第6話 西園寺姉妹の賭け
「へえ、いうじゃねえかかえで。つまりだ。オメエがキャッチャーをやって、神前の能力をすべて引き出すことが出来ればあの一試合当たりの平均得点10点越えの『菱川重工豊川』の強力打線を抑えられる……そう言いてえわけだ」
かなめは不敵な笑みを浮かべて静かに弁当の蓋を開けるかえでに目をやった。
「そうだね。お姉さまの言う通り、あのチームの打者は僕のかわいいメイド達の撮ったデータとスコアーブックで代替把握している。誠君ならその程度の事はたやすい……僕はそう考えているよ」
そう言って弁当のご飯の箸を伸ばすかえで。室内の部員達の視線は二人の飛ばす火花に釘付けになっていた。
とくにその中心人物である誠は息を飲んでいた。
誠は去年の後期リーグからこの『特殊な部隊』のサウスポーエースの座にあったが、『菱川重工豊川』との対戦はこれまでなかった。
ちょうどこの試合の日に『バルキスタン三日戦争』と後に呼ばれた出動が有り、誠は試合場に行かなかった。
レギュラーメンバーを欠いた『特殊な部隊』の留守番部隊の補欠メンバーによる試合は0対26という屈辱的ともいえる敗北に終わっていたことも誠は知っていた。
「へえ、あの『菱川重工豊川』の打線を神前が押さえると……確かに神前のポテンシャルとオメエが神前のこれまで投げてこなかった伝家の宝刀であるフォークを使えるなら最低失点で抑えられるとはアタシも思ってる……じゃあ、3点までは許してやる。それ以下で抑えて見せろ……それが出来なきゃオメエは神前の『許婚』の地位を降りろ……そのくらいの自信は有るんだろ?出来て当然だよな?」
かなめはそう言ってかえでを挑発的笑みを浮かべてにらみつけていた。かえではというと弁当について来たインスタントお味噌汁をカップに入れて作る作業をしながら話を聞いていた。
「3点?それは誠君を馬鹿にしているような発言にしか僕には聞こえないな……2点……いや1点でいい。最少失点と言うことはそう言う意味なんだよね。それくらいの事は出来るよ……できて当たり前だ」
余裕を込めた口調で怒りに震えるかなめの方に視線もやらずにかえではポットから安っぽいお椀にお湯を注いだ。
「かえでさん、そんなの無理ですよ!相手は都市対抗野球の百戦錬磨の重量打線でしょ?千要マートの体育学生とは格が違うんですから!」
かえでの無茶な要求に思わず誠はそう言っていた。
「いいえ、誠様なら出来て当然……そのくらいは当たり前すぎるノルマ……これまでのキャッチャーがいかに無能だったか。そしてかえで様がいかに才能に恵まれてらっしゃるのか誠様は球場で知ることになるでしょう」
反対側に座るリンもまたおしんこを食べながらそうつぶやいていた。
『そんなの無理だ……あの強豪チームの千要マートや豊川市役所だって『菱川重工豊川』にはワンサイドゲームで負けてるんだ……それを1点で抑えろ?どんな球を投げればいいんだよ』
誠はそんなことを考えながら余裕の表情で弁当を食べるかえでとリンに目をやっていた。




