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食物人間 -しょくにん-  作者: 弦陸 流音
第二章 運命と選択
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第二章 第十二話 第二章完


第12話


「A-R-787」そう呼ばれて立ち上がる。


いつから自分の事をA-R-787として認識したのだろうか。

物心ついた時から俺はこの施設で生活をしていた。


生まれた時の事なんか覚えていないが、

1日1日確かに過ごしてきた日々だ。


「A-R-787、こちらの部屋へ」


2週間に1度、身体の肉をそぎ落とされる。

そして月に1度定期検診を受ける。


そんなことを記憶に刻まれる前からやってきた。

意識はないが、身体は覚えているようだ。



収穫されることが恐怖から無に変わったのはいつからだろうか。


「俺は790、一緒の部屋になろうぜ。よろしくな」


長机が二つ並び椅子が4個置かれ冷蔵庫内線しかなく、

2,3人が入れる風呂につながる扉、トイレにつながる扉、

そしてそれぞれ個室につながる4個の扉、廊下に繋がる扉、7つの扉のあるこの大部屋に、

A-R-783から790までの8人で暮らすことになった6歳辺りからだろうか。


仲間と同じ体験をすることで、恐怖が8等分され薄まっていったのか、

それとも痛みもない、死なない、現実的なことを理解して恐怖が薄れていったのかはわからない。


「787、今日は気分を変えてチェスやろうぜ」


それでも収穫される日々を、しょくにんとして施設で過ごす日々を、

いつの間にか当たりの日常と認識していた。



2週間で身体が肥える、収穫される、

収穫された肉は世界中の人々に提供され腹が満たされる。

また2週間で肥えて収穫される。


「おう787、一緒にドラマみようぜ」


こんなこと考えたことなんかなかったが、

それでも客観的に見て、俯瞰して見て、この光景が異常とは思わない。


このサイクルは非常に美しい。

こんなに美しいことはこの荒んだ世の中にはないのではないかと思う。


我々しょくにんと人間が共存しているこの形こそ美しい。実に合理的だ。


「おーい787、565、収穫終わったらテニスやろーぜ」


仲のいいしょくにんは何人もいたが、特にA-R-790とは仲が良かった。


気が付けばいつも一緒にいた。

同じゲームをして、同じドラマやアニメを見て、


まあ、勉強に関しては790番は寝てばっかだったかもしれないが、

社会科や地理の授業だけはちゃんと一緒に受けた。


「なあ787、俺は今日から のぶなが だ。お前もそう呼べよ」


そんな790番はいつからかのぶながと名乗るようになった。


同じ空気を吸っていたはずなのに、

なぜ彼は勉強が好きじゃなかったんだろう。


同じ物を食べていたはずなのに、

なぜ彼は名前を名乗るようになったんだろう。


同じ天井を見ていたはずなのに、

なぜ彼は外の世界に恋焦がれたんだろう。


俺とのぶながはいったい何が違うんだろう。


「くっそ!またかよ!お前の将棋は守りすぎなんだよ!」


非合理的で、危険で、はっきり言うと彼は異常だ。

しょくにんの中でも異端児極まりないと思う。


「783から789 今日は8人で大富豪やろうぜ!」


だが、そんな彼の事を嫌いかと言われるとそんなことは無いが、

理解できるかと言われると未だに理解ができない。


「デルタ、俺は活旗党に入る」


それでも彼は俺にとってみれば友であり、家族である。

性別というのを知ったのはつい最近の出来事だが、

恋人…というのとは違うはずだ。断言してもいい。


「デルタ、いずれお前もこっちにこい!」


彼は俺から離れて暮らせば、おそらく自分のしていることの無意味さに気が付き、

次に戻ってきた時には外しょくに所属して、

たくさんの人間を一緒に助けるために活動してくれるだろう。


彼もたまには一人で考えたほうがいいんだ。

そして俺も一人になって、

のぶながの気持ちも考えてみるとしよう。

充電期間というやつだ。



彼がいなくなる前日の朝。

もう見慣れた天井のボルトの数を数えながら、

彼がいなくなる理由をこじつけた。


お別れパーティと称した集まりをする今日だが、

この部屋の空気や、みんなの雰囲気はいつも通りだ。


「サラの料理食べたいから早く来ちゃった」

ロージーは昼の11時頃来た。


にぎやかな1日は止まることなく過ぎていき、

あっという間に夜になってしまった。


「明日に備える!」

ロージーものぶながもユキも寝てしまった。


「いいの?彼と話さなくて」

サラは気にかけてくれているようだ。


「構わないさ、俺たちは6歳ごろから言葉通りずっと一緒だったんだ。

今さら語ることは無いって」


サラは俺の顔を覗き込む。


「なんか無理してない?」

「無理はしていない。ただ、

のぶながの気持ちを理解してやれなくてな…

心の底から喜んで送り出すことができていない自分が嫌なんだ」


彼も外しょくに入ればわかる…はずだ…。


「まあ、私もロージーの事もあるし気持ちはわかるわ」

サラも内心はロージーの分からず屋!

と言ってやりたいのだろう。


「しかし今日は賑やかだったな、

明日から3人か…俺の寝床が広くなる」


二段ベッドの上で寝てみたかった。

「それはよかったじゃない」


「でも、折半していた分が俺一人に押し寄せてくる」

居候だ。仕方ないことだ。


「それは割り切って頂戴」

「サラさんも手伝ってくれてよいのですよ」


「遠慮しておくわ」

「そ、そんなぁ」


「私も眠いから寝るわね!おやすみ」

自分の部屋にサラは入っていった。


彼女なりに気を使ってくれた会話なのだろう。

心の底からありがたいと思えた。



アラームを切り忘れ失敗したと、いつもの時間に起きてしまった俺は、

昨日の片づけをしようと重たい体を起こした。


時折のぶながは早起きしているときがあったが、

最後のベッドをかみしめたいのか、

夢の中で思い出に浸っているのかわからないが、

全く起きてくる気配がなかった。


「おーっす」と最後にのぶながが起きてきた。


みんなが揃ったのは9時過ぎた。

これがみんなで食べる最後の食事かもしれない。


「そういえばのぶながとロージーはまずどこに行くんだ?」


サラダをほおばるのぶながが答えた。


「まずは愛知の名古屋らしい。

なんでも活旗党のおひざ元から攻めていくって聞いている」


「あたしたち、何話せばいいのかしらね?」

ロージーはのぶながに聞いてみたが、


「さーなー、ありったけをぶつけりゃいいんだろ!」

想像通りの回答だ。

政治活動の手伝いなんて大丈夫なのかのぶなが…


「ねえのぶのぶ、連絡取れるようになったら絶対連絡してきてね?」

「ああ、大丈夫だ!必ずすぐ連絡する」


こんなことを言いつつ連絡が来るのは2週間後だ。

生存報告はロージーから聞いているので、のぶなが本人の問題だろう。


ユキはカンカンに怒って電話をしていた。

どっちが兄か姉かわからん。



党員との集合時間が近づいてきたので、

俺達は近くの地下広場で向かった。

ここが待ち合わせ場所のようだ。


「それで、どうやって名古屋まで行くの?」

サラはロージーに聞いた。


「党の人が車で連れてってくれるみたい」

「じゃあのぶなが、これ忘れずに持って行かないとな」


俺はのぶながに目隠しを渡した。

「いや、今度はちゃんと景色見るから!いや見たいから!」


4人は笑ったが、ロージーは「え、なにがおかしいの?」と言う。


「ロージー、のぶながはこんな調子で迷惑かけるかもしれないが、どうかよろしく頼む」

「ええ、サラのことよろしくね」

俺達は握手をした。


「ロージー君、のぶなが君」

スーツを着た男性が声をかけてきた。


「あ、渡辺さん。どうぞこれからよろしくお願いします」

ロージーはお辞儀をした。


つられてのぶなが含め俺たちもお辞儀をした。


「デルタ、また会おうね」

「ああ、ロージー、君も気を付けて」


俺が最後の挨拶でいいのかロージー。


「デルタ、じゃ、行ってくるぜ」

「のぶなが!お前のおかげだ!色々な事を知れた」


そうだ、彼のおかげで自分の進むべき道が見えた気がしたんだ。


「だからのぶなが、今度は俺がお前を導く番だ。

たくさんの物を見て、たくさんの物を学んで来い」


「ああ、俺たちが進むべき道ってやつを見つけられるような旅にしたい」

そうだ、のぶなが。それでいい。今はそれでいいんだ。そして…


「だから、次帰ってきたら俺と来いのぶなが!

外しょくとしてたくさんの人を助けよう」


「デルタ、次合う時、それはお前を迎えに来る時だ。

それまでに決心しておけ」


「のぶなが…」

「デルタ…」


「また会おうぜ兄弟!」/「待ってろよ兄弟!」



こうしてあいつと力いっぱい手と手を合わせた。

なんてことない。


一年近く過ごしたメンバー、

それぞれ道や目標が違えど、

住む場所が違えど、

俺達はいつもの、いや、いつまでも俺達のままだ。


第2章 完




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