表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
130/738

129 世間話

 魔物をブラックホールから連れてくると決めたものの、さすがに一気にはできない。

 いかに地下鉄とはいえ片道六時間かかるので、全員一緒だと開拓が大幅に遅れちまう。

 なので一日一人ずつ、各種の魔物を連れていくことに決めた。

 手始めに力仕事ができそうな、グラスの魔物を運ぶことに。

 早朝から地下鉄に乗り込み、昼近くにアスモデウスの魔王城地下へ辿り着いた。

 電車から出ると、ホームのように整えられた空間が広がっていた。

 石積みの壁や天井は青白く光っていて、上ヘ向かう階段も近くにある。

「では父さん。俺は母さんの元へ行って、魔物の融通(ゆうずう)を利かせてもらえるよう、話してきます」

「おー、頼んだぜグラス。俺は別の用事があるから、また後でな」

 グラスはまじめに頭を下げてから、駆けていったぜ。

「迅速なこった。しかし、アスモのおっさんも寛大(かんだい)だよなぁ」

 気を改めて地下を眺める。

 元々魔王城になかった空間だったんだけど、地下鉄を作るって言ったら魔力でホームを造ってくれたんだよな。

 もちろん、伸びる線路や地下道は子供たちが開通させたものだ。しかし(あし)がかりになる最初の地下は、アスモのおっさんが手をかけてくれた。

「やさしい魔王様だな。ンでもって、今日はそのやさしさにつけ込まなきゃいけねぇんだよなぁ」

 頭をボリボリかきながら、ため息をはく。気が重いなんてもんじゃねぇぜ。

「気が進めねぇけど、足踏(あしぶ)みしてても仕方ねぇか。子供たちも開拓に(いそ)しんでんだろうからな」

 よし、行くかぁ。


「ういっす、アスモのおっさん」

 俺は大きなドアを開けると、広々とした豪華な空間に出た。戦うのに不自由がない、ラスボスの間。

 邪魔なのはオブジェのように立っている石柱に、最奥で魔王アスモデウスが深々と座っている玉座ぐらいだ。

「久しい顔を見せたと思ったら、随分(ずいぶん)と気楽になったな。コーイチよ」

 耳から入って足まで響くような、ドス黒い声で歓迎された。

 赤く瞳孔のない瞳にむき出しの牙、毒々しい紫の肌に筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)の身体つき。まさに魔王の第一形態。カブトにマントといった装飾も豪華で強そうだぜ。

「イッコクのへそに仮拠点を建てたからな。住み心地がいいから、足を向けるのがめんどくなった」

 凄味のある、脅すような声色をしている。が、そういう話し方をする人なので気にしない。むしろ慣れた。

「まぁいい。チェルは元気か?」

「愛しい娘が気になるか。相変わらず楽しそうにすごしてるぜ。俺をいじめる悪趣味がなければ、文句なしだけどな」

 大げさに話を()って自嘲(じちょう)した。実質は、俺も楽しんでいるから問題ないぜ。

「ふむ、まぁいい。そんな出不精(でぶしょう)なコーイチが、どうしてここまで足を運んだ」

 でかい手であごをさすりながら、ニヤリと笑って聞いてきた。赤く光る瞳がまた恐怖を(あお)ってくれるぜ。

「ちょっとお父様にお願いがあってな。俺の魔王城を建てるのに魔物を融通してほしい」

「フン、抜けぬけと。すでにチェルからメッセージが飛んできているわ。断られるつもりはないのだろう」

 腕を組んで鼻息をはいた。ふてぶてしい態度だが、力を持っていると様になる。

「助かるぜ。ついでにお礼も言っとくよ。地下鉄の空間を作ってくれただろ。まだ頭を下げてなかった気がするからな」

「気にするな。チェルの門出(かどで)だ。リアからも協力してくれと強せ(きょう )……お願いされた」

 今、強制って言いかけなかったか? やっぱりリアさんは怖ぇな。うぅ、あの笑顔を思い出したら背中が震えたぜ。

「それに、ワシの魔力で造ったのだ。討伐された日には、あの地下空間……ホームも崩れ去る。コーイチに足がつくこともなかろう」

「おいおい、そんな考えもあったのかよ。さすがはお父様だぜ」

「……なぁコーイチよ。そのお父様ってのはやめないか。虫唾(むしず)が走る」

 難しい顔で睨みを利かされてしまった。ちょっと図に乗りすぎたかも。

「オーケーもう言わない。だからその射殺(いころ)すような視線(しせん)はやめてくれ」

 両手を挙げて降参ポーズをしながら、後ずさった。その気になったら一発で殺される自信あるからな。

「まったく。して、話はそれだけか?」

「あぁ、こんなもんだ。ぶっちゃけると秘密裏(ひみつり)に魔物を密輸(みつゆ)しようとも思ってたけど、さすがに罪悪感があったから一言いっておいた」

 チェルのメッセージのせいで放っておけなくなったのも原因だけどな。

「そうか。ワシに会ったついでに、リアにも会っていってはどうだ」

「じゃ、忙しいからお暇さ(いとま )せていただくぜ」

 片手をシュビっと挙げて、じゃあねをする。すぐさま回れ右をして玉座の間から退散(たいさん)した。

 別にリアさんは嫌いじゃないんだけど、有無(うむ)を言わせぬ怖さがあるからな。

 急いで地下道まで戻ると、グラスが五体の魔物を連れて待っていた。牛頭にマッチョな姿のミノタウロスだ。雄々(おお)しい獣臭が漂う。

 荒い鼻息(はないき)獰猛(どうもう)さを(かも)し出しているぜ。

「おぉ、力仕事に適した魔物だな」

「おかえりなさい、父さん。ミノタウロスの精鋭(せいえい)なら、きっと役に立つでしょう」

「そうだな、よくやった。じゃ、帰ろうぜ」

 俺は金のワイルドなショートヘアを撫でてから、車掌室(しゃしょうしつ)へと入った。

「はい、父さん」

 グラスは表情を綻ば(ほころ )せながら、ミノタウロスを電車に入れた。全員が入ったのを確認してから、グラスも車掌室へと入ってきた。

 ふと車両を見ると、ミノタウロスが一列に並んで座っている。なんともシュールな光景なこったで。

 そんなことを思いながら、電車は進むのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ