128 筒抜け
夕食を終え、お風呂にも入れば一日は終わりを告げる。
私は黒いネグリジェ姿でベッドにふちに座り、電気もつけずにコーイチが部屋に戻るのを待った。
暗い部屋のなかで雨にも似た音を聞くのは、どことなく物寂しさを感じるわ。
「にしても、フォーレの発言には驚いたわね。私の前で堂々と魔物の密輸について話すのだから」
お父様もお母様も、戦力面では手を貸さないスタンスだったもの。果たして、手放しで許してくれるかしら。
暗いフローリングを見ながら、ヒタヒタと近づく足音に耳を傾ける。
「こんな暗い部屋でどうしたんだよチェル。電気はつけねぇのか」
「あら、暗さにも風情があると思えなくって?」
ドアの方を向くと、パジャマ姿のコーイチが立ち尽くしていた。廊下の明るさをバックに、シルエットが出来上がっている。
雰囲気にのまれちゃったのかしら、足が止まっていてよ。
「入ってこないの。それとも、立ってジロジロ人を見るのが趣味なのかしら」
「そんなわけでもねぇけどさ……」
黒いボサボサな髪をかきながら、言いヅラそうに視線を落としたわ。
「隣、いいか?」
「あら。情熱的というか無謀というか、とにかくいい度胸ね。死にたければ隣に座らせてあげてもよくってよ」
わざとピリピリ音を立たせながら、隣の空間をポンと叩いたわ。
臆病なあなたにこられるかしら……って、あら?
うっ、と立ちすくんで、うだうだ悩んでから自分のベッドに収まると思っていた。けどコーイチは、まっすぐ私の隣に腰を落としたわ。
「どうしたチェル。驚いた顔してんぞ。まるで一日、シャインが求愛行動をしなかったかのを見たかのようだぜ」
「何よその例え。天変地異が起きてもあり得なくてよ。で、どうかして」
ちょっとした驚きを胸に包み隠しながら、話を促すわ。コーイチ相手に気が動転するだなんて、認めなくってよ。
「あぁ、なんとなくこうしなきゃいけない気がした……そうだ」
座るなりに指を組んで俯いたけど、何かを思い出すと顔を上げた。肩が触れるほどの近さだけあって、顔が近い。
「ヴェルダネスってさ、若い衆が出稼ぎに出てただろ。今日、帰ってきたぜ。エアに任せて脅しておいた」
「知っているわ。メッセージで聞いていてよ。コーイチとも直接話したわ」
「そうだっけ……そうだったわ」
目を白黒させると、勝手に納得したわ。
すっとぼけた会話ね。けど、記憶が飛ぶようなことも起こったものね。私もかなり心配したんだから。
「しっかりなさい。そうそう、私からも一つあるわ」
「どうした?」
「夕食にフォーレが魔物を運ぶって言ったでしょ。私が先にメッセージを使って、お父様に伝えておくわ」
「そっか。そいつは助かるぜ。いつもありがとな」
情けなく笑う。そこら辺にいる人間よりも情けなく見えるわ。なのに、どうして嬉しいんでしょうね。ナゾだわ。
「魔物がたくさん来るってことは、住む場所も用意しなきゃいけねぇな。それに温泉はどうにかしてヴェルダネスにも繋げてぇ」
「魔王にしては、お人よしな考えをしていてよ」
「わかってるよ。けど衛生面はどうにかしてぇからな。公衆浴場を作っとけば、手間なく入浴も楽しめるだろ」
身振り手振りでアイデアを披露する。まるで子供のように黒い瞳を輝かせながら。
「呆れた。仮に作るとして、温泉はどうするつもり。距離を考えると、どう考えても冷めるわ」
「だよなぁ。今度マイルームでググってみるわ」
結局、最後はマイルームなのね。便利なスキルなことで。
「そうそう、他にもさぁ……」
テンションが上がってきたコーイチ。暗い部屋で、有意義じゃない会話を私たちは楽しんだわ。
夜遅くまで、ね。




