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第二話 わたしが師匠(2)

改稿(ストーリーは変わりません)

「あの人、どういうつもりなんだと思う? うちの秘術を学びに来たって本当なのかしら。あたし、また変な人に騙されてない?」

「うーん……」

 オリビアはしばらく考え込んだかと思うと、「それは無いと思うわ」と言った。

「あんたを騙すぐらいなら、もちょっとお金持ちそうな家を狙うんじゃない?」

「うっ」

「それに目的が秘術だっていうなら、さっさと教えてあげればいいじゃない。そしたらすぐ帰ってくれるわよ」

 それは確かにそうだった。

 だが、問題の秘術の中身を、メリーシャ自身が知らないというのが一番の問題である。におうのは屋敷の裏にある倉庫だったが、果たしてそんな場所に“一族の秘術”なんて大そうなものがあるとは、とうてい思えない。

「それよりあんた、借金のことは大丈夫なの? 日にち的にそろそろ師弟登録に行かないと、今回の助成金もらい損ねるわよ」

「う、それはあ……」

 半年ごとに支給されるという助成金をもらうためには、さっさと魔術管理局に向かわなければいけなかった。

 助成金、一千万ギル。

 それだけあれば、借金の半分ぐらいは余裕で返せるどころか、おつりが来て生活がかなり楽になるレベルである。背に腹はかえられない。苦渋の決断とはこのことか、とメリーシャは悟った。

 もそもそと椅子に戻ったメリーシャは、意を決して隣のリエルに話しかけた。

「リエルさん、今日は……師弟登録に行くわよ」

 はい、と言ってリエルは微笑んだ。



     ◇



 魔術師見習いが、魔術師になるには二つの方法がある。

 ひとつは魔術学院を卒業すること。

 そしてもう一つは、経験を五年以上積んだ魔術師のもとに弟子入りをすること。

 前者は試験をパスしたエリートしか入学できず、学費もかなりかかると言われる狭き門だ。そして後者は弟子入りさえ認められればたいした費用もかからず、かつ親もとから離れてしつけの一環にもなるという、昔ながらのやり方だった。

 それでも年々減りつつあるという魔術師を復興するために、魔術国家であるデスタン王国では魔術師の師弟制度を優遇する措置が取られていた。

 師弟を結べば、教育費として半年に一度、一千万ギルという大金が支給されるのだ。だいたいにして魔術書や調合器具、実験器具なんかは値段が高いと相場が決まっており、学院生にひけをとらない教育のためには、これぐらいの額は必要であろうということらしかった。

 もっとも、そのお金を借金返済にわりあてようとしていたメリーシャは、あまり大手を振って歩けない立場であったのだが……。正直、お金の面だけで言うのなら、やってきた弟子がリエルでメリーシャは内心ほっとしているところがあった。


「ねえ、リエルさん。あたしたち絶対なにか言われると思わない?」

 魔術管理局にふたたび訪れたメリーシャは、隣に立つリエルに、ぼそっとつぶやいた。

 すぐ目の前に“師弟証明書交付窓口”と書かれた看板がさがっていたが、ここまで近寄りがたいと思ったのは初めてだ。

 施設内には、彼女たちと同じく師弟登録に訪れたと思われる二人組がちらほらと見られた。

「あらあ、あなた達も師弟登録に?」と、その集団のひとりであった、世話焼きそうなおばあさんが話しかけてきた。

「そっ、そうなんです」

 絶対勘違いされてるなと思いつつ、メリーシャは笑顔を向けた。余計なことは言ってくれるな、と背後に見えない視線と飛ばしながらメリーシャが世間話をかわしていると。

「うちの師匠可愛いでしょう? 私もいいところに弟子入りできたと思っているんですよ、いや本当に」

「え? あら、あらあらそうなのね? あなたが弟子なのね、そうなの」

 にこにこ顔のリエルが、おばあさん魔女の手を取って楽しそうにそう言った。若干引きつった顔のおばあさんは、ぶんぶんと手を握られながら戸惑いがちに、

「最近はそういうのが流行りなのかしら……」とつぶやき――…

「そんなわけありませんっ!」

 目をむいて怒鳴ったメリーシャは、リエルの服をひっぱりながらどしどしと“師弟証明書交付窓口”へと歩みよった。

「あはは、いまの師匠っぽかったですよ、メリーシャ」

「あなた楽しんでるでしょう!? 人の気もしらないで……!」

 おかしそうに笑うリエルを見て、メリーシャは頭が痛くなった。なんて捻くれた嫌らしい人なのかしら。いっそ本当に師匠としてその根性を叩きなおしたい衝動に駆られたが、十六の小娘ごときにどうこうされる魔術師ではなさそうなのが残念だった。

「ちょっと、窓口のお兄さん! 証明書を交付してちょうだい」

 こんなところ、さっさと登録しておさらばしてやる。息巻く少女を見た役員の男性は、あわてて登録書と羽ペンを差し出した。

「この枠に囲まれた欄に記入してください」

「ふんっ」

 メリーシャは乱暴に羽ペンを受け取ると、書きなぐるように登録書を埋めていった。書き終えた書類を男性に手渡すと、案の定、彼はおずおずと言ってきた。

「すみません、この欄とここの欄、お名前が逆なのでは――」

「うっさいわね、わたしがこいつの師匠なの!」

 メリーシャは、ほとんどやけくそだった。

「こいつはわたしの弟子! なんか文句あるわけ!?」

 リエルは隣で、面白そうに笑っていた。



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