第35話 荒れるかなめ、思惑通りのかえで
「誠君、新生第二小隊の発足を三人で祝おうじゃないか」
場所は『特殊な部隊』の行きつけの焼鳥屋である月島屋。
そのカウンター席でいつものように年代物の赤ワインを傾けながらかえではさわやかな笑みを浮かべて誠に向けてそう言った。
「はあ、よろしくお願いします」
ビールのジョッキを手に誠もおずおずとそれに答えた。反対側の席ではリンが最近気に入っている新メニューのプーアル茶を飲みながらいつもの無表情で二人を見つめていた。
「これからはこの三人『干渉空間』と『光の剣』を扱う無敵の法術師が茜姉さんの法術特捜を補助する任務にあたることになるんだ。それに僕は元々法術師だ。君も知っての通り、僕は飛行術や時間切削、瞬間転移なんかも楽に使える法術師だ。君の負担はほぼゼロになるといってもいいかもしれないね……ああ、僕は『許婚』である君を立てるのが何よりの楽しみだから君にもそれなりの見せ場は用意するつもりだから安心してもいいよ」
そう言ってワインを口に運ぶかえでの目のは自信がみなぎっていた。
「かえでさん……あの人達なんとかしてくれないかしら……さっきからあの調子で……」
そんなところに水を差してきたのはいつもならこんないい雰囲気に酔っているかえでには声をかけないはずの気が使える月島屋の女将の春子だった。
その視線の先では誠も目をそむけたくなるような光景が展開していた。
アメリアの口に自分用にキープしてあるラム酒『レモンハート』のビンをツッコんで無理やり飲ませようとする怒りの表情のかなめ。必死に抵抗してテーブルの上の焼鳥を叩き落とすアメリア。それを黙って拾ってはため息をつくカウラ。
「醜い女の嫉妬か……人間ああはなりたくないね。リン、とりあえずこれをお姉さまの首の後ろにあるジャックに刺してくれ。そうすればしばらくお姉さまは機能停止するはずだ」
そう言うとかえでは胸のポケットから小さな差込口の付いたチップをリンに手渡した。
「承知しました」
リンはそれを受け取るとそのまま真っすぐかなめ達の座っているテーブル席まで行くと大笑いしてアメリアを押さえつけているかなめの後ろに回りその首元の髪を持ち上げると首元のジャックにそのチップを差し込んだ。
一瞬痙攣した後、かなめはそのままその場に倒れこんだ。アメリアはむせながら自分に絡みついた力の抜けたかなめの腕を払いのける。カウラは特に何の反応も示すこともなくその様子を黙ってみて大きくため息をついた。
「全くお姉さまにも困ったものだ……現実を理解する。自分のできることをする。それがお姉さまには理解できていない。関白推挙はまだ時期尚早だったかもしれないね」
かえではその様子を見ると満足げにそう言ってワインを一口飲んだ。




