分断
「…これは…」
前回のトカゲ尻尾熊の素材をギルドの受付嬢に見せる。
「狼山で出現したんです。この熊のせいか、魔物も全然現れておらず、生態系にも影響が出ている可能性があります。」
ノクスが説明すると、受付嬢はため息をついて答える。
「はぁ…最近増えてるんですよね。出現地域ではない所に魔物が出現するケース…」
「え、そーなの?」
「はい……そのせいで弱いパーティや一般人の方々が被害に遭うこと多くて、私達もその対処に追われて参ってるんです…」
彼女の言葉に俺達は衝撃を受ける。
……もしそうならかなり危険だ。
特に戦闘の出来ない人間には、対抗手段がない
「う〜ん…そりゃヤバいね」
「私達にも何かできることはないですか?」
「う〜ん…みなさん強いので、普通に仕事こなしてくれるだけで助かりますよ。」
彼女は気を使うようにそう言った。
まあそうだよな。原因も分かっていないのに一般パーティの俺達にできることなんかないだろう…
「――なので」
受付嬢はそう前置きし、掲示板から依頼書を一枚取ってくる。
「……バーニングスライム退治?」
「はい。最近、火属性のスライムが、なぜだか草原に現れるようになって…」
スライムには火、氷、雷、無の4属性があり、基本的に無属性のスライムが一番弱く、多い。普通は草原に居るのも無属性のスライムで、バーニングスライムは火山などの近くを住処にしている。
「…なるほど、異常ですね。」
「しかもバーニングスライムって、火災の原因にもなるから、かなり迷惑だな。」
「……じゃあ、引き受けてくださいますね?」
――――てなわけで、俺達は草原でバーニングスライムを倒していた。
(俺は倒してないが)
「クソっ、しかし数が多いな。」
「確かに、ここには火元は少ないはずなのに…」
「う〜ん、きりないね!」
会話しながらも3人は鎌や斧を駆使しながらバーニングスライムを倒していく。
俺は荷物拾いをしながら少し考えていた。
――生息地でもないのに数が多すぎる。明らかに異常だ。
それで俺は、思いついたことを口にする。
「なぁ、流石にここまでいるなら倒すよりもスライムの湧き場所を狙った方がいいんじゃないか?」
「どういう意味だ?」
3人はキリのいいとこで戦闘をやめ、俺の話を聞いてくれた。
「……つまり、根元の火を消せば、このスライム地獄をどうにかできるって言いたいのか?」
「恐らく、だけどな」
「…試してみる価値はありますね。
ヴォラ、あなたならスライムの生息地分かるよね?」
ノクスはヴォラにそう質問する。
確かに彼女は生物についての知識が
豊富らしいし、適切な判断だろう。
「………確か、ここのスライムは湿地帯近くの洞窟から湧いていたはずだ。」
「じゃ行ってみよ!」
―――そんなこんなで洞窟に入った俺達は、スライムのアジトを探していた。
「ここの奥地に湧き場所があるはずだ。」
「意外と広くなさそーだね」
ラピスの言う通り、洞窟はそこまで広くなかった。
魔物も多くはなく、今のところはそこまで苦戦しなさそうだ。
魔物を倒し、拾いながら俺達は
洞窟を進んでいく。
すると二手に別れた道に遭遇した。
「どっちにする?」
「う〜〜〜ん右!」
そのまま右の道を真っ直ぐ進んでいく。すると――
「…行き止まりだ…」
「せっかくだしここで休みましょうか。洞窟まで来るのにも結構疲れちゃったし」
「そうだな」
「「賛成〜」」
俺達は狼山の時と同じように、焚き火を囲んで休憩を始めた。
「はぁ〜しかし寒いね〜。寒すぎて歯ガチガチする〜」
「わかる…洞窟って冷えて嫌だよな。」
「ね〜」
俺もラピスも自分の肩を擦りながら、文句を言う。特にラピスは露出の多い服装だから寒そうだな…
ヴォラも同じ事を思ったようで、呆れたように言った。
「貴様もそうだがノクスも半袖にミニスカミニズボンなんだから寒いに決まってる。見ているだけで寒い」
「私はべつに寒くないけどなぁ…?手袋があるからかな」
「貴様は鈍感なだけだ。」
「ハハハ」
俺はこの緩い感じが大好きだ。
だからこそ、無理にでもパーティに入りたかった理由の1つでもあるかもしれない。
「というかノクスには喜怒哀のイメージすらない。いっつも楽だ」
「確かに…なんか派手に表情変化しないよな。」
「そうかな、自覚したことはないんだけど…」
「ラピスは確かノクスと一番付き合い長いだろ?あいつが喜怒哀表してるところ見たことあるか?」
ヴォラがラピスに尋ねる。
そんなの初耳だ…
「う〜ん……忘れちゃった!」
「ボケが」
「ラピスらしいな…」
…こう考えると俺は3人の事を何も知らないな。
…もっと知れたらいいな。3人のことも
「さて!そろそろ行こっか!」
「そうだな。早く終わらせて早く帰るぞ。」
2人は立ち上がって先に進んでいく。
俺も立ち上がって荷物を持つ……
その瞬間
洞窟全体を震わせる怪獣の咆哮のような轟音が響いた。
「うわぁ!なんだ?」
「もしかして魔物の声?!ヤバそうじゃね?!」
「…この声は恐らくサラマンダーだ。
炎属性の中級種……のはず…なのに」
ヴォラは震えた声で続けた。
「……なぜ、洞窟にいる……?」
「そんなことはいーよ!どうする?!ねえ、ノクスっちもなんか言ってよ!
……ノクス?」
「…」
俺達が騒いでいるのも、ラピスの呼びかけも……彼女の耳には届いていないようだ。
「ノクス?どうした、大丈夫か?」
返事はない。
ただ、彼女は俯いたまま動かず――
「…ハハハハハハ」
彼女は急に笑い始めた。
…もしかして狼山の時と同じ様な感じになっているのか…?
「!ハッチー危ない!」
「えっ、うわっ!」
ラピスがそう言った瞬間、俺はラピスのヘビにより投げ飛ばされ、休憩していたスペースの壁まで叩きつけられて、ノクスは手当たり次第に爆破をしていた。
「いっ……何やってるんだノクス!」
「だって、だって爆破しないと音は消えないじゃない!」
「……ノクス…?」
彼女は狼山とは違い、楽しそうというよりは、この大きな音を、どうしても消さなければならない――そんな必死さだった。
俺はとにかくノクスを止めるため足を掴んだ…そのせいで彼女の爆破の狙いが外れ、天井に爆破が当たる。
俺とノクスの前で、天井が大きな音を立てて崩れた。もう咆哮は聞こえない。
「…ぐっ…ノクス、大丈夫か?」
「……あ…あ……今!私…何して…」
「おい!大丈夫か!?こっちに来れるか?!」
ヴォラが俺とノクスに聞いてくる。
どうやら、ノクスの爆破によって、俺達は完全に分断されてしまった。
俺とノクスは行き止まり側、ラピスとヴォラは反対側だ。
俺は壁越しに話す。
「ダメだ、行けそうにない……そうだ、
ラピスの岩魔法で動かせないか?」
「ごめん…スライムの時に結構消費しちゃって…魔力があんまなくて…」
「…そうか…」
俺に続いてヴォラも意見を出す。
「ノクスの爆破は?」
「……ごめん…こっちが狭すぎて爆破したらハンスさんが怪我しちゃう……」
「……」
合流する手段がない事実に、空気が重くなっていく。
一瞬の沈黙のあと、日頃の積み重ねが溢れ出たように、ヴォラは完全にキレた。
「ノクス……今までもそうだったよな。お前のその変なスイッチのせいで、何回私達が酷い目にあったか覚えてるか?なぁ?!」
「ごめん…………ごめんなさい……」
「あぁ………ふたりとも……」
「………」
最悪だ……2人の空気が地獄のようになってしまった。間に立って、何か言おうとして言葉を選び、
結局、何も言えずに飲み込むラピスが、ただただ可哀想に思えた。
でも……なぜノクスはあんなに焦っていたんだ?
次回は水曜日の午後に投稿します




