第51話 初球……デッドボール
ミットの下に出したかえでのサインは内角高めのさらに内側へのボール球だった。
左バッターは誠が左バッターを嫌がっていることを察しているようにホームベースギリギリに立っている。かえでの相手をのけぞらせて内角を意識させて最終的には外角に落ちるスライダーで打ち取るという意図は理解できたが、ボール一つズレれば間違いなくデッドボールになる球だった。
誠は首を横に振った。かえでは一度ため息をつくとまた同じサインを出した。
『本当にどうなっても知りませんよ……僕はプロじゃないんだから……コントロールには自信がありますがボール一個分なんて立ち上がりの僕には制御できないんですから』
仕方が無いというように誠は首を縦に振るとそのまま投球動作に入った。
誠の左腕から放たれた球は鋭い軌道で誠の恐れていた通り予想よりもさらにバッター寄りに投じられた。
バッターはのけぞってその球を避けるが、その右袖をボールがかすめたのをアンパイアは見逃さなかった。
「デッドボール!」
アンパイアは一塁を指さしてそう叫ぶ。袖をかすめただけの死球という最高の出塁機会に一番バッターは笑顔で一塁に走り出した。
誠は帽子を取り、深々と頭を下げた後特に気にする様子の無いかえでに目をやった。
「ドンマイ!いつもの事だから気にする事じゃないよ!」
立ち上がって一言そう言うとかえではまた座って二番の打者の観察を始めた。
『いつもの事って……あんな球を要求したのはかえでさんじゃないか……それにしてもあのランナー……なんて大きなリードを取るんだ?あれじゃあ、牽制の得意な僕なら簡単に刺せるぞ』
一塁ランナーは余裕の表情で試合中だというのに酢昆布を噛んでいるファーストを守る嵯峨の遥か遠くまでリードを取っていた。
すぐさま誠はマウンドを外して牽制を一球投げてみた。
ランナーは完全に誠の動きを読んでいたかのように反応するとギリギリのタイミングで帰塁する。
『読まれてる……完全に向こうの方が僕より上手だ。間違いなく走るな、これは。かえでさんの肩の強さ……それでもこんなに大きなリードを取ってたらスタートのタイミングさえ間違えなければ確実に盗塁成功できる自信が有るんだろうな……クイックで行くか』
そんなことを考えながら誠はかえでのミットの下のサインを見た。
そこにはランナーをけん制するために一球外すようにとのサインが出ていた。
『さすがに初球から走るなんて……でも、まあ走りにくい状況を作るために僕がクイックで外に外して見せれば一塁ランナーも走りにくくなる。相手がどれほど僕の事を知ってるか分からないけど、僕のクイックモーションは結構早いからな』
誠はそのサインにうなずくと目の前の大きすぎるリートを取るランナーに目をやりながらセットポジションでかえでに目をやった。




