第42話 常勝監督と新星女監督のエールの交換
「武田さん!今日はよろしくお願いします!」
『菱川重工豊川』チームがダグアウトに引き返すのを見て『特殊な部隊』のレギュラーメンバーが守備位置に散る中、ノックを代打に決めていた大野に任せて走り寄って来たのは監督のかなめだった。
「ああ、これは西園寺大尉……いや、西園寺監督と言うべきですか?今年はあなたのチームは面白い存在になるという話じゃないですか?私としても2位の千要マートとの勝ち点が縮まってきている近年にあなたのチームのような新進気鋭の若い人達で構成されたチームが伸びてきているのはうれしい限りですよ。まあ、今年も優勝カップを貰うのはうちになるとは思っていますがね」
嵯峨から自分より背の低いかなめに視線を落とした武田は嵯峨に向けていた厳しい表情からいかにも楽しそうな顔に変えてそう言った。
「今から優勝宣言ですか?確かにこの50年間、このリーグでは常に武田さんのチームが優勝を続けてきた。この10年は千要マートが武田さんのチームをなんとか引きずりおろそうとがんばっていますが……まあ、あそこは学生チームですから毎年のようにメンバーが入れ替わるから今年の戦力が読めない状態でシーズンを始めることになる。その点うちは戦力は私は十分把握しているので……今年はうちはやりますよ」
いつものがらっぱちでも貴族の姫のような口調も封印していかにもチームを代表する監督同士と言った口調でかなめは右手を伸ばした。
武田はあいさつしながらも、相変わらず左手は古傷の左足に伸びていた。
「それは楽しみですね。うちも勝ってばかりでは面白くないんです。勝負というのは勝つか負けるか分からないからやる価値がある。去年はそちら自慢の新星サウスポーは後期リーグでも二試合ともそちらの出動で対戦する機会が無かったものですから……うちのメンバーも『都立の星』と呼ばれたサウスポーの球がどんなものか楽しみにしていますよ」
心底野球が好きだというまるで子供のような表情を浮かべて武田はかなめにそう言った。
「その楽しみはこちらもですよ。アイツは投げる方もそうですが、打力も結構ありましてね……うちで言えばアメリア以上、島田と互角程度ですか?そちらの変則ピッチャーも結構そのスイングには肝を冷やすんじゃないですかね。ボール一個中に入れば軟球でこの広い県営球場でもスタンドに運べるパワーの持主ですから」
得意げに笑みを浮かべるかなめ。それをいかにも楽しそうに見つめる武田。
『まあ、こんな平和な日がいつまでも続くといいねえ……確かにかなめの言うように神前ならこの広い球場でもホームランぐらい打てるかもな』
嵯峨は二人のエールの交換の邪魔にならないようにそのままファーストのポジションで気を利かせて嵯峨のファーストミットを持って来たスコアラーの西からミットを受け取ると満足げな笑みを浮かべた




