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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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135 海へ

 いよいよ泳ぐこととなり、アクアを除く全員に浮き輪を持たせた。こんなきれいな海にまで来ておいて、泳がない手はないぜ。

「みんな浮き輪はもったな。行くぞォ!」

「ジジイ! どこの師匠(ししょう)を救出しに行く気だコラァ!」

 ナゼか知らないけどこのセリフを言いたくなっちまった。向かう先は青い海だっていうのにな。デッドのツッコミも()えわたるわけだ。

「にしても、ホントに用意(ようい)周到(しゅうとう)ね。私の分まで浮き輪を用意するだなんて」

「チェルも楽しまなきゃ損だぜ。たまには背負ってるもん脱ぎ捨てて遊ばねぇと」

「その脱ぎ捨てた仕事を拾うのも、私なのだけれど」

 呆れたように半目をされてしまったが、しぶしぶ浮き輪に入ってくれた。泳ぐ気はあるみたいだ。

「でもー、浮き輪ってダサくないー。ヴァリーちゃんはなくても平気だよー」

「同感だぜ。僕も浮き輪なんて()らねぇよ」

 でた、子供のダサいから()らない理論。この歳の子はどうしても背伸びしちゃうんだよな。

「ミーもヴァリーと同じ意見だね」

 前髪をかき上げながらウザいドヤ顔を見せつけるシャイン。何気なくデッドの存在をなき者にしていやがる。

「イケメンなのに浮き輪をつけているだなんて、恰好が立たないじゃないか」

 当たり前だろとでも言うように、呆れた表情を飛ばしてきやがった。

 恰好をつけて溺れた方が、よりダサいと思うんだけどな俺は。

 けどシャインを説得できるとは思わないし、(おぼ)れても死ぬと思えない。

「海を甘くみてっと、ガチで溺れるぞ。仮に魔王城にプールがあったんなら浮き輪なしでもいいけど、海はダメだ」

 地球でも夏になると、浮かれて溺れ死ぬ若者がニュースになるからな。油断なんて、できねぇな。

「だったらなんで、アクアは浮き輪もってないのー」

「えっ、私?」

 ヴァリーが頬をプクーッと(ふく)らましながら、アクアを指差して俺に訴え(うった )てきた。

 アクアもかわいそうに、()()えくらって怯えちまったよ。

「なぁヴァリー、ここでアクアにケンカを売るのはやめとけ。海はアクアのテリトリーだからな」

 呆れながら(さと)してみるも、全然効果がなさそうだ。オレンジの瞳でアクアを睨みつける始末だからな。

 へそを曲げた子って、どうやって説得させりゃいいんだ。

「おとー、これでいいのぉ」

「あはは、浮き輪ツルツル。なんだか変な感じだよ」

 頭を悩ませている間に、フォーレとエアがスッポリ浮き輪を装着(そうちゃく)していた。

 楽しいのはいいけどエア、あんまり浮き輪パンパン叩きすぎるなよ。よっぽど割れることはないと思うけど、お前らの力だと怖い。

 それとフォーレ。いつの間にシュノーケリングセットを取り出したんだよ。確かに作ったけれども、見つけるの早くないか。サプライズを潰さないでくれ。

「すみませんが父さん。俺も浮き輪は要らないと思います」

 茶色い瞳でしげしげと浮き輪を眺めていたグラスが、申し訳なさそうに眉を(ひそ)めた。

「意外だな。グラスならカッコ悪くても浮き輪をつけると思ったんだが」

 怒るとかよりも驚きの方が大きいぜ。やっぱグラスも男の子ってことなのかな。

 むしろ感心する思いだ。グラスは従順(じゅうじゅん)すぎるからな。たまには反発(はんぱつ)がないと人生つまらねぇ。

「いえ、泳がなければつける必要もないかと」

 あっ、違った。こいつ、思いっきり弱気だ。てか弱点が入っちまっている気がする。

「弱気ですね、グラス」

 シェイは情けない長男に話しかけると、浮き輪を装着した。

「すまない。地下道を開通(かいつう)させているときに、水に飲まれかけたのがどうしても怖くて」

 そういえばそんな報告を聞いていたっけ。素早い対処によって大事(だいじ)に至らなかったらしいが、目の前で恐怖体験をすればトラウマにもなるか。

「弱点を克服(こくふく)するつもりで、泳いでみてはいかがですか。自分も手伝います」

 差しのべられた細い手を、グラスがマジマジと見つめる。

「俺、かなり情けないと思うぞ」

「かまいません。怖い思いを乗り越えて、手を取ってくれるなら。弱い部分も受け入れられます」

 淀みなく、黒く強い視線でジッと見つめた。自分に任せろと言っているかのようだ。

 グラスは手を震えさせ、ためらいながらもシェイの手を握った。

「……頼む」

「任せてください」

 シェイは男前だな。グラスじゃなくても頼っちまうぜ。

「キヒっ、グラスだっさ。浮き輪に一生、(すが)ってろってな」

「キャハ。シェイってばやっさしー。無駄かもしれないのにね」

「おいコラっ。デッド、ヴァリー。言いすぎだ!」

 さすがに叱っとかんとまずいやつだ。

「ケッ、怖がってる方が(わり)ぃんだろ」

「ヴァリーちゃん悪くないもん。べーっだ」

 捨て台詞をはくと、浮き輪も持たずに二人して海へと向かっていった。

「あっ、オイ! ……あかんなぁ」

 うまく叱れてないわ。グラスはどうなっている。

 振り向くと自信をなくしたように、しょげちまっていた。だらしなく浮き輪をぶら下げている。

 グラス……。

 シェイがポンと肩を叩く。

「言わせておきましょう。大切なのは、克服したいという気持ちなんですから」

 茶色い瞳を見開いてから、ゆっくりと表情を戻してゆく。

「シェイ……ありがとう。よろしく頼む」

 ホント、シェイは大人だわ。

 それと、こんなことがあるならビート版も作っておくべきだったな。

 ちょっぴり後悔する俺がいた。


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