112 忘れ去られた村
見かけた村を侵略しようと思った俺たちは、遠くから観察することにした。双眼鏡は開発済みだ。
「通りすがったときにもチラっと見たけど、よく生活できてるよな。こいつら」
開けた荒野にお粗末な建物が点々と立っていた。細く頼りない木を組み合わせて作った建物は、どうにか枯れた葉っぱで屋根が作ってある程度。壁も申し訳ないぐらいに、ボロい板を立てかけてあるだけだ。
「なんだか寂しい場所だね」
アクアが同情するように目を伏せる。
村と呼ぶにはおこがましいくらいに寂れている。アクアじゃなくても哀愁を覚えちまうぜ。
「みんな元気がないね」
エアが残念そうに呟いた。村人はみんな、くたびれた老人のように見える。実際に年をくってる人もいるんだろうけど、見た目より若い人もいるかもしれない。
「それにしても、身に着けているものが貧相だね。ミーなら遠慮したいよ。女性の露出は大歓迎だけどね」
シャインがほざいた。ハーフ状態から人間状態に戻っていて、みんなより少し身長が高い。青いワイシャツに白くスラットした貴族っぽいパンツを穿いている。
「よく見てくださいシャイン。男のポロリもありそうですよ」
「やめてくれシェイ。ミーは男の汚いケツなど見たくない」
シャインとシェイが漫才している。村人たちは使い古したボロ布を身体に巻き、肌をギリギリ隠していた。
「不潔なぁ、感じもするなぁ」
お風呂どころか川すらない。体臭もキツイかもしれない
「活気がないですね。こんな場所じゃ張合いもありませんか」
グラスの言うとおりだ。草木も生えず、動物もいない。襲ってくる人間すらもいないからか、塀すら立ってない。
シャイン同様、グラスも完全人化の姿をしていた。
茶色い切れ長の釣り目に、ワイルドな金髪ショートヘアをしている。服は無地の黒タンクトップに群青色のカーゴパンツだ。
「ケッ、張合いのなさそうなやつらだぜ。こいつら侵略しても意味ねぇんじゃねぇか」
デッドじゃないが毒をはきたい気分もわかる。目的は殺すのではなく労働力にすることだからな。
「でもでもー、女の子も一人いるよー」
「何、どこだ!」
ヴァリーの一言で全力サーチをする俺。双眼鏡は視野が狭いのがネックだ。おっ、いたいた。
まだ子供だからか、緑色の瞳はキラキラ輝いていてとてもいい笑顔だ。表情がちゃんと生きている。年齢は小学校、高学年くらいかな。黄土色のボサボサ髪をサイドテールしている。
場所のせいで肌は薄暗く汚れていて、身体つきも細い。
「ヴァリー。あなたの不用意な発言のせいで、コーイチのロリコンが発動したじゃない」
「チェル。人のロリコンを発作みたいに言うのはやめてくれ」
「ロリコンは認めるのね」
「おうよ!」
チェルは呆れたようにため息をはいた。
認めざるを得ねぇだろ。幼女はあどけなくて、隙だらけで、かわいいんだから。眺めていても警戒されにくいし。
街ゆくお姉さんの胸とか凝視するのは、視線がバレそうな気がして怖いんだぞ。小心者の俺はすぐに目を逸らしちゃうんだからな。
「ねぇ。ロリコンって何」
「それはねーアクア。ヴァリーちゃんたちを愛する人のことだよー」
ヴァリー。間違っちゃいないけど、アクアに余計な知識をつけるのはやめてくれ。ここは話を逸らさなければ。
「チェル。この村の情報はあるか」
いかにもマジメくさった感じで双眼鏡を外し、チェルに鋭い視線を向ける。
「忘れ去られた村『ヴェルダネス』総人口は約五〇人。若い村人が稼ぎに出て、食料を持ち帰ることでどうにか存続しているわ。けど……」
「このままじゃぁ、どの道ぃ……滅んじゃうねぇ」
フォーレが言いにくいところを、のんびりと引き継いだ。
「ンだな。いきなり働かせても、あいつらの体力が持たなそうだ」
まずは栄養バランスのいいメシを与えてやらないとな。開拓はその後だ。
「キヒっ。めんどくせぇから占領してから考えよぉぜ」
「でもデッド、見た感じ三〇人ぐらいしかいないよー。きっと若いのは出稼ぎ中だよー」
「若いのは後回しでいいでしょう。今は目前の村人を対処しておきたいです」
シェイの言うとおりだ。俺たちは時間をかけても問題ないが、村人たちのタイムリミットが近そうだ。
「よし、早速だが侵略を開始するぞ。お前らの成長を俺に見せてくれや」
子供たちを振り返ると、凛々しい表情で肯定が返ってきた。頼もしい限りだ。思わず口元が緩んじまうぜ。
「よっしゃ。ヴェルなんやらの村……」
「ヴェルダネスよ」
チェルが嘆息しながら補足する。
「ヴェルダネスの村人たちに夢を見せてやろうぜ。とびっきりの悪夢をな!」
「おー」
俺のかけ声に合わせて、子供たちが鬨の声を上げた。
やってやるぜ。きっと俺は悪い笑みを浮かべていんだろうな。
「コーイチ。とても笑顔が輝いていてよ。幼稚園児が冒険を企てるような微笑ましい笑顔だわ」
チェルは何を見ているんだか。今から村人襲うんだからな。初めての侵略行為なんだからな。
村人を言いなりにして労働力にするために、メシを無理やり食わせてやるんだからな!
「よし、行くぜみんな!」
俺たちは悠々と、正面から歩いていったのだった。




