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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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99 最上級の啖呵

「相変わらず、人を引き返させるほどの威圧感がある扉だことだ」

 子供たちが昼寝しているところをチェルに任せて、俺は魔王城の最奥に来ていた。

 強大で禍々(まがまが)しい雰囲気の扉だ。この奥はラスボス部屋。魔王のおっさんが豪華な椅子にふんぞり返っているんだろうな。

 この扉を開く人間は、勇者かバカのどっちかだろう。俺は無論、後者だけどな。

 よっ、とかけ声をあげながら気軽に押し開けた。

 ラスボス部屋に来るのはまだ三回目だけど、かなり気軽になったもんだ。

 奥にはデカくて座り心地のよさそうな玉座と、魔王。部屋は何度見てもだだっ広い。

「むっ、だれかと思えばキサマであったか。また(ひさ)しい顔ではないか」

「よぉ魔王のおっさん。ちぃと聞きたいことがあったんでな、アポなしでこさせてもらったわ」

 片手をあげて軽く挨拶しながら、フランクに近づいた。

「ふっ。しばらく見ないと思ったら、随分となれなれしくなったものだな」

 魔王のおっさんは鼻で笑いながら、あごをさすって訝し(いぶか )んでいる。

「リアさんと出会っていろいろ聞いたら、オドオドしてんのがバカらしくなってきた。そんだけだよ」

「なるほど、もっともだ。リアの器は(うつわ )計り知れないからな。ワシでさえ手玉に取られてしまう」

 納得すると、ガハハと豪快に笑った。

 愉快のはいいけど音量がデカすぎだっての。部屋が震えてんじゃねぇか。

 耳を塞ぎたい思いを蹴散(けち)らしながら見上げる。ノンケなおっさんだけど、身体を凝縮させるような威圧感は本物だ。

 この恐怖感の塊が魔王なんだよな。対して俺はゴブリン以下。改めて勇者すぎる企みを持っちまったって感じるぜ。

「してキサマは何をしに、ここに来たのだ。よもや今更、友好を育も(はぐく )うと思ったわけでもあるまい」

 ぎこちない笑みを浮かべていたら、疑問の眼差しで睨まれた。傍から見た俺はさぞ、胡乱(うろん)げに見えるんだろうな。

「それも悪くはないんだけど、残念ながら別件だ」

 俺は目を閉じて、子供たちとのやり取りを思い出す。

 フォーレが最後に背中を押してくれた言葉。

 

 あたいたち全員がぁ、ついていきたいって思える男気を見せてよぉ。


 かなり険しい一歩目になる。なんせ相手は、最強の魔王。けど、もぉ引けぇねんだ。

 目を見開いて、瞳孔(どうこう)のない赤い瞳を睨み返した。

「人間が魔王になる方法を教えろ。俺がおっさんの後を継いでやる!」

 正直、まだまだ全然覚悟ができていない。魔王をやる知識なんてこれっぽっちもない。けどこのままチェルを魔王にすることだけは、できない!

「クッ……フハハハッ。キサマが、ゴブリン一匹に劣るほどの弱さを持つキサマが魔王になるか。いや、実に笑わせてくれる」

 冗談に聞こえたのか、手すりをバンバンと叩きながら笑ってくれやがった。

 バカにされているのに怒りが湧き上がってこないのは、正論すぎるからなのかもしれねぇ。

「ムチャなことは百も承知だ。俺に力なんてねぇからな。けど、戦力はあるつもりだ」

 魔王のおっさんは笑いを消すと、ほぉっと感心した微笑みを浮かべた。

「生まれたばかりの子供たちのことか。期待はできるようだが、それだけではな」

「俺はともかく、あいつらを甘く見るなよ。俺はステータスを見るスキルを持っていてな、魔王城にいるモンスターよりかはよっぽど強くなってるぜ」

 成長の過程(かてい)でテキトーにチェックしている。全部ホントのことだ。戦闘経験がないから実力は発揮できないだろうけどな。

「キサマにそのようなスキルがあろうとはな」

 感心しているように頷く魔王。言いはしないけど、後二つスキルを持っているぞ。どれも育成用のスキルに成り下がっているけどな。

「生後六ヶ月でこの成長、大人になれば魔王クラスの強さまで育つぜ、きっと。動かせる駒があるんだ。俺がハリボテでも勇者と()り合える」

 勇者と戦うなんて俺には不可能だ。戦いなんて次元まで俺が粘れない。できることは挑発と命令だけ。

 最上級の啖呵(たんか)だけで、勇者と渡り合ってやる。

「なるほど。覚悟はわかった。だが残念だったな。ワシは魔王のなり方なぞ知らん」

 厳つい顔を横に振って、諦めろと促してくる。

 だがそんな一言で引くようなら、最初から魔王に会いに来てねぇよ。

「ンなこと言わずに教えろや。なれるかどうかはまた別の話なんだからよ」

 とにかく知ることが大事だ。諦めるとしたら、もがいた後じゃなきゃいけねぇ。

「心意気はいいが、本当に知らんのだ。そもそも魔王はなるものではなく、生まれるものだからな」

 イッコクという異世界のシステム。記憶の奥底にあった話が不意に思い出された。

 世界に滅亡(めつぼう)が訪れそうなときに、魔王は現れる。

 チェルの勉強だったのか世間話だったのか覚えてないけど、そんなフレーズを聞いた気がする。

「って、だとしたらチェルはなんなんだよ。時期魔王なんだろ」

「そうだ。ワシの血を引く娘だからな。そしてそれは本来ならあり得ない、非常事態を意味する」

「魔王は一度討伐されたら、当分は現れないってやつか」

 おかしいな。聞いても覚えられなかったことが、スラスラと出てきやがる。重要だから思い出せたのか。

「だから魔王は自然と生まれるものであって、自力でなれるものではない。がっ、今はゆがんでいる真っ最中だ。つけ入る隙があるやもしれん」

「ンだよ。可能性があんじゃねぇか」

 勿体ぶりやがって。諦めかけたぞコンチクショー。

 兆しが見えてきた。思わず笑みが浮かんじまう。

「可能性はあるが、方法は知らんのだ。それでも魔王を求めるなら、リアに会いに行け」

「リアさんに?」

 聞き返すと、あぁと頷いた。

「リアの知識と器ならば、不可能を壊すこともできるかもしれん」

 不可能を壊すって……いや、リアさんなら壊すって言葉がシックリくるけども。

 それに言われるまでもなく、リアさんにも相談に向かう予定だったんだ。あの人はいろんな意味で規格外だからな。

「まっ、とにかく。頼みの(つな)はリアさんってことか。サンキューなおっさん。相談に乗ってくれて」

「構わんさ。コーイチよ、見事魔王になって、ワシが嘲笑(ちょうしょう)したことを後悔させて見せよ。楽しみにしているぞ」

「おっさん……」

 何気に期待してくれるんだな。

「限界までもがいてやんよ。俺にも張れるような意地ができてきたからな」

 背中を向け、手を軽く上げて別れを告げる。

 目指す場所は、食堂の奥だ。


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