第61話 ヒーローは彼女よりバイクを選ぶ
誠が男だという事実を完全に無視して平然と着替えを勧める女性部員達の態度に居づらくなった誠はそのまま荷物をまとめるとロッカールームを後にした。
「おう!スーパーエース!俺とお前さえいればうちのチームは優勝間違いなしだな!」
補欠部員やスコアラーの西に持ち上げられてすっかりご機嫌の島田はそう言うとなぜかライダーズスーツに身をまとったまま誠の肩を叩いた。
「そんな……たしかに今日は島田先輩の活躍で勝ち星を拾ったようなものですけど……優勝なんて……それより、きょうはバイクで来たんですか?これから月島屋で祝勝会でしょ?飲酒運転なんて警察官のする事じゃありませんよ」
誠は明らかにバイクで来たらしい島田に向けてそう言った。ここ県営野球場はすぐ近くにモノレールの駅が有るのでほとんどの部員はそれに乗って球場に来ていて、そのままモノレールで近くの国鉄の駅で乗り換えて次の駅の豊川で降りて歩いて月島屋に行くつもりだった。
「飲酒運転だ?今日はこの試合だけが俺の楽しみじゃねえんだよ……」
島田はいかにもご機嫌にそう言って携帯端末を映して誠に見せつけた。
そこにはカウルの付いた大型バイクが写っていた。
「バイクですか……好きですね、島田先輩も。でもこのバイクのデザインかなり古い感じですけど……なんていうバイクなんです?僕はバイクには詳しくないのでたぶん名前を聞いても分からないとは思いますけど」
誠は給料のほとんどを古いタイプのガソリンエンジンのバイクにつぎ込んでいる島田の顔色をうかがいながらそう尋ねた。
「よく聞いてくれたな!これはCBR750っていう20世紀末日本でもその名をとどろかせた名車だ。去年のボーナスを使うのをひたすら我慢して、さらに運よく状態のあまりよくないこの車を手に入れて昨日ようやく稼働状態まで持ち込んだ。今日はこれから南房層市まで山越えのツーリングとしゃれこもうってところだ」
得意げにそう言う島田に女子の着替えをしている場所を遮っている幕を潜り抜けてきたサラが飛び出してきてそのまま島田の前までやってきた。
「正人!じゃあ、私も付き合うわね!私は今日はただユニフォームに着替えただけで何にもしてないから祝勝会に出るなんて気が向かないのよ!お願い!」
嬉しそうにそう言うさらに島田は照れたように頭を描きながら頭を掻いた。
「確かにこいつはツーシーターなんだけどな。一応、エンジンが動いてブレーキやハンドルも問題ないという機能の確認が出来ただけの状態なんだ。まあ、陸運局には届けてあるから公道は走れるけど……もし何かあったらサラに怪我をさせることになる。サラ、祝勝会、俺の分まで楽しんで来いよ」
そう言うと島田はそのままサラを置いてロッカールームを出て行こうとした。
「正人の自分勝手!わからずや!プレゼントにほっぺにキスしてあげようと思ったのに!」
サラのいかにも中学生レベルの『青春ごっこ』の行動に呆れつつ誠は軽く手を上げて去っていく今日のヒーローの一人である島田乗せたかを見送った。




