「お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」「5万枚!!」
「奥義、セイントスラッシュ!!」
勇者の放った一撃は我が魔法を打ち砕き、ついに我の右腕を斬り落とした。
宙に描かれた真紅の弧を見た勇者は、自信の笑みを零しながらも次の一撃の構えを取る。
しかし我は魔族。この程度の傷など致命傷にはならない。
勝機を見出した勇者に絶望を叩きつけるように、我は右腕の再生してやった。
そして「ククク……」と余裕の笑みを見せつけると、勇者は顔を歪めて叫んだ。
「貴様……その再生力のために何人の生命を犠牲にしてきたッ!!」
その時、我はピンときた。あのセリフを言う時だと。
我が唇に指をあて、強者として当然のように言ってやった。
「お前は、今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
「5万枚!!」
ククク、ハハハ、ハーッハッハ!
言ってやったぞ! 魔族なら誰しも憧れるあのセリフを! 魔族にとって人間など単なる食料に過ぎず、いちいち覚えてるはずがないだろうという圧倒的強者のセリフ……を……?
……ん?
今勇者なんて言ってた?
「待てお前、今なんと言った?」
「5万枚って言ったんだよ」
「今まで食ったパンの枚数覚えてるのか……?」
「正確には4万8623枚だけど」
「ほう……」
…………えぇ……。
いや覚えてるとは思わないじゃん。
そっちがパンの枚数覚えてたらこのセリフの強者感半減どころじゃないじゃん……。
「いやいや、ありえんありえん。そもそもパンなんて子供の頃からたくさん食べてるんだからそんな正確に覚えてるわけないだろう。適当なことを言ってこの我を愚弄する気か、貴様?」
「覚えてるというより、記録してるかな」
勇者は剣をポイッと捨て、鎧の内側から変な板を取り出した。
あれはたしか人間たちが作った魔導具か。たしかスマホとか言ってた気がする……。魔族でも使ってる奴が結構いたな。
そして勇者が慣れた手つきでスマホを操作すると、画面に現れたのは『みらヘル』の文字。…………なんだこれ?
「未来の健康を守る最先端の健康アプリ、『みらヘル』!」
勇者はスマホを前に構え、そんなことを言い出した。
「このアプリを使うことで、今まで食べた全ての食べ物を記録することができるのです!」
まったく気がつかないうちに勇者の服も『みらヘル』とロゴが書かれたTシャツになってる。口調も変にかしこまってるし。
…………???
わからんわからん、なんで勇者と魔族の決戦中にアプリの宣伝が入ったんだ!?
我の人生……いや魔族生はスタンダードプランなのかっ!?
「ちょっとタンマタンマ。え? 何? 急にどういう……?」
「まずはこちらをどうぞ」
脳が理解を拒もうとするが、勇者はどんどん進んでいく。
仕方がないので勇者のスマホを見てやると、そこに表示されているのは「今日の食事ログ」「栄養バランス」「みらヘルくんのアドバイス」……なにこれ。
「こちらはメインメニューです」
画面に表示されているのは、今日の朝食と昼食のメニュー。
朝はパンとベーコンエッグに牛乳。昼はコンビニ弁当と野菜スムージー。それぞれ横にはカロリーも書いてある。
へぇ〜、見やすくていいね。
「そして大事なのがこの「みらヘルくんアドバイス」! 今日の食事をもとに、マスコットのみらヘルくんが次の食事のアドバイスをくれるのです!」
指さしたところを見てみると、くまのキャラクターが「ちょっと野菜が足りてないみたい……。夜はサラダがいいかも!」とニコニコしながら言ってる。あらかわいい。
「なるほど。みらヘルを参考にしながら食事をとれば健康的な食生活を送ることができるというわけか!」
ん? なんか我もあっち側に行ってるような気がしてきたぞ……?
「……だが、この手のやつは毎回入力が面倒にならないか? 我、日記とかすぐやめちゃうタイプだぞ?」
「そんなあなたにも自信を持ってオススメできるのがこの『みらヘル』なのです!」
ほう、気になる。
「なんとみらヘルには業界初の「魔力解析機能」が実装されていて、スマホで魔力を読み取るだけで、今日食べたものが自動で記録できちゃいます!」
「な、なんだってーーっ!?」
なんて便利な機能なんだ! 健康管理を躊躇ってしまう1番の要因が解決しているぞっ!? 人間とか食べた時はカロリー計算なんてできないからな!
「さらにこの魔力解析機能によって、生まれてから今までに食べた食べ物のデータも全て読み取ることができます! ほら、こんな風に……」
勇者が画面をスワイプすると、出てきたのは棒グラフ。パンのイラストが書かれたものが他のものより飛び出ていた。
「あ、ほんとに4万8623枚って書いてある」
「自分の血となり肉となっているものがこうやって可視化されると結構楽しいんですよね〜」
最初にパンの枚数を答えられたのはこの機能のおかげだったのか。最近の技術ってのはすごいなぁ〜。
「ちなみにこれは魔族にも対応しているのか?」
「もちろんです! 人間だけでなく、魔族やエルフ、オークやドワーフ、ゴーストまで幅広い種族に対応しており、今後も対応種族は続々追加予定ですよ!」
ほうほう、それなら我もスマホを買って『みらヘル』、始めちゃおうかな。
「まだまだ便利な機能がありますが、紹介しきれないのでこちらのパンフレットも渡しておきますね」
「ご親切にどうもどうも。帰ったら他の魔族にも紹介しておくとしよう」
「はい! ありがとうございます!!」
数週間後。今や『みらヘル』は勇者の王国同様、大流行のアプリとなった。
人間や肉ばかり食べていた奴らも、最近ではサラダとかしっかり食べてる。
あとみんな健康になっておだやかになったので、なんやかんや人間と魔族の争いは終わった。
めでたしめでたし。
さて、昨日は人間を食べ過ぎたから今日はヘルシーなメニューするか……。
というわけで健康はだいじですね。みんなも入れよう、『みらヘル』。
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