148 ドワーフと鉱山地帯
イッコクヘ転移してから二年半。イッコクのヘソにきてからは半年だ。子供たちの外見は六歳ぐらいまで成長したぜ。
俺の魔王城は地下室が完成し、一階の建築に取りかかっている。
ヴェルダネスの方は、農作物の収穫期が迫ってきているな。村人と魔物との関係も円満だし、収穫物の多さにテンションは最大限だぜ。
忘れ去られた村とは思えないほどだ。
荒れ果てた大地はフォーレの手によって、緑が豊かな農業地帯に早変わり。休憩用の木陰を適度に作り、村人が作業をしやすいよう、環境を整えました。以上、某ナレーション風。
まぁ、今は紅葉の季節だからな。枯葉が舞い、どことなく郷愁漂う雰囲気だぜ。これもまた一興だ。
景色を楽しめるようになったのはいいんだが、人員が足りないのがネックになってきている。早い段階で補充をしなきゃいけねぇ。
テキトーなところにちょうどいい人間でも落ちてないかねぇ。
まだまだ課題がたくさんあって大変だわ。
そして地下鉄だが、イッコクのへそより遥か西にあるドワーフの村へと開通した。
「いやー。意外と木造の家が多いな。もっと洞窟のなかとか、ゴツゴツしたところに住んでんだと思ってたわ」
俺は手で庇を作って、遠くから見下ろしていた。
なだらかな山間にある静かな村だぜ。ガッシリした木造の家が多いが、壁の一部が石やレンガ積みになっているところがある。
煙突も他の地方より多い気がする。俺独断の当社比だけどな。モクモクと白い煙も上がっていた。
「あの煙、武器を作っているのか」
「きっとそうだと思うよ。普通の槍ってどんなのか気になるなぁ」
グラスの疑問に、アクアが興味をもちながら答えた。
俺はチェルと子供たち全員で、開通記念に観光にきていた。
村の隅にはトロッコの線路が敷かれていて、鉱山の横穴に繋がっている。
周囲には木々も生え揃っている。涼しい季節だってのに、緑の葉っぱで生い茂っているぜ。薪に困ることもなさそうだな。
自然が豊かなんだけど、空気に鉄の臭いがほんのり混じっている。
きれいな湖まであるからな。鍛冶をするにはうってつけなんだろう。
「鍛冶と酒以外に娯楽のなさそうな村って、来る前は思ってたな。のどかで雰囲気がいいじゃねぇか」
子供たちにはまだ早ぇし、ドワーフ相手に酒は危険な香りがするけどな。ジョッキ……下手すりゃ樽でガバガバと量を飲むイメージしかねぇ。
不意にチェルの横顔を覗くと、赤い目を閉じて嘆息した。
「鉱山の村『ベルクヴェルク』。ドワーフの隠れ家であり、数多くの名剣が生まれる村よ。どうせ覚えてなくてでしょう」
「さすがチェル。よくわかってるぜ」
ドヤ顔でサムズアップを返したら、そっぽを向かれちまったぜ。
「ハッ、これだからオヤジはダメなんだ。女性の機微のなんたるかをまるで理解していない」
呆れたジェスチャーをしながら首を横に振るシャイン。お前も俺とドッコイドッコイだと思うぞ。
「シャインの戯言は放っとくとしてだ、あの丸っこいのがドワーフかよ」
「ヴェッサー・ベスの人間に比べて小さいねー。おヒゲもボーボー。でも、ムッキムキだねー」
デッドどヴァリーの視線を追うと、感想通りのドワーフが歩いていた。白くてパンパンの服にズボンと、涼しい格好だぜ。
「シャイン、見てください。逞しい筋肉ですよ」
「目がっ、目がぁぁぁ!」
シャインにとっての男の筋肉はバル○並みの威力を伴っているのかよ。オーバーすぎるだろぉが。
「うーん。シャインにはぜひとも男を克服してほしいな。フォーレ、なんかいいお薬とか作れない」
「何ともいえないなぁ。男嫌いが治るよりもぉ、身体が先に壊れちゃうかもぉ」
「仕方ないや。背に腹はかえられないね」
エアとフォーレが不吉な相談してんだけど。シャイン。早くどうにかしないと、娘たちに身体から壊されるぞ。
「せっかく来たんだ。のんびり村でも観光しようぜ、みんな」
俺が促すと子供たちの元気な声が返ってきた。チェルもやれやれと微笑み、仕方ないとつき合ってくれる。
「ケッ、つまらなそぉな場所だな。僕は留守番でいいぜ」
ただ一人、デッドだけが背を向けて手をヒラヒラ振りながら電車に帰ってしまった。
あらら、デッドは乗り気じゃねぇのか。まぁ、娯楽が少なそうだしな。
「もー、デッドはわがままなんだからー。いいもん。ヴァリーちゃんたちは観光を楽しんじゃうんだからねー」
ヴァリーが膨れながら叫んだ。どことなく寂しげな雰囲気を宿しているぜ。
「まったくだなヴァリー。ミーたち二人の旅行を楽しもうではないか。ハッハッ……ハウっ!」
シャインは高笑いしながらヴァリーの肩を後ろから抱き寄せたのだが、肘でみぞおちを刺されてしまった。
あーあ、図に乗るからそんなことになんだぜ。
ひざを折って唸ってしまった。哀れだけど、かわいそうとは思えねぇな。




