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食物人間 -しょくにん-  作者: 弦陸 流音
第二章 運命と選択
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第二章 第十話


第10話


扉の先の狭い部屋に入った俺達。


「す、すげぇ」

あっけにとられているのぶなが。


「た、高いね」

ユキはあまりの高さに非常に興奮しているようだ。


「富士山も高かったが、これはこれですごい!」

それが俺の何とも面白くもない感想だ。


「どう?第1都庁からの眺めは」

サラは自慢げに言っている。


俺たちは、第1都庁にある外しょくの本部に来ている。

今日俺は、正式に外しょくになるために来ている。


「地下デパとかでよ、エレベータには乗ったことあるが、

まさか世にこんな高いところまで登れるエレベータがあるなんてな」


「私は行ったことないけど、第2都庁はこれより100m以上は高く登れるわよ?

正確には高さは知らないのだけれど…」


かつて大都会と呼ばれた東京。一時的には核攻撃により大打撃を受けたようだが、

かつての、いや、かつて以上の賑わいを取り戻していた。


この第1都庁は奇跡的に攻撃を受けなかった、

もしくは攻撃受けても残った建物のうちの一つである。


「お、あれはもしかしてNEW東京タワーか」


大昔にテレビ塔として活躍していた東京タワーは残念ながら一度崩れた。

しかし、NEW東京タワーとして、800mを超える高さで再度聳え立ったのだ。


「さ、もうそろそろ到着するわ。

事前に聞いているのは質疑応答の面接と、軽い身体測定があるらしいわ」


しょくにんともあれば、

よほど適正にそぐわない性格をしていない限り外しょくへの所属は容易である。


ほぼしょくにんパスと言ってもいいらしい。


「デルタ、しっかりやってこい」

のぶながは俺の背中を叩いて送り出した。


「行ってくる」


オフィスを進んだ。

木製の重たそうな扉だ。


えーと確かノックをするんだったか、

何回だ?3回でいいか。


コンコンコン、

俺はなんとなくその回数がいいんじゃないかと思った回数のノックをした。

サラ、回数も教えてほしかった。


「どうぞ」

言われるがまま扉を開けた。


「え~と、君の名前は、A-R-787 か」

「はい。今はデルタと名乗らせてもらっています」


「うちに所属しているしょくにんは、

ほぼ全てのしょくにんは自ら名を名乗っている。気にすることはない」


それはそうだろう。家出や脱走するしょくにんは、のぶながの様に我が強いに違いない。


「君は確かにシンジュク施設の家出リストに載っていたが、サラが生存報告は済ませている。

私から外しょく在籍報告をしてもいいのだが、君は自分で書くかね?」


「え、あ、はい。自分で書きたいと思います」

それが初めての仕事かもしれない。


「うむ結構、それでは何点か質問させてくれ、

だからと言ってそんなに気を張る必要はない。ただの診断テストだ」


そこからの質問は、とくに変わった質問とかは無いように思えた。


施設を出た理由、

施設に戻る気はあるか、

趣味はあるか等、

誰でも聞いてみたいような質問だった。


「あ、すまん、座りたまえ」

と言うので座ることにした。


なんとフカフカな椅子だ!

自分でも気が付かないうちに、顔に出ていたのだろう。


「サラの所にはそんな椅子ないだろ。いいだろ?」

「いい、とてもいい。雲に座っているような気分だ。です」


はっはっはと笑うその男は話をつづけた。


「話がそれてしまったな。すまんすまん、君はそのうち知ることになると思うが、

いやもしかしたらもうすでに知っているかもしれないが、

しょくにんの施設は厳格に管理されている。

この事実にショックを受けてふさぎ込んでしまうしょくにんもいる」


不思議と俺はショックを受けなかったが、

のぶながはそうではなかったうちの一人だ。


「まだまだ知らないことはあると思いますが、

情報等の制限がされていることは知っています。」


「ほう、それなら安心だ。

これ、外しょくの職員だと示すバッジ。

なるべくこれをつけて活動をしてくれ」


彼から渡されたバッジは、

サラの活動服についているバッジとは少しデザインが違った。

ロージーのともデザインが違った。


「あのこれ、知っているデザインと違うんだけど、

なにか意味があるのか?あ、あるのでしょうか?」


しまった、またやってしまった。

敬語なんてマナー講習で習って以来ほとんど使ってなかったから雑な言葉使いになってしまった。


「ああそれか、何年周期かでデザイン変えているらしい。上層部の気まぐれだろう」


口元に白いひげを蓄え、収穫前のしょくにんのような体型をしているが、顔まで膨れている。

この人は小月(コヅキ)マサオさんという。身近な人と同じ苗字だ。


「ま、これぐらいなんだけど、何か質問とかはあるか?」

小月が髭を触りながら訪ねてきた。


「えーと、私はサラの所にいながら仕事をしてもいいのでしょうか?」

「構わない。むしろできるだけ人間と活動してほしい。」


できるだけ人間とか、確かにそのほうが何かと都合がよい。

お互いにだ。だが一応聞いておこう。


「ありがとうございます。

ちなみになんで極力人間と過ごしたほうがいいのでしょうか」


「それは大きく分けて3つの合理的な理由がある。」

小月は立ち上がり、ボードに書き始めた。


「1つ目は、君たちの身体の収穫だ。

施設のような自動収穫機の数は少ないので混み合ったりする可能性がある

その点、人間がいれば収穫を手伝ってくれる」


「当たりの事だが、2つ目は生活コストが下がる。

人間としょくにんは共存することで、非常に多くのメリットがある」


「そして3つ目、君たちは外の世界で暮らしていけるような術を学ばないで育ってきた。

言い換えれば君たちには生活力がない。人間のサポートなしで生きていくのとても難しい」


小月から言われた事は想像通りの事だった。


「小月さん、思った通りの理由でした。

当然その理由には納得できます。非常に合理的だ」


俺達は、人間がいないと生活ができないと脱走してから思い知った。


「デルタ君、きみはわかってくれるか。

何人ものしょくにんに同じようなことを聞いたことがあるが、

意見ははっきり分かれる」


それも不思議なことだ。

「知識の違いが分かれるのだろうか…」


「3割ほど納得してくれない。

なんだっけかな、バラが好きでバラを育てたいと言っていた彼女は」


バラが好きな…もしかすると…「ロージーか」


「そうそうロージー君ロージー君!会ったことあるのか君も。

彼女は強情だったな、外しょくに入れて!と言いに来た時も。

活旗党に入るから辞めるわ!って言いに来た時も。嵐のようなしょくにんだったな」


がっはっはと大きく笑った小月。この男にぜひともあの男、のぶながを紹介してやりたい。


「さ、それでは次は身体検査を受けてもらう。

と言っても施設で受けている検査となんら変わりない」


あ、と俺は手を上げる。

「あの、その前にちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


小月はひげを触りながら口を開いた。

「なにか不安なことあるかい?」


「いや、そういう事じゃないんですけど、

もし、またロージーが外しょくに戻りたいって言ってきたら戻してあげるんですか?」


こんなこと聞くのは外しょくの器の大きさを知りたかったからだ。


好き勝手やったり、

問題を起こしたしょくにんの処分はどうなってしまうのか知りたかった。


小月はそこまで考えているそぶりはなく、早々に答えてくれた。


「基本は受け入れる方向で調整をするが、

組織の内部破壊等を企んでいなければの前提にはなる。素性は慎重に調べさせてもらう」


それもそうか、どこかの組織のスパイという可能性も大いにある。


「もし受け入れられないことが判明したら、施設に帰ることを提案させてもらう。

それでも飲み込めなければ誰かに保護されるしかない」


もしのぶながが外しょくからも、活旗党からも断られ、

施設に戻りたくないとしたらどうなってしまうのだろう。

いや、その場合は俺がいるか。


続けて小月は口を開いた。

「気を悪くするかもしれないが許してくれ、そういう表現をする」


OKと俺は合図した。続きを聞かせてくれ。


「民声党などの反しょくにん組織でもない限り、

成体となったしょくにんを所持・所有することは、

100%近いメリットしか存在しないんだ。なぜだかわかるかい?」


当然理由などは察しが付くが、一応首を横に振った。


「それはな、一般家庭で所有すれば食料に困らなくなる。

また、余ったお肉も売れる。

お金に困ったとき、保護連に差し出せばいくらか返却料も貰える。

それほど君たちの存在価値は高いんだ」


サラも前に言ってたっけ、

俺達は人質としては価値が高すぎるって。


「なるほど、だから外しょくの入団条件として、施設への帰還を禁止にしてるんですね」


「そういうことになる。ただ一つだけ、帰還の規定を破ったとしてもなにも罰則などはない。

そんなことしてはしょくにん保護法に引っかかって組織存命が危ぶまれるからね」


ま、そもそもうちは非営利団体だから。と小月は笑った。


「あ、重要なこと忘れていた」

と小月は机をがさごそと漁った。


「少ないけどね、給料とか出るからね。

少ないのは勘弁ね!でもその代わり手厚い補助があるから」


そういって渡されたのは、福利厚生一覧と書いてある紙と、

規定と書かれた30枚ほどある紙の束だ。


「ま、暇な時にでも一通り目を通しといて、さて、検査に行こうか」

案内されるがまま、検査エリアに案内された。


施設にあった機器具とは違うものの、

身体の一部をサンプリングされたり、

身体中に何かを貼られたり、

注射を打たれたりと、

なじみのある検査をされた。


「こんな物で俺の身体のいったい何がわかるんだろうか…」

施設にいたときはこんなこと考えもしなかった。


検査をされるのが当たり前、

施設内で決まった範囲内で過ごすのが当たり前だった。


それが普通だと。これが俺の生活なのだと。



「はいデルタさん。お疲れ様です」


のぶながが連れ出してくれなければ、

何も考えずに死ぬまであの生活を送っていたのだろうか。


「ありがとうございました」


俺は服を着て立ち上がる。


でも、その日々になにか問題あるのか?

やはりのぶながの自由への執着がわからない。


彼は明後日、ロージーと旅立ってしまう。

最後にどういう会話をしようか、そんなことを考えている間に検査が終わった。



あの重たい扉を開ければ俺の外しょくとして人生がスタートする。

これからどんなことが待ち受けているのだろうか。


でも不安じゃない。

あの扉の向こうに新しい世界が待っているんだ。



そうして一歩一歩、扉へ近づくデルタだった。




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