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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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142 バーベキュー

 海がオレンジに染まりかけた頃に、俺は砂浜にバーベキューセットを用意した。

 炭を二つのコンロに放り込んで、火をつける。

 砂浜は広いのに、みんなして俺の動向(どうこう)を見守ってくれた。

 初めての作業だからな。みんな興味(きょうみ)津々(しんしん)に目を光らせてんぜ。

 この場に九人もいるのに、火属性の魔法を得意とするやつがいないからな。マッチと着火剤(ちゃっかざい)駆使(くし)してどうにか火起こしに成功する。

 え、この場に十人いるって? 俺は数に入らねぇよ。

 炭を山のように積んで火が(うつ)るのを待つ。

 日本風味あふれる扇子(せんす)を仰いで風を送ると、火がボワっと燃え上がった。

 うちわより扇子を先に作るあたり、シェイの情熱を感じられるぜ。

「さて、もういいかな。(あみ)鉄板(てっぱん)を置くけど、何か入れとくもんはねぇか」

「じゃがいもとぉ、タマネギぃ。ホイルに包んで直火(じかび)でどぉん」

「焼けるのが楽しみだねー」

 フォーレがコンロの(すみ)に放り込むと、ヴァリーが期待の笑みを浮かべた。

 ホイルの包み焼きはバーベキューの醍醐味(だいごみ)だろう。

 網と鉄板を上に置き、牛脂(ぎゅうし)のようなものを塗る。

「父さん。肉を焼いてください。肉」

「でっけー(かたまり)のまま焼こうぜ。やっぱ豪快(ごうかい)にいかなきゃつまんねぇぜ」

 グラスとデッドがガッついて肉を焼きだした。網でジュウジュウと肉を(あぶ)ると、野性的かつ暴力的な匂いが煙とともに放たれる。

「グラスは野菜もちゃんと食べろよー。デッドは欲張りすぎだ。(こま)かく切らねぇと、火がなかまで通らねぇからな」

 まったく。でも仕方ねぇか。バーベキューといえば肉なんだから。

「魚介も焼こうよ。エビと貝類は定番だよね」

「ならばミーが醤油(しょうゆ)をたらしてあげよう。完璧な分量でアクアに振舞(ふるま)おうではないか」

 こちとら肉に負けない、塩の香りを放つ。

 バーベキューは無法地帯(むほうちたい)だ。肉と魚と野菜が領地(りょうち)を奪い合いつつも、最上級の旨味を引き立てる。まさに(しょく)のバトルコロシアムだろう。

 にしてもシャインのやつ、ひょっとしてアクアなら落としやすいと勘違いしてんじゃねぇのか。

「魚介もいいけど野菜もちゃんと食べろよ。スペースは計画的にな。シャインは男子陣にも食べ物を振舞うように」

「何をバカなことを。オヤジ、ミーは全女性に振舞うためだけに存在しているんだ。たとえオヤジが相手であろうが、男に愛想(あいそ)は振舞わないね」

 だけ、とか言いだしたよ。こいつダメだ。わかっちゃいたけど。

 肩を落としながらもトングを動かす。炭火が俺の肌を焼きに入るが、気にしていたら最上のタイミングを逃してしまう。

 俺の戦場。俺の死線(しせん)だ。

 頃合いの肉をつかんではみんなの皿に放り込んでゆく。

「うめぇ。やわらかくて肉汁があふれだしてくる」

「キヒッ、ジジイにしては上出来だぜ」

 肉組の二人は仲が良さそうに見えて派閥(はばつ)が分かれていた。タレか、塩か。

 グラスは塩のみで素材の味を存分に味わい、デッドはタレをドップリつけて味を濃くしていた。

 食べ方なんて人それぞれだ。文句を言うなんて野暮(やぼ)だな。

「熱っ……けどおいしい。このエビ、甘くてプリプリだよ」

 アクアが暑さに苦戦しつつも、ホフホフと幸せそうに食べる。フォーレなんかは集中しているか無言だ。

「キャハ、お肉も貝もおいしー。パパ、次は何を焼くのー」

「ウチはアレを焼いてほしいな。お肉とお野菜を交互に串に刺したやつ」

 ヴァリーが聞くと、エアがリクエストしてきた。

「おっ、いいねぇエア。これぞバーベキューのメニューじゃねぇか」

 鉄の串に肉と野菜を交互に突き刺し、網焼きにする。

 実際にやるといろいろとめんどうだが、雰囲気は大事だよな。

 まるまる一個のトウモロコシも焼いておく。子供たちの目が輝くのを、俺は見すごさなかったぜ。

(さま)になっていてね、コーイチ。ついでにあの偏食(へんしょく)さんも説得できないかしら」

「偏食、シェイか」

 視線を向けると、シェイの皿には何も入っていなかった。

「アクア、ちょっとだけ料理を頼めるか」

 チマチマと楽しんでいたアクアにお願いすると、皿を置いて青い瞳を輝かせた。

「任せてパパ。おいしく料理しちゃうよ」

「そいつは心強い。さてと」

 皿に肉や野菜を入れてシェイの元まで持っていった。

「父上」

「シェイに頼みがあるんだ。俺の焼いた肉や野菜を、食べてくれねぇか。このままじゃ勿体(もったい)ねぇことになっちまうからな」

 情けなく微笑むと、黒い瞳を伏せてため息をはいた。

「その言い方は卑怯(ひきょう)です。食べざるを得なくなってしまいます」

 恨み言を漏らしつつも、白くきれいな手を伸ばしてきた。皿を持たせると、ゆっくりと食べ始める。

「どうだ?」

「おいしい……です。わかってはいたんですけど、やっぱりおいしいです」

「そっか。ならよかった」

 シェイの頭を撫でてからコンロに戻った。

 無理強(むりじ)いはよくねぇからな。食べたいだけでいいんだ、シェイの場合は。詳しい事情はしらねぇけどな。

 その後も焼きおにぎりや焼きそばを作ってはみんなで楽しんだ。

 最初に入れたホイル焼きは、残念ながら炭になってしまった。憧れるけど難しい料理だぜ。反省点だな。



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