第57話 決定的な瞬間と祝福された自覚のない勝ち投手
アウトかセーフか微妙なタイミング。
グラウンドと観客席の応援団の目はアンパイアの挙動に集中していた。
「アウト!ゲームセット!」
アンパイアのその叫びに誠はホッとすると同時になぜあんな位置に島田が守っていたのか不思議に思って背後を振り返った。
笑いながら島田が誠の所に駆け寄ってくる。
「見事なプレーだろ?まあ、俺様ならあれくらい……」
誠の所に歩み寄ってきて自分のプレーの自慢話を始めようとした島田を突き飛ばし誠に抱き着いて来たのは他でもないかなめだった。
「僕は信じていたよ!君ならこれくらい出来て当たり前なんだ!僕と君は最高の相性のバッテリーなんだ。当然、今日これから過ごす愛の時間も最高の時間になるに違いない。好きだ……誠君……」
そう言うとかえでは誠に公衆の面前で堂々とキスをしようとしてきた。
「かえでさん、こういう場所ではちょっと……」
恥ずかしがった誠は口を閉じてかえでを拒んだ。
「まったく君はシャイなんだね。君の唇を最初に奪ったのは他でもない僕なんだよ。今更恥ずかしがるようなことは何もないさ。美しい二人が愛し合う風景。それも誰もが成し遂げられないという偉業を達成した君との愛に僕は拒むものなど何もないさ。君が望むならそのままこの場で愛のすべてをさらけ出しても構わない」
かえでは完全に発情した露出狂の本性をさらけ出していた。
「ちょっと、かえでちゃん。こんなところでなに盛ってるのよ!あなたはお猿さん?それと誠ちゃんは渡さないから。さっさと離れなさい」
いつの間にかマウンドに歩み寄ってきていたアメリアはそう言って長身を生かして誠に抱き着くかえでを強引に引きはがした。
我に返った誠が背後を見ると明らかに不機嫌そうなカウラと無表情で誠を見つめて来るリンの姿があった。さらに目をやればライトのアンが物欲しそうな目で誠を見つめ、レフトのパーラは呆れたようにこめかみに指を当てている。
「まあ、お楽しみは僕の抑えているホテルで楽しもう。このまま僕の車で送るとしようか……そのまま今日から明後日の朝まで裸でお互いの全身を理解しあうというのも悪くない」
かえではまたとんでもないことを言い出した。
「かえでちゃん。野球は9人でやるものなの。この試合は確かにほとんどピッチャーとキャッチャーで試合をしていたよなものだけど最後の見せ場で活躍したのは島田君だし、先取点も島田君の手柄。あれが無かったら今日は引き分けで勝ち点1の普通のゲーム。そんな自分勝手で良く甲武海軍のエリートが務まったわね」
嫉妬にかられたアメリアはかえでに向けて敵意むき出しでそう言い放った。カウラの視線が誠に痛く突き刺さる。そして誠がダグアウトに目をやるとこちらも怒り心頭という表情のかなめの姿が目に付いた。
『この扱い……僕は本当に勝ち投手何だろうか……』
誠は複雑な心境でとろけるような笑みで誠を誘惑して来るかえでに愛想笑いを返した。




