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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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125 湧き上がる

 フォーレが十体のエントを連れてきた次の日、俺はエアと一緒にヴェルダネスへと来ていた。

 チェルと他の子供たちは別の作業をするとのことだ。

「まだまだ距離感は(いな)めないかな。村人もエントも怯えている感じだし」

 俺は一人で、村を見渡しながら呟いた。エアは村の上空を飛び回りっている。

 昨日のフォーレの(おど)しが利いているせいか、エントの動きもぎこちねぇ。

「けど、険悪(けんあく)って感じでもなさそうだ。これも脅しのおかげかねぇ」

 手を腰に当てながら眺めていると、村人がエントに話しかける姿をチラホラ見かけた。

 エントと村人を一つ屋根の下ですごさせたのが、上手く働いているのかもしれないな。これもフォーレの脅しだけれども。

 ふと気になって鼻を利かせてみる。まだまだ体臭は(ひど)いが、少しずつ改善しているような気もする。

「まぁ風呂の入れ方も教えたし、習慣づけさせているからな。このまま、よくなっていきゃいいけど」

 ついでに料理も教えさせなきゃ。ホントはアクアを連れてきたかったんだけど、どうしてもチェルの方で必要らしかったから諦めた。

「今日は一人なの。魔王コーイチ」

 未来(みらい)設計(せっけい)をのんびり立てていると、おずおずした声で話しかけられた。振り向くと、緑の瞳でススキが睨んでいる。

「おっ、珍しいな。ススキが話しかけてくるなんて。今は一人だ。空にエア……えっと、俺の娘が飛んでいるけどな」

 俺は空を指差しながら答えると、ススキは口をあけて驚いた。こういうところは年頃の女の子だ。

「なんで、あたしの名前を知ってるの」

 警戒するように、キッと目くじらを立ててくる。

「あぁ。長老に聞いた。ヴェルダネスに女の子は一人だけだったからな。覚えやすかったぜ」

 しかし話しかけられるとはな。思ったより嫌われていないのかも。

「ふーん。そうなんだ」

 ススキは黄土色のサイドテールを揺らしながら、間合いを詰めるようにちょっとずつ近づいてきた。

「コーイチは何を企んでいるの。ヴェルダネスのみんなをどうするつもりなの」

 俺の言動を少しでも見逃さないようにしているのか、目に力を入れたまま問い詰める。

「最初から言っているとおり侵略だ。畑を耕し(たがや )たりして食料をもらうのがメインなんだけどな」

「食べ物、どれだけもらうの」

「できた分の半分かな。理不尽かもしれんが、それが侵略ってやつだ」

「最低!」

 ニヤリと笑ってやると、蔑む(さげす )ようにはき捨てられちまったぜ。まっ、言いたい気持ちもわかるけどな。でも、ススキは離れねぇなぁ。

 不思議に思っていると、慌ただしい音が聞こえてきた。

「んっ、何だ?」

 何気なく眺めていたら、(きた)らしい恰好(かっこう)をした若い男衆が走ってきた。ボロい衣服を着ていて、表情は驚きで固まっている。

「おい、そこのお前。このありさまは一体なんだ!」

 一番前にいる男が叫んできた。リーダーなのかもしれない。

「あぁ、侵略ついでにちょっといじっただけだ。その言動からして、出稼(でかせ)ぎに出ている若い衆ってところかな」

 推測(すいそく)しながらススキを見ると、肯定するようにコクンと頷いた。

 そっか。さすが出稼ぎしているだけあって、身体つきが逞し(たくま )いな。歳も二~三〇代といった感じか。

「侵略だと。それで村が異様(いよう)に変わり、魔物がウジャウジャいるのか。そんなことは俺たちが許さん!」

 あごをさすりながら観察していたら、宣戦(せんせん)布告(ふこく)をされちまったぜ。

 血気(けっき)がいいのは好ましいな。すぐに労働力になるだろ。俺が相手すれば絶対に負けるね。

(チェル、聞こえるか)

 俺はメッセージを(つな)げるために、心のなかでチェルを呼んだ。

(どうかして?)

 すると遠くにいるというのにチェルの甘く澄んだ声が耳に響いた。さすがメッセージだ。まるで近くで囁き(ささや )合っている感じだぜ。

(子供たち全員に繋げてくれ。ヴェルダネスの若い衆が帰ってきたと)

(そう。安心なさい。もう彼女が聞きつけているから)

(そうだよ。ビューンと……)

「父ちゃんの所へ辿り着いたんだから」

 メッセージの途中から言葉に切り替えて、エアが空から急降下してきた。黄色いショートの髪が風でたなびく。

 エアの急登場に、若い衆とススキが驚いた。

「おう、エア。早速で悪いけど、あいつらに力の差を見せてやれや。簡潔(かんけつ)にな」

「りょーかーい。いっくよー」

 エアは手をあげて明るく応えると、元気よく若い衆へ走っていった。

卑怯(ひきょう)だぞ。幼子(おさなご)を盾に戦おうなど、男の端くれにも……」

 言いたいことはわかるけど、油断して目を離すと大変だぜ、ほら。

 若い衆が騒ぎ立てているうちに、エアは射程まで瞬時に近づいた。目標の三歩手前で、宙返(ちゅうがえ)りするように跳ぶ。

「そぉれ、ボディ・プレス。どーん!」

 両手両足を広げながら、地面に向かって勢いよく腹から落ちた。そう、むき出しになっているヘソから。

 ドゴンと響く轟音(ごうおん)、よろめくほどに()れる地面。そして湧き上がる砂煙。

 実際に俺は情けなく尻モチをついているぜ。ススキもペタンと座っている。

 若い衆はさすがに(こら)えているな。驚きは隠しきれていないけど。

 砂煙が晴れると、爆弾でも投下されたかのようなクレーターができていた。中心で、無邪気に笑いながらエアが立つ。

「父ちゃん。こんなもんでいいかな」

「上出来だ。けど腹、痛くないか?」

「ムチャクチャ痛いよ」

 エアは白い歯を出して笑うと、親指を立ててグッジョブのジェスチャーをした。

 痛いのかよ。エアはよくやるなー。

「そうか。ほどほどにしとけよ。お前らも、エアの実力はわかっただろ。まともに相手したら、死ぬぞ」

 震えて声も出せない若い衆を、念押(ねんお)しに脅しておく。眼を鋭く(するど )光らせて凄みを利かせながら。尻モチ状態のままだけれども。

「父ちゃん、威厳(いげん)が消えてるよ」

「そこは無理やりでもあることにし……」

 何気なく会話をしていたら、遠くの方からブシャーっと水柱が上がった

「ちょ、何だよ。アレ」

 立っていたら、驚きで尻モチをついていただろう。二度手間になるところだったぜ。

 ()っとい水柱だ。この木なんの木って歌の木ぐらい存在感がでかい。

「ねー父ちゃん。あっちって、お(うち)の方じゃないかな」

「あっ。エア。急いで帰るぞ」

 俺は急いで立ち上がると、走り出した。



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