プロローグ 最強最弱の魔王
初めまして。
俺の名前はソル。
色々あって、今はこの異世界で現魔王をやらせて貰ってる者だ。
ほんの数ヶ月までは日本で学生やってた筈なんだけど……。
「出たな魔王! その命、今日こそ我々が貰い受ける!」
ま、何はともあれ、こうして今日も俺は人間に命を狙われているって訳だ。
ここは魔王城の中枢に程近い、謁見の間。
魔王の一族が生活する居住スペースと外界を繋ぐ場所でもある。
たまに攻めてくる人間に対しての最終防衛ラインであり、普段は普通に他の魔族との社交の場だ。
造りも守りも中々頑丈で、この城が出来てからそろそろ七千年が経つそうだが、一度も破られた事が無いそうだ。
もっとも、人間の侵入を許したのは今回で五度目で、ここまで来られる事の方が問題なのだが。
「忌々しき悪の王め! 観念しろ!」
言い捨て、玉座に座り頬杖を着いたままの俺に対して、躊躇無く剣を向ける、人間の聖騎士共。
俺だって今は魔王なんかやってるが、歴とした人間だ。
翼も生えてなければ尻尾もまた然り。
見た目上、身体だって貧弱で、こうして玉座に座ってなければスルーされそうなくらい威厳もない。
こんなんで魔王が務まるのかって?
無理だね。
現にこうして、魔王城の深部まで攻め込まれてる訳だし。
「腰が重たいなぁ……」
言いながら、俺は俺には大きすぎる椅子から立ち上がる。
「『主よ! 我等が剣に聖なる光を!』」
「『主よ! 我等に巨人の力を!』」
「『主よ! 我等に鋼鉄の加護を!』」
途端、目の前の聖騎士達を淡い光が包み込んだ。
これは人間が神に祈って身体能力や防御力等に補正を掛ける、『祝福』と呼ばれる技能だ。
ま、実際は魔力活性による各種パラメータの底上げであって、神なんてモノは存在しないがな。
神を信仰しない俺でさえも、こいつ等よりもかなりの高クオリティで似たような事ができる。
種族に『魔』が付くだけあって、魔力についての研究は人間よりも魔族の方が大分しっかりしている。
俺もこっちに来てから数ヶ月、前魔王に扱かれた甲斐はある。
「俺の名前はソル。知っての通り十三代目魔王だ」
玉座の位置は人間たちがいる場所よりもやや高く、聖騎士達全員の顔が見える。
憎しみの籠もった目で俺を見る人、人、人―――
「現魔王である俺に剣を向けるなら、そいつには死んで貰う決まりだからな」
思わず溜息も漏れるってもんだ。
「これからお前等を虐殺しなきゃいけない俺の気持ちも考えてくれよ」
どうしたもんかなぁ。全く。
―――ワクワクするぜ。