誰も見てはならぬ
何か、変なスイッチが……入り……ました……。
歯が溶けるくらいのアホ甘です。
「おはよう、愛しのロッティ。今日も一緒に朝を迎えられたな。嬉しい」
「わたしもよ、おはよう。今朝のあなたもやっぱり素敵ね」
彼女と彼の朝はこうして始まる。
***
ロッティことエシャロットは愕然とした。一拍おいて侍女長に尋ねる。
「いいい今ななななんとおっしゃいましたか」
耳がおかしくなったのかもしれない。一縷の望みにすがろうとしたが、かたわらに座る王女が微妙な顔つきで首を横に振った。
「ロッティ、残念ながら空耳ではないわ」
敬愛するリリー=ルート王女殿下が言うからには、たった今つきつけられた理不尽な命令は本物なのだろう。ロッティの血の気が引いた。
「く、くびになるのですね、わたしは」
「そうは言っていません」
しかつめらしく侍女長が答えた。王宮に勤めて三十年余りになるという彼女は、常に冷静で厳めしい。
「え、でも」
「私が言ったのは、もう夏の宮には行かなくてよろしい、ということです。解雇通知ではありません」
「つまりそれは、もうおまえにやる仕事はない給金もない居場所もない職もないフワハハハザマーミロ、では? 遠回し的な意味で」
涙混じりに訴えかけると、なぜか笑い声が聞こえてきた。王女だ。
「ふふふ。ごめんなさい、あんまりロッティが愉快なものだから、つい。大丈夫よ、あなたがいなくなると確実に毎日が退屈になるもの。そんなことには耐えられないわ」
「宮さまあああ! わたしも宮さまのお顔を見られない日々なんて願い下げですわ!」
「――続けてよろしいですか」
主従の愛情確認をぶった切って、侍女長が愚かな部下を睥睨した。彼女にとって、ロッティのごとき小娘は基本的に、愚昧で幼稚でどうしようもないが見捨てられない生徒、のようなものだ。
「どうぞお続けになってください侍女長さま」
「今後のあなたの職場は、ここ、春の宮に限られます。要するに伝達係の任は解かれますから、今日からは侍女としての仕事に専従してください」
「あら、まあ。なんだ、そういうことですか」
国の要人たちの執務室が並ぶ夏の宮では、その特性柄、他所との連絡を密に取ることが重んじられる。春の宮の主人たる王女との情報連携も欠かせない。そこでロッティが伝達係の名目で、定期連絡から日々の雑事まで、しばしば使い走りしているのだった。
伝達係の仕事内容は多岐にわたる。もう五年以上はその役に就いてきたロッティの業務は、ふたつの宮を行き来しているほうが王女の側仕えをする時間よりも長いくらいだった。
「なお、夏の宮への出入りは、春夏の宮の連絡通路を含め、一切禁止です」
ロッティの思考が無になった。
「用もないのによその宮にいさせるわけにもいきませんから、当然です。昼夜を問わず、休憩時間であってもなくても、禁止です」
「用ならありあまっていますわ!」
とっさにロッティは叫んだ。侍女長がくいと顎を上げ、これだからこの子は困ると言いたげな半眼で部下を見下ろした。
「自分の夫に会いに行くのは、用の中に入りませんよ、エシャロット。はっきり言えば、王宮内で夫と会うことを今後一切控えてください」
衝撃のあまり口もきけない。これはさすがに空耳ですよね、と王女に目で問いかけたが、先ほどと同じように首を振られた。今度は気の毒そうな顔だった。
「どういった、陰謀なのでしょうか……?」
悲しみと驚きの狭間で、唇をわななかせながら言葉をつむぐ。暗然たる気持ちに胸が潰れそうだ。これは彼と自分を会わせないための、黒い密謀としか思えない。
「そこまでしてわたしたちを引き離そうと躍起になるだなんて……ま、まさか!」
ロッティの脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。大変だ。
「侍女長ったらウォートに横恋慕していらっしゃるんですか!? 恋敵ですか!? 戦いますか!?」
「私がマグウォートに岡惚れ? は! 馬鹿も休み休みおっしゃい。あなたの目にあの若者がどう映っているか知りませんが、いいえ知りたくもありませんが、常識的に見てあれはただの魔王です。そこをゆめゆめ忘れないように!」
侍女長の言い分に、もちろんロッティは痛憤した。夫をそしられて黙っているわけにはいかない。
「聞き捨てなりませんね、ウォートはこの世でもっとも素晴らしい貴公子ですっ。あれほど気高い人もそうはいませんもの!」
賢明にも、王女は生ぬるい目をした貝になった。侍女長は正反対の行動を選んだ。
「は! わかりました、真相を教えましょう。おかど違いの侮辱まで受けながら隠忍してはいられませんからね。よろしいですかエシャロット、あなたがた夫婦が揃った際の周囲への被害は甚大なのです。時も場所も状況もわきまえず、いちゃいちゃいちゃいちゃべたべたべたべた」
「失敬な! 人前ではほとんど触れ合っていませんよ、手もたまにしか握らないほどですわ。そこは社会人ですからね!」
「黙りなさいこの歩く猥褻物」
「ワイセツブツ!?」
ロッティは仰け反った。上品なことで知られる王女は、聞かなかったふりをした。この立ち回りの巧みさが彼女の評判を支えているといえよう。
「あなたがた夫婦は存在そのものが十八禁です。居合わせた人間にことごとく精神的痛手を与えていますからね、人前では会わせないでおくのが最善ということになりました」
「そんな馬鹿な! 宮さまもなんとかおっしゃってください。いいえその前に侍女長、宮さまと近衛の団長だって相当ひどいではありませんか。ふたりのために世界はあるの状態ここに極まれり、ですわっ」
え、と王女の口元がこわばったが、ほかのふたりは言い争いに夢中だった。
「否定はしませんが、王権の前にはささいなことです」
「嘘ですね。そんなごまかし、わたしには通用しません。侍女長ったら、顔が引きつっておいでですわホーホホホ!」
「そんなにひどいありさまなの、わたしたちは……?」
王女は憮然として呟いている。麗しの王女を気落ちさせるつもりは毛頭なかったロッティなので、慌てて訂正を入れておくことにした。
「あ、いえ、団長の盲愛は率直に申し上げてどうかと思いますが、宮さまはあれほど末期ではありませんわ。主人第一の猛獣を宮さまが実にうまく手懐けていらっしゃいます」
「猛獣……あの副団長が“この世でもっとも素晴らしい貴公子”で、ラディッシュは猛獣……」
打ちひしがれる王女を、不敬にも侍女長は無視した。
「答えが出ましたね、エシャロット。宮さまがたについてはそういうことです。だいたい、家で毎朝毎晩顔を合わせているでしょうに、日中に会わないくらいで何をぐだぐだ抜かしているのですか」
「朝は朝、夜は夜です! おわかりになりませんか侍女長? 昼は昼の、昼下がりは昼下がりの、夕方は夕方の、それぞれのウォートがいるのです。あんなに素敵な人は世界にふたりといませんけれど、彼自身の中に多彩な彼がいて、わたしはすべての彼をいつも把握していたいんですわ! ちょっと、聞いてらっしゃいますか」
侍女長は聞いていなかった。心の耳をふさいでいた。無性にむしゃくしゃして腹立たしかったせいだ。
今さらそれを認識し直すのも馬鹿馬鹿しいくらいだが、この侍女と副団長の夫婦は、おかしい。おかしすぎる。
愛に狂った小娘を怒鳴りつけない冷静さを取り戻すために、侍女長は十まで数えなければならなかった。そして最後の手段に出た。
「ここまで言ってもわかっていただけないのなら、当初のあなたの誤解は誤解でなくなるかもしれませんね」
「と、おっしゃいますと……?」
侍女長は言葉を使わなかった。ただ、自らの喉首を手刀で掻き切るしぐさを示した。
ロッティはこの明白すぎる答えで脅された。海千山千の侍女長にかなうはずもなかった。やがてロッティはうなだれながら返事をした。
出勤後すぐ侍女長によってどん底につき落とされてから、半日が過ぎた。ロッティはすでに、軽く三日間は睡眠も食事も取っていない人さながらの状態だった。
事情を知らない者はこの半死人ロッティを見て、明らかに何かが欠乏している、と思った。
事情を知る者は、症状の出るのがあまりに迅速な夫欠乏症だ、と思った。
しかし本人に言わせればそれは至極当たり前だった。
なにしろ朝から一度も彼を見ていないのだ。
いつもなら、揃って王宮に出勤し涙の別れを経て、午前中は何くれとなく夏の宮と春の宮を往復しそのたび彼の執務室を経由したり逆に彼が訪問先で出迎えてくれたり見送ってくれたりして、言うまでもなく昼は一緒に夏の宮で食事を取り、午後は午後で何くれとなく以下略、ロッティの就業時間が終われば彼の仕事を見守りつつ大人しく待ち、出勤時と同じく揃って帰宅する、という日課を消化しているはずだった。
ところが今日は、涙の別れのくだりからずっと空白の時間を過ごしている。
仕事をしていないわけではないが、そもそも王女はあまり人の手を必要としない。侍女の仕事といえば話し相手くらいのもので、伝達係の仕事を取り上げられた以上、ほとんどが暇な時間と化した。やることがないせいで、余計に彼への恋しさが募る。
「宮さま、何かこう、気が紛れるような、過酷な肉体労働の口はありませんかしらね」
「やめたほうがいいわ。あなたにそんなことをさせた人間をウォートが許すはずないもの。死人が出るわ」
「じゃあ、過酷な精神労働……」
「同じことよ」
「ううう、うあああああ」
ロッティの手が震えだした。
「あらまあ、禁断症状? ロッティ、しっかりして。ほら、あなたの好きな『抱腹絶倒格言集』よ。これでも読んで気を紛らわせてはどうかしら。例の爆笑書簡もあるわよ」
「会いたい、会いたいわウォート……ウルトラハンサムで大きくて頼もしくて強くて優しくて優雅で繊細で気品に満ちて雅やかで可愛くて知的で穎敏で頑固でどこもかしこも魅力的なわたしのウォートに会いたい……ああ、目の前にウォートが見えるわ……」
「いけない、幻覚症状だわ」
いよいよロッティは危険な世界に突入しつつあった。ウルトラハンサム以下の形容については全国民から反論が出そうだ、とは王女の感想である。王女は心配する一方で、やはりこのおもしろすぎる侍女を手放しては王宮生活が退屈になるだろう、と確信もした。
「まあ、ふふふ、ウォートったらそんなことを言って、困った人。でも、わたしも同じ気持ちよ」
彼女の目は今やこの世ならざる場所を見ている。室内にいるほかの侍女や召使いたちがこぞって戦慄し、蜘蛛の子を散らすようにロッティから距離を取った。
「落ち着きなさい。ロッティのこれは伝染したりしないから」
王女ひとりが泰然として皆をたしなめた。
「本当に感染しませんか……? その奇天烈ウィルス」
「ロッティさんって、楚々とした大人の女性かと思っていたのに、実際は変人の国の住人だったんですね……」
「王宮に来たばかりのロッティは内外ともにそこそこ淑やかなお嬢さまだったわよ。伝達係になってから化学変化が起きちゃったの」
怯える若い侍女に年かさの侍女が説明した。
「化学変化ですか」
「ひとめでお互い運命の恋に落ちたんですって」
「ぐは」
「わたしが気になるのは、ロッティよりもむしろ彼のほうなのよね……」
思案顔でささやくのは王女だ。
魔王は妻欠乏症にどう耐えているのだろうか。
***
魔王は妻欠乏症に耐える気などさらさらなかった。ロッティが足りないならロッティを補給すればいい。彼にとっては唯一にして絶対の単純明快な論理だ。
ウォートことマグウォートはいまだ事情を知らされずにいた。
男子禁制の女の園である春の宮には、厳正かつ煩雑な手続きを経ねば、いかに近衛騎士団の副団長であっても足を踏み入れることが許されない。この点を鑑みてロッティにのみ夫禁止令を下したのは侍女長だった。
誰も好き好んで魔王の怒りを買うことが必至の忠告などしたくはない。嫌なことはロッティに伝えさせようという魂胆だった。
ウォートは妻から人づてに届いた紙片をそっと撫でた。
紙は器用にも動物の形に折ってあった。伝達係の任を解かれたこと、および今後は昼を一緒に過ごせないことが、涙でにじんだ文字で綴ってある。
「俺のいないところで泣いたのか、ロッティ」
この押し殺した呟きを、運悪く耳にしてしまった部下がいた。彼は総毛立った。本能的な恐怖のためだった。噴火寸前の火山の静けさや、大時化の前の凪を、なぜか彼は思い出した。
副団長は静かだった。
***
ロッティは亡霊のごときおぼろな様相で春の宮の廊下を歩いていた。生者には見えない顔色だったため、外の空気を吸ってくるようにと、命令の形を取って王女が気遣ってくれたのだ。
外と言っても、業務中に春の宮の敷地からは出られない。部外者禁制の中庭に出るくらいがせいぜいだ。
夏の宮へ続く通路の出入り口を、悲愴な思いで横目に見る。経緯を知らされているらしい女性の衛兵たちがロッティに気づき、決まり悪そうに視線を落としつつ、「でもダメ」とばかりに通路に立ちふさがった。
渡る世間には鬼しかいないのか。
ロッティは唇をかみしめた。この癖を見つけるたび、可愛い唇に傷がついてしまうからよせ、と言ってくれるウォートはここにいない。
こんなときロッティは途方もない無力感に襲われる。
もう自分は大丈夫のはずだと幾度言い聞かせても、意味がなかった。
王宮に勤めて麗しの王女に伺候し、何より愛おしい旦那さまを得た今が、何もかも夢だったように思えてくる。
現在のロッティは、みじめな子どもが想像の中にかりそめの幸せを見ているだけなのではないか。
ロッティの記憶は孤独から始まる。
それを孤独と表現することも知らなかった。
家族はいたが、いなかった。彼らにとって末娘であり末妹であったエシャロットは、存在しないものだった。折檻されたり肉体的に傷つけられたりしたわけではない。嫌われていたのですらなかった。ただロッティは、そこにいない人間だった。
ほとんどの家人が認識もしていない地下の貯蓄庫の片隅で、ロッティは日がな一日ただぼんやり過ごしていた。
生きていくにあたって特に不便はなかった。大量に格納されている保存食料や、心ある下働きの者がたまに恵んでくれる布きれや衣服によって、衣食住は保証されていた。
自分を不幸とは思っていなかったし、それは今になって思い返しても変わらない。ロッティは、どうしようもなくひとりだっただけだ。
言葉は外からもれ聞こえる人々の会話や、周りに置いてあるものに書かれたメモやラベルの文字でいくらか覚えたが、この国の人間が身につける最低限の教養にもほど遠かった。それを疑問に思うだけの知識もなかった。
ロッティの人生が一変したのは、十歳になるかならないかというころだ。
人生のすべてだった暗い一室に突然まばゆい光が射し、わけもわからず抱え出された日のことは忘れられない。
外界のあまりの明るさに、ロッティは目を開けられなかった。それはロッティの人生が幕を開けた瞬間だった。
ロッティは王立の孤児院に預けられた。
身体を清潔にしてもらい、綺麗な服を着せてもらい、温かい食事をもらい、ふかふかのベッドを与えてもらい、教育の場を用意してもらった。
ロッティは生きることを始めた。
周囲も驚くほどの勢いでさまざまなことを吸収していった。ロッティは世界に飢えていた。乾いた砂が猛烈な速度で水を飲み干していくように、ありとあらゆる知識を求めた。
情緒面の発達も遅々としながら日ごとに進んだ。ロッティの学びは今もずっと続いている。
ほとんど見たこともない肉親たちの行方について、ロッティは多くを知らない。わかっているのは、あの家にはもう誰もいないという事実だけだ。
教師のひとりがバイコクドと言い表していたのを覚えている。売国奴という言葉の意味をほどなくして理解した。
彼らがロッティを放置していた事情は、あとになっても不明のままだった。おそらくは意味などなく、理由すらもなく、ただ本当に関心がなかったのだろうとロッティは感じている。
やがてロッティは偶然に、自分をあの卑小な世界から救い出したのが、このキューカンバー国の王女であるリリー=ルート殿下の一存だったことを知った。
国王陛下の懐刀とまで噂される王女は、そのころ秘密裡に、一部では公然と、諜報活動を担っていた。その一環として入手した情報により、王女は哀れな下級貴族の娘の存在を発見し、たちどころに救出を決めたそうだ。
以来ロッティは王女を崇拝している。ロッティには、王女が国に関わるすべてについて知悉しているようにさえ見えた。せめてもの恩返しにと、院の責任者に願い出て王宮への出仕を取りはからってもらった。
ロッティはひとりではなくなった。
けれど働き始めてなお、寂寥感の自覚さえおぼつかなかった。
無意識に渇していた。何かを必要としていることに気づいていなかった。他者の真心にふれて感じ入る一方、ひとつの欲求の萌芽にはまるで無知だった。
やがて彼女は彼と出会った。
その瞬間、渇きの正体について天啓めいた理解が訪れた。ロッティが求めるものを彼だけが持っていた。
ロッティは、愛したかった。特別なひとりを愛し、愛されたかった。それが真実だった。
ロッティとウォートは呼吸するよりも自然に手を取り合った。もう一生、いやさ死んでもこの手を離すものかと自分に誓った。彼の手に込められた力と瞳にも、まったく同じ決意が込められていた。そうしてふたりは結婚した。
過去に置き去りにした孤独感が、しばしばロッティを苛むようになったのはそれ以後だった。
何があっても失いたくない存在を得ることで、孤絶への不安が膨れ上がり、破裂しそうになった。あたかもそれは、地下室にうずくまる哀れな子どもの逆襲だった。忘れるな、と言われている気がした。
ウォートは何も言わなかった。ただひとりで泣くことだけはするなとロッティに約束させ、決して彼女をひとりにはしないことを行動で示した。
だからこそ、苦しみがむしろ幸福の証であるとロッティ自身が納得できるようになるまで、長くはかからなかった。
彼さえいればロッティが孤独になることはない。
また、喪失の恐怖におののいているのがロッティだけでないことも悟った。
過去の忌まわしい記憶にすら妻の心を奪われたくない、と無言で告げる雄弁な彼の目に、時折、独占欲とは違う暗色が見え隠れする。それは彼も自認しているとおり、ロッティを失う恐れとその後ろに待ちかまえる狂気だった。
ああ、彼が愛おしい。
ロッティは息苦しさをこらえるように、拳を胸に強く押しあてた。
そうだ、自分はひとりではない。ロッティにはたくさんの上司や主や同僚や友人がいて、最愛の人もいる。夢ではない。夢であるわけがない。
けれどそう確信できるのも、常にウォートを身近に感じられるときに限られる。
今はあたかも世界に見捨てられたような気分だった。被害妄想もはなはだしいと頭では理解しているのに、心が勝手に絶望する。怯え出す。悪夢が胸に忍び寄る。ロッティのそばには誰もいない。誰も自分を愛さず、憎まず、目に留めず、気にかけず、関心を払わない。
ロッティは、ここにいない。
魔法の呪文を唱えるように、ロッティは唯一絶対の名を口にした。
「ウォート……ウォート!」
「ロッティ」
今度は幻聴ではなかった。幻覚でもなかった。
部外者がいるはずのない中庭で光を浴びながら、彼女の夫はそこにいた。
ロッティの世界は彩りを取り戻した。
いったい何を怖がっていたのかもわからなくなる。彼がいてくれるなら、不安などどこにもない。
「ロッティ、遅くなった」
「待ってたわ、ウォート!」
この明らかにおかしいやりとりを、中庭担当の衛兵たちは「ええええええええええ」と度を失って刮目した。状況もおかしいが会話もおかしい。つまりこの夫婦はおかしい。
本来なら彼らを止めねばならないのだろうが、衛兵たちは己の心と命が惜しかった。できることといえば、可能な限り遠巻きに監視するくらいだった。
周囲の動揺をよそにロッティは夫のもとへ走り出した。彼も近づいてくる。
しかし残り二歩のところで、彼女は動けなくなった。少し我に返った。喜びに身を任せたいのはやまやまだが、代償が大きい。解雇されては元も子もないのだ。
「ロッティ?」
「い、今はだめなのよウォート……!」
苦渋の思いで彼を拒む。これほどつらいことがこの世にあろうか。見守る衛兵たちからは「がんばれエシャロット! 負けてはダメよエシャロット!」という応援の思念が一身に注がれている。
「来い、ロッティ。来ないなら俺が捕まえる」
彼に抱きつきたくてたまらない彼女の本音を知っているウォートは、退く構えを見せなかった。一歩を詰める。
ロッティはジレンマに身悶えながら彼を見上げた。それが失敗だった。彼の瞳に逆らえたためしなどないのだ。
「泣いたのか。約束しただろう、ロッティ。俺の天使」
彼女の愛する、力強い真摯な瞳で、まっすぐ見すえられた。瞳に限ったことでもないが、いつでもどこでもロッティは瞬間的に魅了される。
「そうだったわ……ひとりでは泣かないと約束したのに、わたしったら。ごめんなさい、ウォート」
何も考えずロッティはふらふら彼に歩み寄った。周囲の人々の嘆きの霧にはもちろん気づいていない。
距離がなくなった。
「ウォー……むぐ」
彼は問答無用でロッティを抱きすくめた。ロッティは反射的に彼にしがみついた。愛と幸せのすべてがここにある。
ウォートの左胸には、百合をかたどったブローチが縫い付けられている。騎士としての彼が、ロッティに生涯の忠誠を誓ってくれた証だ。
「違うわ、あなたがわたしの天使なのよ……」
「そんなことを言うのはきみくらいだがな」
このときばかりは衛兵たちも、こぞって彼に同意した。あの恐怖の権化を天使呼ばわりとは、実に信じがたい。どうかしている。
「唇から血が出ている。可哀想に、痛いだろう。消毒が必要だな」
「悪い人ね、ウォート。見え透いた提案をしながら顔を近づけないでちょうだい」
「心外だ。俺はこんなにもきみを案じているのに。きみのその誘う唇が悪い」
今このときこうしなければ死んでしまう、とでも言いたげな雰囲気で彼らの抱擁は続いた。固唾を飲んでいた周囲の人々がだんだん不愉快な気分になっていっても、まだ続いた。
「みんな、どうしてわからないのかしら。あなたがこんなにも恰好よくて廉潔で誇り高くて素敵に無敵だってこと」
「ロッティにだけ、そう思われていたい。誰がどう評価しようと、俺が気にするのはきみの目にどう映るかということのみだ。その、曇りなく澄みきったふたつの瞳に」
「もう、ウォートったら。でも、わたしだけがあなたの素晴らしさを熟知しているというのも、悪くないわ……」
もし事情を聞いて彼らに同情した人間が王宮にいたとしても、ここに居合わせれば考えを翻したに違いない。現に衛兵たちは全員、確実にどこかがおかしいこの夫婦に、心ゆくまで石を投げつけたい心境だった。このままでは心の健康を害しそうだ。
侍女長の英断を、彼女らは誉めたたえた。
この空気に水をさすことのできる人間は、そう多くない。侍女長が不穏な事態を察知して中庭へやってきたことは、それゆえに、衛兵たちにとって大いなる天の配剤だった。
侍女長はただちに状況を理解した。
問題の副団長が春の宮にいるのは知っていた。厳正かつ煩雑なはずの手続きを、畏れ多くも王太子まで使って短縮・簡素化し、首尾よく入宮の許可を得た男について報告を受けたからこそ、彼女は急いでこちらへ向かったのだ。
「エシャロット!」
矢のごとく放たれた一声に、ロッティはそれまで麻痺していた良識を呼び起こされた。
「お願いウォート、どうか離してちょうだい」
「嫌だ」
「ウォート!」
必死な形相で言い募る妻に、しぶしぶ夫は折れた。
「あ、あのね、ウォート」
腕を逃れ、ロッティは説得を試みる。決して彼を直視しないことが重要だ。見なければ理性を保てるかもしれない。
「俺のロッティ。困った顔も可愛らしい」
「うう!」
だめだ、聞くのもだめだ。しかし耳をふさいでもどうせだめだ。しょせんロッティは彼の気配を感じるだけで陥落してしまう。そういう星のもとに生まれてきたのだ。
「わたしのウォート……」
性懲りもなく彼に手を伸ばしそうになって、とうとうロッティは解決をあきらめた。話は帰宅してからでもできる。ここにいては危険だ。解雇通知まで一直線だ。
「ごめんなさい愛してるー!」
身を翻してロッティは逃げた。
泣いてはいけない。彼のいないところで泣くわけにはいかない。それに、彼を振りきったのはロッティのほうなのだ。
なんということをしてしまったのだろう。
ロッティはひどく後悔していた。彼を拒絶することだけは、絶対にしてはならないことだった。
彼が内心の鬱屈を吐露してくれた日のことを思い出す。
俺は欠けている、とウォートは言った。
――何がどう、とは説明しにくい。ただ俺には欠陥があって、世界と折り合いが悪い。
騎士の家系に生まれ育ち、なんら不自由のない半生を送ってきた。早いうちから己の“不足”に気づいたが、その理由も実体もわからなかった。
やがて、欠落部分には凶暴な獣が棲んでいることを自覚した。自他の破壊と暴力と血と痛みを好む、狂った獣だった。
獣は世界を憎んでいた。それ以上に世界に憎まれる性質を備えていた。
長い間、彼はこの内なる獣を殺すべきか懐柔すべきか、決めかねた。それはウォートの一部だった。殺せばウォートも死ぬだろう。かと言って獣は容易に飼い馴らされるような従順さとは対極にある。
彼はいつも戦った。敵は外界よりむしろ内面にいた。とうに習い性と化しており、苦しいともつらいとも感じてはいなかった。
騎士になるころには、己の問題がさほど特異でもないと知った。身の内の破壊衝動に抗う人間は案外、大勢いた。
ただし、いずれの獣も彼のものほど強大ではなかった。彼はほとんど諦めて日々を過ごしていた。
やがて彼は彼女と出会った。
ひとめで恋に落ち、その直後、例の獣が彼と同じ速度で彼女に降伏したのを悟った。
おそらくそれは必然だった。ウォートはロッティに会うために生まれ、生きてきたに違いない。
彼からその話を教えられたとき、初めてロッティは嬉し涙というものの存在を、身をもって知った。
そのロッティが、彼から逃げたのだ。
今すぐ謝りに行きたかった。そうせねばならなかった。
ロッティがすべきことは決まっている。
「というわけで命令解除をお願いしますわ」
「というわけで、の意味がわかりませんがとにかく駄目です」
「そこをなんとか!」
「どこもなんともなりません」
侍女長は頑なだった。
「侍女長、少々お年を召されすぎたのでは? あまりに頑迷です。可愛い部下の話くらい聞いてくれてもいいのに」
「わたしは非暴力主義ですが、今だけは撤回しても許されるのではないかと思っています」
「鬼! 人でなし!」
「破廉恥小娘に言われたくありません」
「あんまりじゃありません!? こちらが大人しく聞いているのをいいことに悪口雑言の数々!」
「は! どの口がそのような厚かましいことを。あなたが大人しかったことがありますか!」
幼児の喧嘩なみに理性と知性のない口論を、王女は見ていなかった。ほかに止めに入る者もいなかった。だからこそ押し問答の次元がここまで低下したともいえる。
「ねえ」
王女はというと、なにやら熱心に窓の外を見ていた。
「宮さま、そんなに身を乗り出されては危のうございますわ」
「気をつけるわ、ありがとう。でも、ちょっと見てほしいのよ。そこのふたりに」
呼ばれて、窓に近いほうにいた侍女長がまず王女の隣に移動した。
「外ですか? ひ!」
滅多なことでは驚かない彼女が小さく悲鳴を上げた。
「エ、エシャロット。おいでなさい」
「はいはい」
首を傾げつつロッティも侍女長に続く。この部屋は、縦二層構造の春の宮の上階にあたる。窓からは近衛騎士たちの鍛錬場が見はるかせた。
届かないと知りつつロッティは叫んだ。
「……ウォート!」
「おい、誰かあの人を止めにいけよ」
「無理無理無理無理。死ぬ」
「誰か団長を呼んでこいよ」
「無駄無駄無駄無駄。あの人は宮さまが関わっていない限り、ものを大局的にしか見ない。この程度のこと、とか言うに決まってる」
「三人くらい捨て身で行けば、そいつらが屠られている間にほかの奴らで止められるんじゃないか」
「俺はどっちにも参加したくない」
よりによって今日この日を選んで王宮侵入をもくろんだ過激派アナーキスト集団は、実に間が悪かった。
とはいえ魔王の異名をとる副団長の機嫌の良し悪しを、彼らがあらかじめ知ろうはずもない。詮ないことではあった。
王宮と王族を守る近衛騎士連中に同情された無政府主義団体はおそらくそうはいない。しかし、たとえ有史以来初めての存在だったとしても、もちろん当事者らはそれを光栄に思わなかった。
王宮で使われる水の供給源である井戸に、彼らは毒を仕込もうとした。衛兵も間抜けではないのであっさり計画は失敗した。素早く捕縛された彼らは、なぜか屋外の鍛錬場へ引き立てられた。
そこに魔王がいた。
言い逃れも弁解も弁明もできず、それどころか息をしていることさえ許す気のなさそうな、地獄の空気をまとっていた。
「トップは誰だ」
魔王の問いかけに、怯えすぎた彼らは答えがなかなか返せなかった。魔王は顔色ひとつ変えず言った。
「答えないなら致しかたない。この中に当たりがいる可能性もあるから、全員殺すか」
「こっこここここここの人! この人がリーダー!」
「おおおおおおおお俺じゃない濡れ衣だ! 本当はこいつだ!」
「いやいや、あいつだ!」
「面倒だ。やはり全員片づける」
仲間の絆が永遠に断ち切られた一幕にいささかの興味も示さず、大儀そうに副団長は告げた。すると一名を除いて皆が同じ方向を指し示した。手足は縛られているので、彼らが必死に使ったのは顎だった。
多数決が事実を明らかにした。
「おまえか。洗いざらい吐け。仲間はどこにいる。潜伏場所は」
リーダーは口をつぐんだ。せめてもの反抗心を表そうと魔王をねめつけたが、すぐ後悔した。格が違った。リーダーもそれなりに気合いの入った反骨精神の持ち主だったが、あいにく彼は魔王ではなく、妻に拒絶されて誰かに八つ当たりせずにいられない状態でもなかった。
「答えられないのか」
言うが早いかウォートは地面に転がっていた鋳鉄製の砲弾を軽々と拾い上げ、無造作に投げた。なぜそこに砲弾があるのか、知っているのはおそらくウォートだけだろう。
すぐに、その場からは豆粒ほどの大きさにしか見えない夏の宮から、巨大な破壊音が轟いてきた。これに震撼したのは侵入者たちだけではなかった。
「――は!? え!?」
「ちょ、何してるんだあの人は! ここでまさかの乱心か!」
「ひいいいいいいいいいいい」
最後の悲鳴はリーダーのものだ。
仲間にすら危険視されている男がただの騎士であるわけがない。やはりこれは魔王だ。次はおまえがああなるぞ、という警告なのだ。
ウォートは無表情のまま続けざまに砲弾を投げつけて、春の宮にも恐怖の爆音を響かせた。
「ウォートの部屋だわ」
場にそぐわない繊細な声で呟いたのは、侍女長とともに駆けつけてきたロッティだった。
「今、ウォートが外壁に穴をあけた場所。彼の執務室だわ」
「あなたの視力はどうなってるんですか、野性の勘ですかっ。いえ、そんなことを言っている場合ではありませんよそもそも!」
ロッティは侍女長の突っ込みなどまったく聞いていなかった。
「そして、その正面に当たる、春の宮の壁にも。ウォートは彼の部屋から直通の橋を渡そうとしているに違いないわ……なんて大きな愛かしら……!」
「ええええええええええええええええ」
侍女長及び聞こえる範囲にいた騎士たちの恐慌が、彼らの口から一斉にほとばしった。
それが真実でもそうでなくてもロッティの発言は狂気じみている。変だ。あまりにも変だ。そして言うまでもなく魔王はそれに輪をかけて狂っている。
「ウォート!」
ロッティは涙混じりの大声で彼を呼んだ。ウォートは破壊行為をやめ、彼女を振り返った。彼の手から砲弾が落ち、地面にめり込んだ。
「ロッティ」
彼が手をさしのべる。ロッティは一切ためらわなかった。
「ウォート、わたしの愛する人! さっきはごめんなさい!」
「きみが戻って来さえすれば、なんでも許す」
ロッティは走った。情熱のままに抱きつきかけて、すんでのところで思いとどまり、彼の両手を握った。彼も一応わかってくれたらしい。ぎゅっと握りしめるだけでこらえていた。
「あ、会いたかったわ……」
「俺もだ。気が……狂いそうだった。ああ、ロッティ。愛らしいロッティ。俺から逃げるのはもうやめてくれ、あれだけは勘弁してくれ」
「命にかけて誓うわ、もう二度と逃げたりしない!」
感動的な気分なのは、この場において二名だけだった。ほかの誰もが致命的な精神ダメージをこうむっていた。
「さっきの暗黒大魔王はどこへ行った……? 俺は助かったのか?」
リーダーの悄然とした声が、皆のため息の中にむなしく消えた。余談ながら、残党を含め彼らの一派はこれ以来、すっかり穏健派に転向した。平和の大切さを思い知ったのだという。
遅れて鍛錬場に到着した王女は、この光景を見て、彼女を連れてきた団長にこう語りかけた。
「ロッティに会えない時間が増えるくらいなら、きっとウォートはためらいなく職を辞すわ。けれどロッティはそれを喜ばないでしょうね。やはりあのふたりは無理に引き離さないほうが、いろいろな面で得策だと思うの」
王女を引き寄せ、彼女の婚約者は頷いた。彼の左胸には、本家本元の百合の徽章が誇らしげに飾られている。
「すべて宮さまの仰せのとおりです」
ラディッシュ・ビーンズ団長のこの発言によって沙汰はなされた。
それは、この傍迷惑な夫婦については見て見ぬふりをすべし、という不文律が布告された瞬間だった。
かくして王宮の一角に、考えようによっては、平和が戻ってきた。
***
「ねえ、この吊り橋ってロマンティックで素敵ね。毎日、空のランデブーをしているみたい。青空の中のあなたって、心臓が止まりそうなほど魅力的だわ」
「そうか? 俺はロッティがいれば、いつでも大空に浮いているような気になるな、幸せのあまり。きみは魔法使いのようだ」
「あら。それならウォートこそ魔法使いよ。いつもわたしの心の中を見通してしまうじゃない」
「それは愛だ。魔法じゃない。俺はロッティの歓心を買うために、持てるすべての力を使うだけの、きみのしもべに過ぎないからな」
「ふふ。じゃあ、今わたしが考えてること、わかるかしら」
「そうだな、すぐ家に帰ってふたりで寝室にこもりたい、というところか」
「それはあなたの望みでしょう、困ったウォート。ちょっと、くすぐったいわ」
「きみが腕の中にいるんだ、口づけないわけにはいかない」
今日も今日とて無敵夫婦は仲むつまじい。
どういう権力を使ったものか、夏の宮の特定の一室と春の宮をつなぐ橋の設置は驚異的な速度で承認され、数日後には実現した。これにより、ある種の被害者はわずかに減少したと言われる。目撃箇所が絞られるようになったためだ。
侍女長はそのあたりで譲歩した。彼女の安らかな精神を保つためにはそれが最善だった。やんぬるかな。
ただし、相変わらず嫌な目にあっている者も確かに存在した。
「ぐ、ぐわうあああああ」
「耐えろ、耐えるんだ。その拳をしまえ」
今にも暴れ出しそうな男も、それに共感しつつ止めようとする男も、ともにウォートの部下だ。
「止めないでくれ、俺は自由になるんだ」
「いや、どうせ副団長にはかなわないんだから、あたら若い命を捨てるなよ。もうあの危険物は見ちゃいけない。馬に蹴られるぞ」
「だって、だって」
「俺だってどれほど発狂寸前なことか!」
「ウォート。世界って輝いているのね。なんて素晴らしいの」
「俺の世界を素晴らしくしているのはきみだ、ロッティ」
「名残惜しいけれど、もう仕事に戻らなくてはね。あなたの邪魔をしたくはないし。持っていくのはこの書類だけでいいの?」
「ああ、それだけだ。ロッティ、きみを邪魔に思うくらいなら、太陽を邪魔に思うほうがまだあり得るだろう。またあとで」
「ええ」
視覚的殺戮兵器の片割れが部屋を出ていった。
災厄が去ったと部下たちが胸をなで下ろした矢先に、またロッティがぴょこんと戸口から顔を出した。
「大変だわ。言い忘れるところだった」
いそいそと夫のデスクに歩み寄り、にっこり笑う。
「今日も愛してるわ、ウォート」
「思い出してくれてよかった。俺もだ、ロッティ。愛している」
部下二名の手元にあった紙が、ぐしゃり、とそれぞれ無残に潰された。
こたびもやはり、この言葉によって幕が下りるのであった。
――サラダボウルはなべてこともなし。
……HS5(恥で死ぬる5秒前)。
マグウォート(よもぎ)
エシャロット(らっきょうみたいなやつ)
リリー・ルート(百合根)
ラディッシュ(ハツカダイコン)