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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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132 イヤッッホォォォオオォオウ!

 イッコクのへそに来て約三ヶ月。

 俺たちは地下道を北西へと掘り進め、ついに島国に辿り着いた。

「いやぁ青い空に青い海、そして白い砂浜。想像以上に南国の島だぜ」

 海を眺めたときの決まり文句を口にしながら、俺は眺めた。

 地下鉄を開通させるのには苦労したらしい。島国だけあって地下道は一度、海に開通してしまったようだ。

 アクアが魔法で抑えてくれなければ電車が水没するところだったとか。

 まぁ、どうにかこうにかして無事に辿り着いたわけだが。

「ケッ、オリジナリティがねぇなぁジジイは。もうちょっと(ひね)りやがれってんだ」

 デッドお決まりの毒はきに振り向くと、子供たちがみんなして海を眺めていた。

 みんなこの三ヶ月で、見た目が五歳児に見えるまで成長しているぜ。実際は一歳三ヶ月なんだけどな。

「こういうのはテンプレどおりでちょうどいいんだよ」

「そして、魔王コーイチはテンプレどおりに討伐されるのね」

 軽く笑って(さと)すつもりが、隣にいたチェルにカウンターパンチをもらっちまう。

「ちょ、まだ遠い未来の話だろ。このタイミングで言わないでくれ」

「ふふっ、新しい地に立って浮かれているからよ。(かつ)を入れてあげたわ」

 いたずらっ娘のようにコロコロと笑うチェル。シンプルな白いワンピースを着ていて、羊のような角を隠すために、麦わら帽子を被っている。

 真夏の女の子と浮かべれば、定番の服装だろう。

「ここ、喝を入れるような状況でもねぇだろうが」

 両手を広げてチェルに全力で反発(はんぱつ)する。

 だって海だぞ。しかも暑いんだぜ。これはもう、心が弾まない理由がねぇだろ。真夏のバカンスとしゃれ込むしかないっしょ。

「パパはなんでそんなに元気なのよー。ヴァリーちゃん、暑くてだーれーちゃーうー」

 犬のように舌を出しながらへばった。玉の肌から、あふれるほどの汗が流れている。

「あはは。確かに暑いけど、潮風(しおかぜ)が穏やかで心地いいよ」

「水も()んでいます。(もり)を片手に素潜(すもぐ)りするのもおもしろそうです」

 手を広げて風を感じるエアに対して、シェイは魚に興味を示していた。

「どこかのスポーツ漫画にあったな。砂浜を走り込むことで脚力(きゃくりょく)(きた)えられると」

「グラスは海に来てもぉ、鍛えることから離れないんだねぇ。ところでこの環境はぁ、どんな植物が(てき)してるんだろぉ」

 おいフォーレ、お前もグラスのことを言えねぇほど趣味に走ってんぞ。

 呆れているとシャインが堂々と近づいてきた。

「おいオヤジ。ミーは海そのものには興味ないぞ。ちゃんとわかってんだろうな」

 不満を装い(よそお )ながら、確認するように言葉を投げかけてきた。白い瞳は睨みながらも、期待の輝きにあふれている。

 この条件でシャインが求めている方向性は一つだ。というか、どんな場合でも女だ。

 もちろん俺もイヤッッホォォォオオォオウな気分でバカンスを楽しみたいさ。みんなで平等にな。

「今回は無人島を選んでるからな。この水の都、ヴェッサー・ベス付近に住んでいる女性と出会うことはないぞ」

「ふん。海なんて下らないね。ミーは一人で帰らせてもらうよ」

 望みの物がないとないと知ると、鼻を鳴らして踵を(きびす )返した。ホントわかりやすいよ、シャインは。

 ぶつぶつ文句を言いながら地下道へと向かっていく。アクアが青い瞳で心配そうに見送ってから、俺の方に近寄ってきた。

「パパ、ホントによかったの?」

「あのバカは気にするな。それよりも南国に電車が開通した記念だ。今日はみんなで騒ぐぞ!」

 俺は握りこぶしを振り上げて、ハシャギながら力いっぱいにジャンプした。

 みんなの視線が冷たく降り注ぐ。

 あれ、何この空気。俺だけ浮かれてバカみたいじゃん。

 思わずイヤッッホォォォオオォオウのポーズで固まっちまったぜ。

「あの、父さん。具体的にはどうするんですか?」

 グラスが申し訳なさそうに茶色い視線を泳がせながら聞いてきた。

 アレな人に勇気を振り絞って話しかけるって感じだ。俺、そんなにも(ひど)かったか。

「あっ、えっとな。一日中、羽を伸ばして遊び通すんだ。海といえばバカンスであり、バーベキューだからな」

 二つの単語が耳に届いた瞬間、子供たちの表情がウキウキしたものに変わった。

「おいおい、バカンスかよ。ジジイのクセに調子こきやがって」

 デッドは毒をはきつつも、口元がニヤついている。

「しかもバーベキューだってー、デッド」

 ヴァリーがデッドの手を取ってピョンピョン跳ねた。

 おーい、デッドがついていけずに戸惑(とまど)ってんぞー。まっ、微笑ましいけどな。

 デッドやヴァリーだけでなく、他の子たちも楽しそうに会話を弾ませていた。

「まったく、コーイチは娯楽(ごらく)にかけては天才的なんだから」

 チェルがやれやれといった(ふう)に話しかけてくるも、表情はどこか穏やかだった。

「だろ、なんたって俺は史上最遊(さいゆう)の人間魔王だかんな」

「最遊って何よ。訳がわからなくってよ」

 咄嗟(とっさ)に作った造語(ぞうご)を否定しつつも、チェルは楽しそうに笑顔を見せていた。

「でも道具なんて用意していなくってよ。どう楽しむつもり」

「抜かりはねぇぜ電車に戻れば何もかもが用意してある。いやぁ、あれこれ作るの大変だったんだからな」

「呆れた。フフッ」

 口で何と言われようと、バカンスの楽しさは変わらないさ。考えようによっては初めての旅行だ。

 だったら最高の思い出にしねぇとな。ふっふっふっ。


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