最終話 新人類 しょくにん 完
最終話 新人類 しょくにん
俺が入るなり扉に鍵がかかる。
「座んな」
俺はびくびくしながら座る。
「良く帰ってきたね、のぶなが」
「え、あ、ああ、ただいま、マナミさん」
俺はリュックの口を開ける。
「あの、まず謝らないといけないことというか、
見てほしいものがあるんだけど」
俺は資料室から持ち出した真っ赤な本を取り出し彼女に渡した。
「お前が持っていったとはな、よりによってお前だもんな」
あはは。あそりゃどうも。
「お前さん、この本を読んで何を思った」
「それ、書いたのマナミさんだろ?」
マナミが睨む。
「ま、酒でも飲むか、ちょっと待ってろ」
マナミは部屋から出て戻ってきたと思ったら一升瓶を持ってきた。
「おい、お前まさか私の酒、
飲めないなんて言わないだろうな?」
「お、お供させていただきます」
ほらみろ、やっぱり先に来なくて正解だった。
「俺はその本の続きを書きたくて、
日記みたいなのを書かせてもらった」
そういうと静かにマナミは語りだした。
「私の興味本位だった。
元々は787 デルタのようなやつに実験的に読ませようと思った。
だがそれをお前が読むとは思わなかったよ」
パラパラとページをめくる。
「これは本というよりノートだな」
鋭い指摘だ。
「そこでだ、実はこれをみんなでまとめて製本した」
俺はリュックから本を出しマナミに差し出す。
受け取るなりマナミが口を開く。
「ところでデルタはどうした?」
俺は、
「その本に書いてある。その赤い本はマナミさんに返す。
その本はあなたが受け取ってほしい」
と言った。
マナミはグラスに注いだ酒を飲み干すとページをめくり始めた。
気が付いたら寝ていた。
マナミはまだ本を読んでいた。
「起きたか。もう読み終わる。
まさかあの外しょくの爆破事故にお前が絡んでいるとはな」
5分もしないうちに本を閉じた。
「言い忘れていたな、お帰りのぶなが」
その言葉を聞いて、視界がにじむ。
しょくにんてこんなに涙が出るんだな。
「ただいま、マナミさん」
肩がすーっと楽になった。
「ま、俺はしょくにんじゃなくて、職員だけどな」
また来ると言い俺は部屋を後にする。
そんなぼんやりとした1日を終え、
翌朝、職員室にて朝礼で自己紹介しろと言われたので、
自室から見慣れない廊下を歩く。
「さ、俺の目を通して見届けろ。俺も付き合うぜ…」
ポケットから名札を取り出す。
白い衣に袖を通す。
その胸ポケットに名札を取り付け職員室に入る。
「挨拶遅れました。新任の小月ひでよしです。よろしくお願い致します」
俺達は深々と頭を下げた。
とある日の事である。
「A-A2-785~790 収穫お疲れ様、自室に戻って休みなさい」
「お~終わった終わった!帰ろう790!将棋の続きだ!」
俺は790と部屋に戻った。
今回は俺の勝ちだ。790。
手にもつ金の駒を進める。
「負けだぜ787、お前の攻めては相変わらずだ」
まあな。日夜研究している。
立ち上がった790が背伸びして話し出した。
「なあ787、おれこの前すげー面白そうなもん見つけたんだ!」
面白い物か。
「790!俺もこのあいだ資料室ですごいやばそうなものを見つけたんだ」
俺は引き出しにしまったそれを手に持った。
「実はお前と読みたくてまだ読んでないんだ」
俺は790に見せた。
「って同じ本じゃねえか!」
その本のタイトルは全く同じだった。
「なあ、一緒に読もうぜ!」
「おう!どんな本なんだろうな!」
一ページ目を開くとこう書かれてある。
「是非に及ばず」 … のぶなが
核戦争となった第三次世界大戦、
だが、戦火とは釣り合わず、あまりにも多くの人間が生き残った。
そんな人類は、史上最大の食糧難に直面した。
そんな食糧難を解決すべく、人間の身体のDNAや細胞を変え、
人間を食料として食べられるように養育することが可能となった。
そんな食べられる人間を 食物人間 と呼んだ
略して通称 しょくにん という言葉が世間に定着した。
この物語は二人のしょくにんの半生を描いた物語である
新人類 -しょくにん- 第一章 自由と出会い
「な、790!これはすごい!お前どうだった?」
「こんなのよ…見る世界が変わったぜ!やばいな!787!」
俺は…
「俺は開放隊に入りたい!790!」
「俺は外しょくに入りたいぜ!787!」
なんてことない。俺達の日常だ。
食物人間 しょくにん おわり
この度は、食物人間-しょくにん- を最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございました。
この作品は、弦陸流音の長編処女作となります。
1.作品誕生
さて、なにから話しましょうか。
熱の冷めないうちに、この作品の生い立ちから話させてください。
物語の発端は、
「202X年、世界は核の炎に包まれた!」
そんな一文が頭に浮かんだことでした。
それは有名な漫画のプロローグと同じではありますが、
もし現代で核戦争が起きたら、世界はどうなるのか。
学の無いなりに必死で考えた末、
「真っ先に問題になるのは、食糧ではないか」
という結論にたどり着きました。
そこで生み出してしまったのが、しょくにん という生物です。
しょくにんの設計を重ねていくうちに、
「あれ…これ…やばくね?」
と、物語の可能性の種を拾ってしまいました。
2.作品で挑戦したこと
原案では、主人公がハンターに追われ、荒廃した世界でどう生きるか。
再生する身体を生存戦略のためにどう活かすか。
そして物語のラストは、
愛する者に“食べられて終わる”という結末まで構想していました。
面白くなりそうだという手応えはありました。
しかし同時に、ここまでリアルな設定を用意しておきながら、
物語としてのリアリティが伴っていないことにも気づいてしまいました。
正直に言えば、
原案のほうが物語としては分かりやすく、
エンタメ性も高かったと思います。
それでも、
争いもバトルも描かずに、
どこまで“面白い物語”を書けるのか。
そこに挑戦したくなったのです。
その瞬間、私の中に
弦陸流音という、もう一人の人格が芽生えました。
そこから約八か月。
構想と執筆を重ね、ようやくこの物語を最後まで書き切ることができました。
これが『食物人間 ―しょくにん―』の生い立ちであり、
そして、作家「つるおかりおん」誕生の物語でもあります。
3.こだわりポイント
さて、ここで、本作最大の伏線について明かします。
この物語は、のぶながが書いた日記や本を抜粋した内容の一部で構成されているという
設定となります。
文中で「あいつ」という言葉を使っているのは、
のぶながの心情の表れです。
また一度だけ、
「新人類 しょくにん 10話 完」
というタイトルの差異を入れています。
気づいた方は、ぜひ一話から読み返してみてください。
今回、私がこの作品であえて抑えた点を、二つ挙げます。
(これって俺のアイデンティティなのに言ってもいいのかな?
まあいいか、この作品をさらに楽しんで貰いたいので明かしましょう)
一つ目は、感情の表現です。
意図的に感情を抑え、淡々とした筆致を選びました。
この独特の空気感が読者に伝わっていれば、
それは私にとって作戦大成功です。
重たい題材かつトーンを抑えたため、途中でページを閉じた方も
きっといらっしゃると思います。
それでも、この「あとがき」まで辿り着いてくださったこと、
心より感謝いたします。
二つ目は、のぶながの行動の余白です。
彼が何をし、どのように生きてきたのか。
その全てを描かなかったのは、
読者自身に想像してほしかったからです。
そしてもう一つ。
この物語は、まだ完全に終わってはいない、
という意味も込めています。
作中には、あえて説明を避けた部分、
言葉にしなかった感情や選択が多くあります。
その余白を、読者それぞれの解釈で
楽しんでいただけたなら、これ以上の喜びはありません。
もし、
「このキャラクターが好きだ」
「この場面が印象に残った」
そんな感想がありましたら、ぜひ聞かせてください。
正直に言えば、この作品が賞とかを取るの難しいだろうと思っています。
理由は単純で、今のマーケティングに合っていないからです。
強烈なフック、手に汗握る展開、物わぬどんでん返し、
この作品はまさに真逆の曲線を描いています。
それでも、この作品は間違いなく
私にとっての代表作であり、名刺になると信じています。
いつか書店でこの作品を見てみたい。
デルタとのぶながのやり取りを、
声と映像で観てみたい。
そんな夢を抱きながら、力の限り執筆しました。
4.つるおかの今後の活動について少しだけ。
弾はあります。
どれから書こうかなと迷うほど…笑
それでもこのしょくにんを、私の世界観が色濃く出る作品を、
一番最初に書き上げたかった!
真っ白になってこのあとがきを書いています。
これからも、弦陸流音をよろしくお願いいたします。
5.最後に作家として
長々とお付き合いいただきありがとうございます。
最後にはなりますが、処女作完成の余韻にお付き合いください。
弦陸流音として、いったいどういう作家を目指そうと考えながら書いていました。
そして、自然と答えが出てきました。
「俺は…文学、ラノベ、アニメ、ゲーム、様々な作品の世界の、
入り口になって、読者の背中を押してあげたい!」
この世の中には本当に非常に多くの素晴らしい作品があります。
それは文学小説だけには止まらず、ラノベもあるし、
アニメもあるし、ゲームもある。
小説なんて私には読めないだろう、難しそうだ。
ラノベなんて私は読まないもん、文学には及ばないもん。
アニメなんか俺は観ねーよ、くだらねーから。
ゲームなんか僕はやらない、何も得られん。
まあゲームは作ろうと思えば作れるものの、
莫大な時間と開発費を費やしてしまうのでそこには足を踏み入れませんが、
このような考えの凝り固まった人たちに、
新たな世界の入り口へと案内する。
そんな作家になりたいと思いました。
しょくにんも、SFディストピアというアニメ向けのような設定なのに、
文学的な表現にチャレンジしました。
もし、このしょくにんを読んで、
あ、ラノベだけじゃなく文学小説も読んでみようかな…とか、
小説だけじゃなくて、SFラノベ、SFアニメにも触れて見ようかな。
なんて思っていただけたらそれは最高の幸せです。
繰り返しにはなりますが、
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
弦陸流音




