第54話 最終回……そして童貞卒業決定の瞬間
マウンドにたどり着いた誠はとりあえず先ほどの女共のドロドロした戦いの事を振り払うべくロジンバックに手をやるとネクストバッターズボックスで素振りをする先頭打者に目を向けた。
『さすがにリーグ一の強力打線だからな。前の回あたりからこちらの配球も大体読まれてきてる。ストレートでも最初は空振りだったのがきっちり当ててファールにするくらいの事は出来るようになってきた。かえでさんが言うように今回が山だな』
誠は気を引き締めてキャッチャーのかえでの方に目を向けた。
かえでは相変わらず笑いながら右バッターボックスに立つ誠にはタイミングの合っている先頭の七番バッターに目を向けた。
『この人からか……嫌だな』
誠はかえでの出した外への緩いカーブのサイン通りにスピードを殺した大きなカーブを投じた。
外角球に狙いをつけていたバッターはそれを押っ付けてライト方向に飛ばした。
ファールになるラーナ―だが、それをファーストを守る嵯峨が横っ飛びで飛びついて捕球する。
「義父上!ナイスです!」
嵯峨の超人的な守備にキャッチャーのかえでは褒めたたえるようにそう叫んだ。
「まあね、今日はあれだろ?神前が童貞じゃなくなる日なんだろ?しかもうちの婿になる日なんだろ?だったら頑張らないとねえ……」
相変わらずひょうひょうとした表情で先ほど殺したはずの誠の雑念を呼び覚ますように嵯峨はそう言ってニヤリと笑った。
『まったくあの『駄目人間』は人をおちょくることしか考えていないんだな』
誠はそんなことを考えながらバッターボックスに入った大柄の選手の多い『菱川重工豊川』の中では比較的小柄で長打力のあまり無さそうなバッターの方を見つめた。
『この人は僕のストレートとまるでタイミングが合ってないからな……ここは簡単にツーアウトまでは取れそうだな』
誠はそんなことを考えながら誠の思った通り低めのひざ元へのストレートを要求してきたかえでのサインに大きくうなずいた。
得意の大きなモーションから投じた初球。思い通りの球が打者の膝上へと向かった。
しかし、意外にもこのバッターはこの球の来ることを予想していたように救い上げるようにしてそれをライト方向に打ち上げた。
大きな飛球がライトを襲う。
ライトを守るのは今日がスタメン初出場のアンだった。この試合で外野までフライが飛んだのはこの打球が初めてだった。
アンは軽快な足取りでそのまま落下点へと走っていった。
『よし、これでツーアウトあと一人で……あと一人で……童貞卒業だ。まあ、あの最高の美人のかえでさんを自分の好きにできる人生も悪くないよな』
完全に打球を確認したというように手を上げるアンを見ながら誠はそんなことを考えていた。




