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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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147 釣りでもしながら

 眩しく暑い太陽に、青い海。俺はアクアと二人でヴェッサー・ベスにきていた。

 他のみんなはお留守番だ。一応、日帰りを予定している。

 朝早くアクアに電車を走らせ、昼前から観光とシャレ込む。

 近辺(きんぺん)に住む人々はみんな元気で、肌が黒く焼けていた。服の隙間から日焼けのラインがチラリと見えたりもしたぜ。

 漁業(ぎょぎょう)組合でもあるのか、木造漁船(ぎょせん)が繋がれている海岸もあった。波に乗ってゆらゆら揺れている。

 露店(ろてん)もたくさん並んでいて、新鮮(しんせん)な海産物が売られていた。イカ焼きに海鮮ヤキソバにホタテなどなど、軽食代わりに二人で分け合ったぜ。

 ちなみにお金はチェルから事前(じぜん)にもらってある。なんたって俺は、次期魔王だからな。今は絶賛(ぜっさん)……わかるだろ。

 さすが海辺(うみべ)の都。塩味のおいしい食べ物が多い。だが、しょうゆ味にあたったときは驚いたぜ。イッコクは中世風の異世界なのに、文化の進みが妙に早い。

 昔の転生者(てんせいしゃ)転移者(てんいしゃ)、もしくは召喚(しょうかん)されたやつに日本人もいたのかもしれねぇな。しょうゆの発展(はってん)はありがてぇ。

 アクアとおいしくいただいた。料理の研究にもなるから、二人して意見を出し合ったぜ。

 昼飯を食おうと海の家みたい所に入った。なかなか賑わっていて、ふくよかな店員のおばちゃんが、忙しそうに駆け回っていた。

 いい雰囲気だ。テーブルでアクアと向かい合って熱いラーメンを食べている。

 アクアがフーフー息を吹きかけて冷ましながら食べていると、店員さんがお椀を持ってきてくれた。

 気遣いに感謝するついでに、ちょっとした小話をする。

 アクアがたどたどしく旅行だと言うと、やさしいお父さんだねと微笑まれた。

 ちょっとムズかゆかったけど、アクアが満面の笑みを見せてくれたからよしだ。おばちゃんナイスだ。い~い笑顔を見させてもらったぜ。

 おいしくラーメンをいただいてから、人手の少ない海岸へと向かう。

 白い砂浜に足跡(あしあと)を残しながら、アクアと並んで歩く。

「いいお天気だね、パパ。でもいいのかな。みんなが働いているのに、私たちだけ遊んじゃってても」

 楽しそうに輝いていた青い瞳が、シュンと下を向いちまった。

 あちゃー。アクアはまじめだんな。気になっちまうかぁ。

「まっ、俺のわがままだかんな。アクアが何か言われたら俺のせいってことにしちまえって」

「でも……」

 不安そうに見上げるアクア。俺はポンと頭を撫でながら、ニッと笑顔を見せた。

「それより、釣りしよぉぜ。道具はマイルームに用意してあるからさ」

「えっ、魚釣り。ホントにできるの」

 不安げな表情が一転、期待に満ちあふれたように輝きだした。

「あぁ。ちょっと待ってろ。すぐにとってくるからな」

 物陰(ものかげ)にマイルームを出して、釣り道具を持ってきた。

 ロッドにベイトリール。エサはアクアが選べるように、生餌(いきえ)とルアーを取り揃えている。糸はクモの糸を使っていて、頑丈(がんじょう)千切(ちぎ)れにくい。そうデッドから聞いた。

 自分で使ったことないからわからないけど、信用はできるだろう。

「わぁ、すごーい。本物の釣り道具だぁ。ありがとうパパ。私すごく、すっごくやってみたかったんだぁ」

 ロッドを胸に抱えてピョンピョン跳ねる。釣りに並みならぬ情熱(じょうねつ)を注いでいたようだ。

「あっ、でも。リールに糸を巻くところからやってみたかったなぁ」

 要望(ようぼう)を思い出した瞬間、ちょっと沈み込むアクア。なかなかこだわるなぁ。でもわかる気がする。

 糸を巻くときのこう、スムーズに糸が増えて大きくなっていく姿は見ていて楽しいからな。特に初めて体験するときは格別だろう。

「そいつは気づかんかったぜ。今日はサプライズが目的だったからな。悪かったな」

 謝罪を込めながら、ポンと頭を軽く叩く。

「あっ、うんん。魚釣りができることはすごく嬉しいの」

「いいって。また機会があったら、今度は一緒に巻こうな。約束だ」

「パパ……うん。楽しみだなぁ」

 約束を交わすと、幸せの最絶頂(さいぜっちょう)だと言わんばかりに笑顔になった。

 なんってこった。こんなかわいい姿を見せてくれるだなんて。今なら俺、悪魔に(たましい)を売ってもいいな。

「ははっ。ンじゃ、さっそく始めようぜ。のんびりやろう」

「うん」

 首がとれるんじゃないかってほど、勢いよく頷いたぜ。

 アクアはルアーを選んで、ロッドを振った。初めてだというのに、着水音(ちゃくすいおん)を殺す芸当(げいとう)を見せやがった。

 俺も負けじとロッドを振るけど、不格好(ぶかっこう)な音がポチャンと響いた。

 ただテキトーにリールを巻く俺に対して、アクアは緩急(かんきゅう)をつけたり、アクションを起こしながらリールを巻く。

 憧れからくるかっこつけと思っていたのだが、五回目あたりで魚が食いついた。

「フィッシュ!」

 喜びからかけ声をあげるアクア。魚とのやりとりが楽しいのか、アクアらしからぬニヤついた横顔を見せてくれた。

 こんな表情もできるのか。まだまだアクアの知らねぇとこ、たくさんあるんだな。

 もしかしたら成長したのかもしれない。嬉しいようなもったいないような、複雑な喜びを感じちまったぜ。

「釣れたっ! やったよパパ」

 いつの間にやらアミを使って、丁寧(ていねい)に魚を釣り上げた。サイズは四〇センチちょい、かな。

「おー、すげぇなアクア。先を()されちまうとは大したもんだ。さすが俺の娘だぜ」

 小さいことだけど、めでたいことだ。初の魚釣り記念。盛大に褒めてやらなきゃな。ぶっちゃけ、俺も自分のことのように嬉しいぜ。

「えへへっ。ありがと、パパ」

 こんな感じで、アクアはどんどん釣っていった。ちなみに魚は夕飯になる予定だ。一時的に水槽に入れ、終わったらマイルームへ運ぶ。

 俺の出番はなさそうだぜ。

「そういやアクア。フォーレを助けたときの魔物ってどうなったんだ」

「近くの住処(すみか)に帰ったよ。お友達になれたんだ。呼べば来てくれるって言ってたよ。みんな親切だね」

 何気ない感じにビュっとロッドを振った。ルアーが着水する。

 お友達、ねぇ。服従(ふくじゅう)してる気がして(こえ)ぇけど、都合(つごう)がいいかもしれんな。そろそろ覚悟を聞いてみるかな。気が重いけど。

「なぁ、アクア。ヴェッサー・ベスを観光してみたけど、どうだった」

「いい所だよ。ごはんはおいしいし、みんな元気だし、景色(けしき)もいい。言うことなしだね」

「そっか。じゃあさ、ここ……一人で侵略できるか?」

「……えっ?」

 激しかったリールアクションをやめて、俺を見上げるアクア。

「もちろん今からじゃない。俺が魔王になってからのことだ。ヴェッサー・ベスをアクアに任せたい」

 青空に飛んでいた白い海鳥(うみどり)が、(さび)しく鳴いた。

「私が、ここを?」

 振り返って町並みを眺める。平和で、魔王の争いが届いていないエリアだ。

「もう一回聞くぜ、アクア。人間を侵略して、勇者と戦うことができるか。どんなにキツくても、弱音をはかずに」

 問いかけると、アクアは俺と目を合わせた。揺らいでいた青い瞳が、決意に固まってゆく。

「やれるよ……やる。みんなと仲間外れは嫌だもん」

 一つ瞬き(まばた )してから、堂々と言い放った。

 言っちまったか。俺としては、最終(さいしゅう)勧告(かんこく)のつもりだったんだけどな。それだけ覚悟があるのか、それほど仲間外れが嫌なのか……後者だろうな。

「わかった。魔王になったら頼むぜアクア」

「うん」

 最後の笑顔は、ちょっぴり(せつ)なかったぜ。


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