお荷物のクセに、僕らには働け働けって命令してきやがんだぜ。身の程をわきまえろってんだ」
「うわー。子供を働かせるなんて酷いお父さんだね。あれ、僕らってどういういこと」
首を傾げるとモサッとしているピンクの髪が揺れたぜ。
「あぁ、兄弟がいんだよ。七人な。僕は六番目で三男だぜ」
「兄弟多っ! けど下の方なんだね」
いちいちオーバーに反応しやがるぜ。ってか、普通の家庭って何人ぐらい兄弟いんだ?
「放ってけよ。生まれる順番を選べたんなら長男になってるぜ」
「威張り散らすお兄ちゃんになりそう。弟でよかったかもね」
「うっせぇっての」
軽口の叩き合いが妙に楽しぃ。案外、気が合うのかもしんねぇな。気がつくとドワーフの娘も笑ってやがるぜ。さっき殺しかけたばかりだってのにな。
「デッドだ」
「えっ?」
「僕の名前だよ。かっこいいだろ」
自慢げに笑うと、腕を組んで首を傾げやがった。
「んー、よくわかんないや。わたしはアイポだよ。よろしくね、デッド」
一輪の桜が咲いたように、やさしげな笑顔で手を差し出した。
「変な名前だな。まぁいいや、よろしくなアイポ」
感想を漏らしたら口をへの字にしやがったぜ。けど気にしねぇ。小さくやわらかな手を握って、ガッチリ握手をした。
ギチギチと手が握りつぶされてゆく。人差し指から小指の骨が入れ替わりそうなほど圧縮しやがる。
「痛ぇよバカ! 首絞めてるときも思ったけど、どんな握力してやがる。もっと手加減しやがれ」
骨を砕かれる危機感を感じて、思わず手を振り払っちまったぜ。ドワーフって子供の頃から力強ぇのかよ。
「あはは。デッドてば、弱ーい。変な名前って言ったバツなんだからねー」
「アイポが強すぎんだっての! 何歳でその力がだせんだよ」
「六歳だよー。デッドは?」
へぇ。アイポは六歳なのか。そういやジジイは僕の見た目が六歳程度って言ってたな。
「僕も六歳ぐらいだ。でも驚いたぜ。僕より年下に見えたんだけんな」
ホントは一歳半なんだけどな。言っても信じねぇだろぉけど。キヒッ。
「ブー。背が低いのはドワーフのせいだもん。わたしだってボンキュッボンになりたいもん」
からかうとまた頬を膨らましやがった。いいね、飽きねぇ。ドワーフでありながらヴァリーと同じ願いをもってやがるとはな。
「キヒヒ。なれるといいなぁ。ボンキュッボンにさ。キヒヒッ」
「絶対になれるって思ってないなー。笑うなー」
笑ってたらポカポカ殴ってきやがったぜ。痛みが結構シャレにならないけど、こういうのも悪くねぇ。
「わかった。僕が悪かったからもう叩くな。地味に痛ぇんだからな」
「やめてほしい? だったらアイポのことかわいいって言って。そしたら許してあげる」
「はぁ、なんでそんな」
ポカポカ。
あぁ、もうウザってぇ。どうにか止めねぇと。
僕がガバっと抱きしめると、きゃっと悲鳴を上げた。
「わぁったから。アイポはかわいいよ。ちっこくて、つい抱きしめたくなるぐらいだ!」
ドキドキしながら止まってくれるのを願う。頼むぜ。
何秒か抱きしめたままアイポの動向を見守る。
「……わかった。許してあげるね」
助かったぜ。
ホッとして身体を離す。顔を見ると、頬を赤く染めてやがったぜ。
変なやつ。風邪かなんかかもな。




