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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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124 遅い帰り

 家に帰る頃にはすっかり陽が沈んでいた。何もない荒野だけあって、夜になると肌寒いぜ。

「わぁ、真っ暗だねぇ。二つの月がキレイだよぉ」

 無邪気に夜空を見上げるフォーレ。さっきまで村人を脅していたとは思えないほどのんびりしている。

「ンだな。みんなも先に戻ってるだろうし、早く家に入ろうぜ」

 玄関まで行き、鍵を開ける。

「ただいまーって、うおっ!」

「おかえりなさい、コーイチ」

 玄関ホールの暗闇で、チェルが溶け込むように待ち構えていた。赤い瞳の輝きが妙に怖いのですが。

 黒いネグリジェ姿がまた、どことなく幽霊っぽさを感じさせる。

「どうしたのかしら、そんなに怯えて」

 気遣うような声色に反比例して、抗い(あらが )がたい重圧(じゅうあつ)が放たれているのですが。

「なっ、なんで電気もつけずに待っていたんだよ」

「もちろん心配していたからよ。フォーレはともかく、コーイチは危ないもの」

 冷たい目つきで、こめかみをピクピクさせながら迫ってくる。

 ちょ、半端じゃないほど怖いんだけど。なんでフォーレは平然とのんびりしていられるんだよ。

「えっと、その……ごめんなさい」

「あら、何に対しての謝罪(しゃざい)かしら」

 ニッコリと微笑んだ。とても……とても危ない笑みだ。

 確かに俺は、何を謝っているんだ。まるで不倫がバレたような夫の気持ちでひたすら謝り通そうとしているかのようだぜ。

「いや、その……ごめん。わかんねぇ」

 両手を挙げて降参すると、深いため息が返ってきた。

「まったく。さっきも言ったけど、心配だったのよ。私のメッセージはコーイチからでも使うことができるんだから、今度からは一言入れてちょうだい」

「あぁ、そうだったな。すっかり忘れてたわ。今度からそうさせていただきます」

 俺は玄関の、靴を脱ぐ部分で土下座(どげざ)をした。砂でザラザラした固いタイルに額を(ひたい )つけて。

 そうだったこの半年でチェルのスキル『メッセージ』も進化していたんだった。

 本来はチェルから一方的に通話しかできなかったのだが、チェルが受けにまわることも可能になっていた。もちろん、チェルが許した相手……電話に例えるなら登録した相手のみ可能だ。

 それとチェルを(じく)にすることで、グループ通話が可能になっている。空想(くうそう)の通話広場を作って全員が会話を共有できる通話機能だ。

 もちろんこれも、チェルの元で管理されている。

「わかればいいのよ。でも、もし次があったら……頭をヒールで踏むからそのつもりでね」

「以後、気をつけます!」

 二度と怒らせるような心配をさせないように、額をさらに擦りつけながら誓った。

「おとー、あたいもヒール()いた方がいいかなぁ」

「あの、フォーレ。何に目覚めようとしているの。勘弁(かんべん)してほしいんだけど」

「あははぁ。冗談だよぉ」

 暗がりでのほほんと笑うフォーレ。恐怖を覚えたのは、俺が小心者だからなんだろうか。

 ホントに冗談なんだよね。ちょっと不安になっちゃうよ、フォーレ。

 (すが)るように見上げていると、フォーレが手を差し出してくれた。

「ほらぁ、おとー立ってぇ」

「あぁ、ありがと」

 今日、これで何度目だろうな。

「仲がいいわね。嫉妬(しっと)しちゃうわ」

「おっ、チェルならハグで迎えてやるぜ」

「あら嬉しい。気持ちだけ抱き締めておくわ」

「つれねぇなぁ」

 ちょっと寂しいかな。

「冗談はこれくらいにして、みんなもう食事を済ましてお風呂に入ったわよ」

「そっか。そんなに遅かったのか。そりゃ謝らなきゃいかんな」

 子供たちをほったらかしにしすぎたわ。父親として悪いやつだ、反省しなきゃ。

「そういうこと。二人の食事は作ってあるから、温めなおして食べなさい。お風呂も同様よ」

「あぁ、(わり)ぃな。ありがとう」

 どことなく会話が心地いいぜ。まるで、本当の夫婦のような気分だ。

「私はもう、やすませてもらうわ。二人も早く寝るのよ」

「あいよ、おやすみ」

「おやすみぃ、チェルぅ」

 フォーレと返事をすると、チェルは二階の寝室へと向かっていった。

「さて。俺たちも飯食って、風呂入って寝るか」

「そぉだねぇ」

 ようやく玄関から上がった俺たちは、遅い晩飯にありつくのだった。


 飯を食い終わり、風呂を温めなおしてフォーレと入る。

 広さは一坪半と、一軒家にしては広めの浴室だ。モクモクと湯気であふれている。

 浴槽に身を沈めると、熱いくらいの湯水に全身が包まれる。気温が低く身体が冷えていたせいか、余計に熱さを感じた。

「たはぁ~、やっぱ風呂はいいわぁ~」

「あたいもぉ、あったまるぅ」

 目をつむって温かさに身を任せていると、足の上にフォーレが乗ってきた。顔を向かい合わせて風呂を堪能(たんのう)する。

 水位が上がるものの、浴槽からあふれたりはしなかった。

「おっ、フォーレ。風呂は気持ちいいか」

「気持ちいいよぉ。魔王城のぉ、広ぉい浴槽も好きだけどぉ……狭いのも近くていいねぇ」

 率直(そっちょく)な感想を漏らすと抱きついてきた。

「そいつはよかった。しかし温めなおすのは、ちぃとめんどうだな。温泉でも掘ろうかな」

「温泉? ここら辺って出るのぉ?」

「あぁ、ある程度深く掘ればどこでも温泉は()くらしいぞ。どっかのラノベで読んだ」

 どのラノベかは覚えてないけどな。

「そっかぁ。わかったよぉ、おとー」

 ん、何がわかったんだ? まぁいっか。

 俺はフォーレの言葉を特に気にせず、身体を洗って風呂から出た。

 そして明日に(そな)え、すぐに寝るのだった。


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