149 武器と職人
デッドを除いた全員でドワーフの村ベルク……まぁいいや。そのうち名前を覚えれるだろ。に向かう。
ヴァリーがプンスカと不機嫌なのが気になるな。何か気が紛れることでも起こればいいんだけど。
「コーイチ、復習よ。この村はなんというのかしら」
いざ村に入ろうというタイミングで、チェルが抜き打ちテストをしかけてきたぜ。
「卑怯だぞ。不意打ちをかますなんて」
この仕打ちはあんまりだ。訴訟も辞さない。
「ベルクヴェルクよ。たまに聞くから、完璧に答えられるようにしておきなさい」
「あっ、はい」
電気をピリピリ纏いながら脅すのやめてもらえません。次どうなるかが怖いんだけど。
とにかくベルク……ヴェルクに入るぜ。よく記憶から飛んでなかった。えらいぞ俺。
無言で小さくガッツをしたら、チェルの嘆息が返ってきたぜ。子供たちの空気を読むような笑いが、俺のメンタルにトドメを刺してきやがる。
そろそろ泣いちゃうぞ。
「もー、早く行こうよみんなー。デッドが追っかけてきても追いつけないぐらい早くさー」
先頭にいたヴァリーが振り向くと、地団駄を踏んで急かしてきた。
「わりぃわりぃ。新しい村に入るのって緊張しちまって」
「もー、パパってばヘタレなんだからー」
頭をかきながら言い訳すると、プンとそっぽを向いた。拒絶するようにベルクヴェルクへ走っていったぜ。
やれやれ。だいぶ、おかんむりだな。機嫌がこれ以上悪くなる前にどうにかしねぇと。
ヴァリーが一番乗りで到着すると、外を歩いていたドワーフたちが首を向けてきたぜ。
髭がモッサリしていて、ずんぐりむっくりな体形だ。なかには眉毛が濃すぎて目が隠れているやつもいるぜ。
「こんにちわー。初めましてー。ヴァリーちゃんだよー」
赤いドレススカートの端をつかんで、丁寧にお辞儀をした。独り舞台に立ったかのようだぜ。だけどドワーフは首を戻すと、何も喋らずに行動を再開した。
「ちょっとー。少しは反応しなさいよー。かわいいヴァリーちゃんが登場したんだからねー」
マジかよ。ヴァリーが完全に無視されやがった。
歩いて追いつくと、肩が悔しそうにフルフル震えていたぜ。
「あっちゃー。失敗しちゃったな。けどかわいかったぞヴァリー。ドワーフにはもったいないぐらいだ」
ツインテールに結んでいるパーマのかかった赤い髪を、ポンと後ろから撫でてやる。
ドワーフにケンカを売ったことにならなきゃいいけど。
「もー、最悪。ドワーフにはヴァリーちゃんのかわいさがわからないのかなー」
悔し紛れを、周辺に聞こえるほど大声で放ちやがった。怒っているのはわかるけど、相手のことも考えてほしいぜ。
「だな。職人気質だといろいろ捨てちまうもんもあるんだろ。さ、気を取り直していこうぜ」
俺はただ、苦笑いを返すのが精いっぱいだった。
「ここは武器屋かな。看板からのイメージだけれど」
二本の剣が交差した、鉄製の看板が玄関の上にかかっていた。
「きっとそうですよ。俺も少し、興味があります」
「私はやっぱり、槍を見たいな」
グラスとアクアが興味津々に店を眺める。木造建築で看板がある以外では、ドアが広いのが特徴だな。
パッと見、民家のドアは低い。背の低いドワーフしか使わないことが前提だから、余計な高さは要らないんだろうな。
「じゃぁ、入ってみよっかぁ」
「どんなとこだろ。楽しみだな」
家族総出で入っていく。棚には剣や槍、斧などの武器が立てかけられているぜ。
「らっしゃい」
奥の方から野太い声が響いてきた。カウンターにいるのもこれまたドワーフだ。まぁ、当然なんだが。
「あっ、どうも」
軽く会釈を返す。つかみどころがない人だぜ。コミュニケーションはとれるのか?
「いい武器ですね。参考になります」
「はは、そんな無骨な武器よりも、ミーの槍の方が……」
「へし折ってやりましょう。ゆでたウインナーみたいに」
シェイ、シャレになんねぇからそれ。シャインもいいかげん、学習してくれやマジで。
男としてあまりにも致命的なことに肝を冷やしながら、店内を見渡す。
んっ、隅の方に傘立てのような樽が置いてあるな。武器が無造作に入れてあるぜ。
扱いが雑だから失敗作……とまではいかないけど、完成度が中途半端な商品なのかも。
「おい、そこのお前」
家族で和気藹々と冷やかしていたら、カウンターから話しかけられちまった。
「なんですか?」
「ここは見世物小屋じゃねぇぞ。武器を使わないならとっとと出てけ」
親指を出口に向けながら、睨みに殺意を込めてきやがった。
やべ、冗談抜きで殺されちまう。
「みんな。充分見たよな。そんじゃ、次行こうぜ」
子供たちは不満がありそうに見上げてきたが、素直に従ってくれたぜ。
結局ベルクヴェルクでは一日中、どこに行っても堅っ苦しかった。




