144 雑魚寝の陣取り合戦
「パパ、ヴァリーちゃんが隣で寝てあげるねー。嬉しいでしょー」
花火を満喫してから寝床となる電車に入ると、早速ヴァリーが腕を取って場所取りを始めた。
床にはマットを敷き詰めてある。靴はホームで脱いでいるぜ。
「うおっと。そんなに慌てんなって」
「あーまーいー。場所なんてグズグズしてるとすぐに取られちゃうんだからねー」
赤いクセっ毛を揺らしなら、出入り口付近をキープする。
「ケッ、ジジイの何がいいんだか」
「もー、デッドも嫉妬しないのー。ヴァリーちゃんの隣はまだもう一つあるんだからー、一緒に寝よー」
「はぁ? なんで僕が……」
「いいからいいからー」
ヴァリーは俺を物のように寝かせてから、デッドの腕を強引に引っ張ってきた。
軽い抵抗はしてっけど、満更でもねぇんだろぉな。睨みに戸惑いがあるぜ、デッド。
「はい完璧ー。これでいつでも寝られるねー」
「何が完璧だっての。かってに僕の寝る場所まで決めやがって」
赤い瞳を鋭くさせながらブツブツ言っているけど、移動する気配はなかった。
ホント、こいつらは仲がいいな。
「はっはっ。さぁ、ミーと一緒に眠るレディーは誰だい。シェイでもフォーレでも誰でも構わないよ。この機会にプリンセスチェルと添い寝もいいではないか」
あっ、無駄にご機嫌なバカが図に乗ってやがる。そんなことしていると、強制的におネムになんぜ。
シャインは車内の中央に立って、値踏みするように見渡しながら上機嫌になっている。
「グラス。自分と一緒にシャインを寝かしつけて下さい」
「気は進まんが、わかった」
グラスが車掌室の手前で嘆息する。シェイは対面の車掌室からシャインに向かって駆け出した。
挟み撃ちになってらぁ。どんなツープラトンが炸裂することやら。
シェイがシャインの後ろから跳びかかり、うつ伏せに倒す。
「アグッ! シェイ、熱烈じゃないかそんな勢いよくミーに抱き着いてくるだなん……ちょ、待ちたまっ……」
シェイはシャインの首筋をつかむと、地面に押しつけてガガガガと引きずりながら駆けてゆく。
シャインが悲鳴を上げて暴れているけど、あの態勢じゃどうしよもねぇな。
グラスは接近を確認すると、茶色い瞳を真剣に細めた。ゆっくりと正拳突きの構えをする。
シェイがシャインの身体を仰け反る形で持ち上げると同時に、グラスの正拳突きがボディに刺さったぜ。
「グハッ!」
シャインはくぐもった叫びをあげて事切れる。シェイとシャインが静かにハイタッチを交わした。
俺この技、知ってる。仮面ラ○ダータ○ガのファイナルベ○ト、クリスタルブレ○クだ。二人して、なんって技を決めるんだよ。
「自分は座席で横になります。グラスはどうしますか」
「俺も座席でいい。堂々と座席で横になる機会は少ないからな」
グラスとシェイは座席派か。どうでもいいけど、シャインはそこに打ち捨てとくんだな。
「ねえ父ちゃん。網棚で寝てもいい」
「その発想はなかったからな。身体を痛めると思うし、高いからやめとけ」
てかエア、どうしてそこで寝ようと思ったし。
「ちぇ、残念。じゃあ床でいいかな。アクア、フォーレ。一緒に寝よ」
「おっけぇ。アクアもいいかなぁ」
緑のボサボサ髪を背中におろしているフォーレが、アクアに向かって首を傾げた。
「いいよ。三人で寝よっか。エアが真ん中?」
「いいの、やったー。ありがと、アクア、フォーレ」
エアは二人に抱き着くと、ピョンピョン跳ねて喜んだ。
三人娘は微笑ましい限りだ。後は。
「チェルはどうすんだ?」
「そうね、たまには娘たちと寝ようかしら。コーイチとはいつも一緒だものね」
まぁ、同じ部屋で寝てっしな。
チェルは赤い瞳でエアたちを見つめる。どうやら、既にアタリはつけている感じだな。
「エア、あなたたちのところに入れてもらえる」
「いいよチェル様。今日は楽しく寝られそうだよ」
楽しく寝られる、ねぇ。変なニュアンスだぜ。
「そんじゃ、もう寝ちまおうか。おやすみ、みんな」
「おやすみー」
寝るだけだっていうのに、賑やかな就寝になったぜ。
特にヴァリーは俺を抱き枕にしていたからな。これも父親の特権だろう。
翌日。午前中にもう一回、海で遊んでからイッコクのへそに帰ったのだった。




