第32話 合宿明けの不穏な朝
次の日、いつものようにリンの運転する高級乗用車でかえでとともに寮から隊に出勤して着替えを済ませた誠は司法局実働部隊機動部隊の詰め所に余裕のある時間に入った。
「おはようございます……?」
誠が驚いたのはいつもなら着替えの後にリンと甘い時を過ごすことを楽しみにしているかえでがすでにその場にいることと、後で寮を出たはずのかなめとカウラの姿までもが部屋の中にあったことだった。早めにつくことが多いアンはすでに自分の席で彼が通っている定時制中学の宿題を片付けるべく机に向かって必死にシャープペンシルを走らせている。
「おー、神前が来たか。これで全員そろったわけだな……それじゃあ全員機動部隊長席の前に整列しろ!」
そう叫んだのはこの部屋の主である司法局実働部隊副隊長で機動部隊長のクバルカ・ラン中佐だった。
誠はそのどう見ても8歳幼女にしか見えない彼女のその見た目からは考えられない貫禄のある動きを見ながら嫌な予感がして静かに第一小隊三番機担当として二番機担当のかなめの隣に立った。
「昨日は合宿だったらしーな。アタシは名誉監督だが野球の事は分からねーから来なかったけどまあ、充実した休日と言うのも良いもんだろーな。昨日はアタシは山部町でイワシの旨いのを食わせる店があるって言うんでお世話になってる御仁と一緒に出掛けたんだが、そこで……」
「姐御、そんな御託はどうでもいいんだ。わざわざ朝っぱらからアタシ等を絶たせた理由を話せ。下らねえことならいくら姐御とは言え許さねえからな」
ランの明らかに結論を先延ばししてまったく別の話を始めた後に待っている本題はたいていろくな話では無かった。
誠もこれまでも三回同じ目に遭ったが、一度目は県の土木部の依頼でのトンネル工事現場の土砂崩れのがれき撤去と言う面倒な仕事を押し付けられ、二度目は盆休みは県警のみなと公園での花火大会警備のために全員出勤という命令が出て、先週は豊川署の交通課の依頼でこのメンバーが忠勤切符を切る時に限ってやたらその金額が高いことに関する市民からのクレームが殺到しているという話題だった。
「なあに、簡単な話……そうですよね?クバルカ中佐」
そう言ったのは第二小隊小隊長のかえでだった。
「日野、クバルカ中佐がこれからいうことを知っているのか?貴様の事だ、どうせろくでもない事なんだろうな」
明らかに敵意むき出しでそう言うのが第一小隊小隊長のカウラだった。
アンはただぼんやりと立ち尽くして小柄なランよりはるかに小柄なランを見つめていた。
沈黙だけが流れた誠はどうせろくなことをランは口にしないだろうと高をくくってその小さな上司を見つめていた。




