116 仮拠点の建築開始
大雑把な方針を決めた俺たちは、水源確保のために魔王城の建設予定地まで地下鉄で戻った。
「まずは水源の確保だな。アクア、どこらへんを掘ればいいかわかるか」
「早速、子供任せなのね。コーイチは」
「俺に期待する方が間違ってると思うぜ」
チェルのチャチャが入ったが、逆立ちしても覆せないことはわかっている。甘んじて受け止めておくぜ。
水に関わることならアクアだな。もしもわからなかったら、無理やり魔法で作りあげるしかない。
「えっと、ちょっと待ってね。探してみる」
アクアは不安そうに眉を八の字に顰めながら、周囲を見渡した。
つられて俺もだだっ広い荒野を眺める。
しっかし、いつ見ても何もないことで。ホントに城なんて建てられるんだろうか。
膨大すぎる魔王計画。途方に暮れていると、ちょこちょことアクアが走りだした。
「んっ、どうしたアクア?」
……アクアが返事も返さずに走り回るなんて。あっ、止まった。なんか見つけたのか?
「キヒヒ、どうしたアクア。わからなかったら降参ですって、泣いて謝るんだぜ」
「おいデッド、だれもそんなルールなんて決めてねぇぞ」
呆れながらデッドを宥めていると、アクアが振り向いた。
「パパ。ここ、ちょっと深いけど水源あるよ」
「そっか……マジで!」
てかあるの、水源。
「じゃあ早速、俺の地形変化で掘り当てます」
グラスが腕を回しながら、やる気になって水源に向かう。
「待てグラス。その前に確認するが、ホントに掘れば湧くのか?」
「うん。水の気配があるから、間違いないよ」
迷いなく頷きやがった。アクアのことだから、よっぽど自信があるんだろう。
「オーケー。グラス、とりあえず池を作ってヴェルダネスまで川を流すぞ。それから、池とは別に井戸も掘ってくれ」
「わかりました。ただ規模が大きいので、すぐにはできないと思います」
「そりゃそうだ。どう考えても大規模だからな。時間がかからない方がおかしいっての」
グラスもマジメなこった。うまく息抜きできるように調整してやらなきゃな。
「とりあえずは、今日中に池の形を作れればバンバンザイだな。後は城を建てる前に仮拠点を作りたいな」
「仮拠点って、鳥の巣でも作るの?」
「いや、エアはそれでもいいかもしれないけど鳥の巣はねぇよ。とりあえず十人で寝泊まりできる環境がほしいから、二階建ての一軒家だな」
ぶっちゃけると、魔王城よりも一軒家の方が本命だったりする。
「いいですね。雨も降るかもしれませんから、瓦屋根は必須です」
「えー、そんなのかわいくないよ。ヴァリーちゃん、屋根は円柱形で尖った青色がいいなー」
シェイとヴァリーが変なところで火花を散らしやがった。ヴァリーには悪いが俺も日本人だからな。瓦屋根のが落ち着く。
「ヴァリー、そういうのは魔王城でやるって決めたんだろ。仮拠点は瓦でいこうぜ」
シェイに軍配を上げると、ヴァリーは膨れてしまった。
「もー、パパってばわがままなんだから。わかった。今回はヴァリーちゃんが引いてあげる。感謝してよねー」
相変わらずストレスをマッハで増加させる言い方をしてくれるぜ。そこがかわいいんだけれども。
「ありがとな、ヴァリー」
俺は礼を言って、頭を撫でた。オレンジの瞳をトロンとさせて機嫌がよくなるのだから、ホントにかわいいもんだよ。
「ってことでグラスに池を作ってもらっている間に、俺たちは家を作るための材料をブラックホールから運ぶからなー」
「まったく、どうしてミーがオヤジのお手伝いをしなければいけないんだか」
考えがまとまったと思ったら、シャインがそっぽを向いてグチりだした。
俺はフォーレに視線を向けて、心のなかで頼む。
フォーレ、シャインのバカが機嫌を損ねた。発破をかけてくれ。
緑色のトロンとした瞳と目が合うと、コクンと頷いてくれた。そのまま、シャインのもとへ歩み寄る。
「シャイン。あたいねぇ、家を建てられるようなぁ、逞しぃ人が好みなんだぁ」
「はっはー。任せていたまえフォーレ。ミーが立派な家を建ててみせよう」
シャインはフォーレ……というより女に頼られてやる気を最高潮にした。もはやうるさいくらい滾っている。
鶴の一声って言うには大げさだが、シャインはホントに簡単に手のひらをひっくり返してくれるよ。単純すぎて心配になるぜ。
「よーし、シャインもやる気になったところで資材やら道具を運ぶぞー。家の建て方だけど、これもマイルームでググってくれー」
「またそのパターンかよジジイ」
デッドの罵倒が飛んでくるが、気にしてなんていられねぇな。
ひょっとかしたら建築関係のなろう系小説が転がっているかもしれないから、見つかったら技術を盗んでしまおう。
小説になっているから、一からわかりやすく物語になってんだよね。利用の仕方を間違えていることは知っているが、使えるもんは使った方が得だ。
ビバ、マイルーム。
「ふふっ、仮拠点がどうなるか楽しみだわ」
「そんな下手にプレッシャーをかけるなってチェル。所詮は仮拠点なんだからよ」
微笑むチェルを、苦笑しながら宥めるのだった。
後に電車で材料を運んだり、池を作ったり、ヴェルダネスの村人に料理をふるまったり、木材の加工やらなんやらやっているうちに、いつの間にか一週間がすぎ去った。
「……マジかよ。一週間だよな」
俺は呆然と見上げていた。立派に建っている二階建て一軒家を。外装は完全に日本住宅だ。石のプレートには『高橋』と漢字で彫られていた。シェイのこだわりだろう。
もちろん見かけだけではなく、内装もしっかりとしている。
和室はないがフローリングの床にテーブルにベッドと、おそらくイッコクの水準を上回る住宅が完成していた。
そして振り返る。何もなかった荒れ地に、きれいな池。
グラスが一週間で水源を掘り当てて仕上げたようだ。ついでにどういう原理かは知らないが、新築に魔力式の水道を完備させて繋げたと言っていた。
「どうですか。立派な仮住まいになったと、自分たちは自負していますが」
「いや……立派すぎだろ」
俺は新築を指差しながら、呆然と答えることしかできなかった。




