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食物人間 -しょくにん-  作者: 弦陸 流音
第三章 悪と正義
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第三章 第九話


第9話



花が咲く夢を見た。

どこかの部屋が燃えていた。

その中に咲く一輪の真っ赤な花だ。


そしてユキが修学旅行に行った時の記憶と夢が混在した。


起き上がり歯を磨き、朝食準備をし、

なんてことない、日常の一角だ。


おわんに味噌汁を注いだ時に視界が開けた感覚に襲われた。

「修学旅行、施設見学…」


つっかえていたものが取れ、

水が激しく流れたような感覚に襲われる。


「サラ、しょくにんの施設行きたい。いけるのものなのか」

「はい?施設に戻りたいの?」


歯磨きを咥えた間抜けな姿のまま俺を見た。



「俺はユキに自分の肉をあげた時、この上ない幸福感に襲われた」

「またその話か、そんなに重要?幸福感て」


重要なのだ。とても重要だ。

「あ、やばいゴミ出しだ。ちょっと行ってくる」


そして話すことなく少しの時間が過ぎた。



「俺にしかできない事だと思うんだ」

おっと、口からコーンが一粒こぼれてしまった。


サラはスプーンを持ったままぽかーんと俺のほうを見ている。


「失敬失敬、いやな、俺にしかできないと思っているんだ」

俺はフォークでブロッコリーを刺した。


「何が?って聞いてほしい?」

サラはユキが残した人参ソテーの残飯処理をした。


「相変わらずユキは人参食べてくれないのか」

こっそり人参だけ隅に残してランドセルを背負って行ってしまったのだ。


「ふむふむ、そういうなら答えよう」

俺はスプーンとフォークを端の横に置いた。


「たくさんの禁じられた知識を得た3か月前、

そこからずっと考えていたんだ」


しょくにんがなぜ知識や行動を制限されているかという答えにたどり着いた3か月前。


「人類が創り出した美しい輪を繋げられるのは、

俺かもしれないという事だ」


「輪の端と端をあなたが繋ぐって事?」

「そうだ。つまり、明確にしょくにん達に 生きがい を与えることだ」


「生きがいね…まあ確かに漠然と生きていくのは私も嫌ね」

ただ消費していく時間は苦とも思える。


「そうだ、だから彼は外の世界に憧れ、

俺もなんとなく興味がわき脱走した。

それって生きがいを求めての行動だと気がついた」


「私もこの部屋で一生過ごせと言われたら、ちょっと鬱になるわね」

生きている実感がしないから…とサラはぼそっと言う。


「だから、俺が施設にいるしょくにんに対して生き甲斐を与えてあげたい」

俺は再びサラダボウルにフォークを伸ばすが、なにもない。


「あれ、もうない…まあいい、俺は3ヶ月考え続けて、良いことを思い付いた」

コップのミルクを飲み干す。


「ちょっと食べ終わってから話しなさいよ、お行儀悪いわ 」

「こ、これまた失敬」


俺は立ち上がり朝食を片付けた


「それでだ、俺は与えることで喜びを認識した、

そしてユキが行った修学旅行で思い付いた」

「ようやく核心ね」


サラはポテト菓子を食べながら演説を聞いている。


「しょくにん達に、収穫した肉を誰かに食べさせるような体験をさせてあげられないかな」

「なるほど、体験学習ってわけね」


良い響きだ。

「体験学習。それだ!そんな言葉があるのか!」


さすがサラ。

彼女の発想は導いてあげれば鋭い。


「知っている事かもしれないが、施設のしょくにんはしょくにんの肉を食べない」

なんでかは知らないが、俺は食べても死なないから害はないはずだ。


「そうね。施設は農場も農園もあるから自給自足にかなり近いわ。」

「ああそうだ。そこで賃金ももらえる。ってそうじゃない」


話を戻そう。

「俺が経験した誰かに食べてもらう。

この体験を彼らにさせてあげたい。きっといい経験になるだろう」


きっかけにあるのは嬉しそうなユキの顔。

今でもあの笑顔は覚えている。


「しょくにんとしての役割を実感してもらうって事ね。

確かにいい刺激になるのかもしれない」

「いい案だろ?こういう時は小月さんに聞いてみるか」


ユキの登校を見届けた後、今日は急遽本部に行くことにした。


「何度乗っても何度でも乗りたくなるな。このエレベーターは」

新宿を支配したような感覚だ。


ロビーに着いて重たい扉を開ける。

何やら電話が数件鳴っているようだ。


「なんだか忙しそうだ。手短にしよう」

俺とサラは小月のいる部屋を訪ねた。


「おお、サラ、デルタくん。ユキちゃんは元気か?」

ユキの手にかかればこのおじさんも簡単に手なづけられてしまう。


「やあ小月さん。ユキはこの間大人になったんだ」

「こら!余計なことは喋らない!」


頭を叩かれた。結構痛い。頭部はやめてほしい。


俺は後頭部を押さえながら。

「ああ、失礼、今日はちょっとした相談があるんだ」


高そうなふかふかな椅子に腰かけた。

手で合図されたからだ。



「率直に言うと、しょくにんの施設に体験学習を取り入れるのはどうかと思っている」

ここまでの経緯を一通り説明をした。


「なるほどな…この時期に吉と出るか凶と出るか…」

「ん?吉?凶?」

サラが聞いた。


「知らんのか?ならいい。気にしないでくれ。まあでも一応話を持ち掛けてみるか」

「という事は、施設に話を通してもらえるという事か」


「ああ、ダメもとで話してみよう。ただ、デルタ君。周りの信頼を得るためにも、

君にも来てもらいたいがいいか?」


愚問だな。

「俺にしかできないことだろう。人間としょくにんの輪を繋ぐのは俺だ」


小月は頭を捻らせた。気にしないでくれ。



「まあまずは打ち合わせだ。どのような形で、どのような人に体験学習をさせるか。

普通に考えれば少年少女たちだが」


搬入業者でさえ厳重な検問がある。誰でもOKというわけにはいかないだろう。

「小中学生ということで俺も考えている。子供のリアクションは素直だ」


続けて「一番最初に幸福感を味わったのはユキという存在のおかげだ」

しょくにんさん ありがとう この言葉にどれだけ救われただろうか。


「その路線で話を進めてみようか。小中学生なら何か事件が起きるリスクも低いだろう」

俺は小月と固い握手をした。


「あ、私からもいいかしら」

サラも何か話があるようだ。


「お、この前の見合いの話か?」

見合い?なんだ見合いって?


「それは断ったじゃない!私は今3人家族で頑張っているんです」

「サラちゃんには幸せになってほしいんだ」


コンコンとノックの音が聞こえた。

「あらサラ、いらっしゃい」


入ってきた女性はもう一人の小月さん 小月ナホだ。

偶然わからないがこの職場で小月という人は三人いる。


「やあ、小月さん。ちょうど旦那さんにお願いごとをしに来たんだ」

この二人は夫婦だ。


「でね、今回はユキの事で相談なんだけど」

「なんだ、ユキちゃんなんかあったのかい?」


難しい顔をしながらサラが話し始めた。

「ユキも外しょくに入ってお手伝いしたいって」


なんと、そんな話は初耳だ。

「ユキちゃんはまだ小学生だろ。

ボランティア活動に参加ならできるけど、中学校卒業するまでは無理だな…」


それに、と奥さんのほうが口をはさんだ。

「ユキちゃん、あの子はとっても頭がいいじゃない。

コミュニケーション能力もずば抜けている。

もっと良い進路を選んだほうがいいんじゃないかしら」


「そうなのよね、ユキには銃は握らせたくない。だから困っているのよ」

ユキの無垢な手が真っ赤に染まるなど、俺は想像したくもなかった。


「あそうだ、デルタくんと一緒に施設に見学しに行くのはどうだろう。活動の一環として」

さすが小月、名案だ。


「小学生代表、成績優秀、肩書としては申し分ないわね」

サラは笑顔を見せた。


「ということで、とりあえずは何か機会があるときに、

ボランティアに参加してもらうというのはどうだろうか?」


「まあ、それっていつもの土日の風景だな」

ユキが来ない日は、宿題に追われているか、誰かと遊んでいるか、風邪で寝込んでいるときだ。


「そうよね、やっぱり大学までは行かせたいわね…ごめんね、ありがとう」


サラは続けてと場を譲る。

「では、早速施設に連絡してみよう。結果がわかったらまた連絡する」


「よろしくお願いします」

と俺は頭を下げた。


「さ、帰ろうかデルタ」

サラはソファーから立ち上がる。


「え、もう帰っちゃうの?」

二人の小月は少し寂しそうな顔をしている。


「私たちも、あなたたちも仕事中でしょ?」

やれやれと手を広げているサラ。


「そう、また3人でうちに遊びにいらっしゃい」


俺達3人は年に何度か小月の家にお邪魔している。

なぜかはわからないが。


「じゃ、また来るわね」

そういって俺達は本部を後にした。



近くの地下広場で昼食を食べることにした。

配給用から拝借する。これも外しょくの特権だ。


ご飯を食べている最中に、

ピロピロリ、電話が鳴った。


「どうぞ、出ていいわよ」

無言で端末を操作する。


「もしもし、デルタだが」

俺は着信先を見ないで電話に出た


「デルタか、俺だ。わかるか?」

よく知っている声だ


「どういう風の吹きまわしだ、のぶなが」


のぶながからの電話はこれで二度だ。

最初は通信端末が開通したとき、そしてこれが二度目だ


「丁度いいのぶなが、相談したいことがあるんだ。近くに来るときはないのか?」

「そうか、腹を決めたか、1ヶ月後にそっちに行く、準備しとけ。気を付けろよじゃあな」


と自分の用件だけ伝えて電話を切ってしまった。


「なんだったの?」

サラは食後の缶コーヒーを飲みリラックスモードだ。


「わからん、1ヶ月ぐらいしたらこっちに来るって」

俺は端末のカレンダーアプリを見た。


「それと気を付けろって」

「相変わらずよくわからないやつね…」


今度はピコーンとメッセージが入った。


小月からのメッセージには、2週間後に施設への立ち入り許可がもらえたと

連絡が入った。


施設か…何年ぶりだろうか。

石川さんは元気かな、資料室のマナミさんは怒る相手がいなくなって退屈していないだろうか。


自らの意思で出て行った施設に、自らの意思で戻ることになるとは思わなかった。

だが、俺は家出でもない、脱走でもない、戻る理由は明確だ。あのころとは違う。


何か大きなものを抱えて前に進むデルタであった。


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