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星占い師との出会い再び

グラディーン家の訪問まであと三日となった朝、アルベール侯爵は家族と従者を集めて最終確認の会議を開いた。書斎の大きな机を囲み、侯爵は訪問の詳細について説明していた。窓から射し込む朝日が、陽の当たる側の顔を半分だけ照らしている。


「グラディーン伯爵はイオルフと、側近を五人ほど連れてくる」侯爵は厳格な表情で言った。「彼らは二泊する予定だ」


私は侯爵の横に立ち、メモを取りながら真剣に聞いていた。セリーヌ様は父親の向かいに座り、時折私に視線を送っていた。リリスは彼女の後ろに控えている。


「訪問の主な目的は」侯爵は続けた。「表向きは友好を深めるためだが、実際には我が家の立場を探りに来るだろう」


「グラディーン家は王位継承問題でどのような立場なのですか?」私は尋ねた。


侯爵は私をじっと見た。「彼らは大司教派だ。現状維持を望んでいる。王族の血筋が途絶えた今、新たな王が現れることはないと考えている」


王位継承問題—学院での歴史の授業で学んだことを思い出す。十年前、エドガー王が亡くなり、三人の王子も相次いで命を落とした。王家の血筋が途絶え、大司教が暫定的に国を治めることになったのだ。


「しかし」侯爵は言葉を続けた。「一部には、まだ生き残りの王子がいると信じる者たちもいる」

セリーヌ様が顔を上げた。「本当にそんな可能性が?」

「噂だけだ」侯爵は静かに言った。「だが、グラディーン家はその噂を警戒している。彼らの野心のためには、王族の生き残りは邪魔なのだろう」


「我が家はどのような立場なのですか?」セリーヌ様が尋ねた。

「中立だ」侯爵はきっぱりと言った。「しかし、もし真の王が現れれば…」


彼は言葉を切り、窓の外を見た。その目には、言葉にできない何かが宿っていた。


「ともかく」侯爵は話題を戻した。「イオルフには警戒が必要だ。彼は君に興味を持っている」

セリーヌ様の表情が曇った。「父上、私は…」

「心配するな」侯爵は優しく言った。「君の気持ちを強制することはない。ただ、彼の前では礼儀正しくふるまうように」


会議を終えた後、セリーヌ様は私に町へ出かけることを告げた。「晩餐会のための新しいドレスと、いくつか必要なものがあるの」

「かしこまりました」私は頷いた。「準備を整えます」


馬車が用意され、セリーヌ様とリリス、そして私は町へと向かった。夏の日差しが強く、道には埃が舞い上がっていた。窓から見える景色は、黄金色の麦畑と緑の森、そして遠くに見える青い山々。美しい風景だった。


「レオン」馬車の中でセリーヌ様が突然声をかけた。「あなたは夢を見ることはある?」

予想外の質問に少し驚いた。「寝付きはいいほうですので、あまり夢は覚えていませんが…」

「でも?」彼女は興味深そうに身を乗り出した。

「時々、修道院の中庭のような場所にいる夢を見ることがあります」私は正直に答えた。「そこには、赤いバラが咲いていました」


セリーヌ様の目が輝いた。「赤いバラ?」

「はい」私は頷いた。「壁に沿って咲いていて、とても鮮やかでした。それから…」

言葉に詰まる。最近、その夢はより鮮明になっていた。中庭の向こうには大きな塔があり、その頂上には星の紋章が輝いていた。そして、私は誰かの手を握っていた。小さな、温かい手。


「それから?」セリーヌ様が促した。


「いいえ、それだけです」私は答えた。夢の続きを話すべきかどうか迷った。あまりに個人的な内容に思えたからだ。

セリーヌ様とリリスは顔を見合わせた。リリスの目には意味深な色が宿っていた。


「赤いバラの花言葉、知ってる?」セリーヌ様が静かに尋ねた。

「いいえ」

「情熱と愛よ」彼女は小さく微笑んだ。「あなたの心の奥に、誰かへの想いがあるのかしら」

私は困惑した。「そんなことはありません。私は従者として、ただ主人に忠誠を誓うだけです」

セリーヌ様の表情が少し曇った。「そう…」


リリスがそっと咳払いをした。「お嬢様、もうすぐ町に着きますよ」


馬車が町の入り口に差し掛かると、今日は特に賑わっていることに気づいた。通りには人が多く、カラフルな旗や装飾が施されていた。


「今日は何かお祭りですか?」私が御者に尋ねると、彼は笑顔で答えた。

「夏至祭です。毎年この時期に開かれる市場と祝祭ですよ」

セリーヌ様の顔が明るくなった。「そうだった!夏至祭!」彼女はリリスに向き直った。「リリス、見て回りましょう!」


馬車から降りると、町の活気が一層感じられた。広場には様々な屋台が並び、音楽が流れ、人々が踊っていた。セリーヌ様の目は好奇心と喜びで輝いていた。


「まずは服屋に行きドレスを見ましょう」彼女は言った。「それから、市場を見て回りたいわ」


私たちは人混みを縫うように進み、広場の角にある高級仕立て屋に到着した。店内には様々な生地や完成した衣装が並んでいた。セリーヌ様とリリスは熱心に品定めを始め、私は入り口近くで警戒しながら待った。


「レオン様」突然、リリスが私に声をかけた。「あなたの意見も聞きたいそうです」


「私の?」驚いて振り返ると、セリーヌ様が美しい青いドレスを身に着けていた。


「どう?」彼女は少し恥ずかしそうに尋ねた。「似合うかしら?」


青い布地は彼女の瞳の色を一層引き立て、金色の髪と白い肌に完璧に調和していた。私は一瞬言葉を失った。


「とても…お似合いです」素直にそう答えた。


彼女は嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう」


他にもいくつかのドレスを試した後、セリーヌ様は最初の青いドレスを購入することに決めた。支払いを済ませ、私たちは再び広場へと戻った。


「次はどこへ?」私は尋ねた。


「市場を見て回りましょう」セリーヌ様は目を輝かせた。「夏至祭の特別な品があるかもしれないわ」


私たちは広場を歩き回った。様々な屋台で、手工芸品や食べ物、装飾品が売られていた。セリーヌ様は特に香水と手作りの宝石類に興味を示し、いくつか購入した。リリスも小さな木彫りの人形を買い、嬉しそうに袋にしまった。


昼頃、私たちは広場の中央にある噴水の近くで休憩することにした。セリーヌ様とリリスが石のベンチに座り、私は彼らの荷物を持ちながら立っていた。


「レオン、あなたも座って」セリーヌ様が言った。

「いいえ、私は…」

「お願い」彼女は強く言った。「少しだけでも」

従うほかなく、私は彼女の隣に腰掛けた。ほどよい距離を保ちながらも、彼女の香りが微かに漂ってきた。花と柑橘系の爽やかな香り。


「見て」セリーヌ様が指さした先には、子供たちが花輪を作って遊んでいた。彼らは笑顔で、完成した花輪を互いの頭に乗せていた。「可愛いわね」

「ええ」私も思わず微笑んだ。


リリスが立ち上がった。「お二人、少し飲み物を買ってきますね」


彼女が去った後、セリーヌ様と私は静かに座っていた。噴水の水音と、遠くから聞こえる音楽だけが、私たちの間の沈黙を埋めていた。

「レオン」彼女が静かに言った。「あなたには恋人がいたことはある?」

またしても予想外の質問だった。「いいえ、ありません」


「そう…」彼女は水面を見つめた。「私にもないわ。父上が許さないだろうし…」

「適切な時期に、ふさわしい方が現れるでしょう」私は丁寧に答えた。


彼女は苦笑した。「ふさわしい方、ね」


「セリーヌ様には、高貴な出自の方が…」

「出自だけが全てじゃないわ」彼女は突然強い口調で言った。「私が大切にしたいのは、その人の心。誠実で、強く、優しい心を持つ人」


彼女の言葉に、私の胸が奇妙に熱くなった。しかし、それはすぐに収まった。確かに彼女の言うことは理解できる。しかし、現実の社会では、身分の違いは大きな壁となる。


「ごめんなさい」彼女は少し恥ずかしそうに言った。「変なことを言って」

「いいえ」私は首を振った。「お気持ちはよくわかります」


リリスが飲み物を持って戻ってきた。「お待たせしました」

私たちは冷たいレモネードを飲みながら、しばらく休憩した。人々が行き交い、音楽が流れ、夏の陽光が広場を包み込んでいた。


「あれは…」セリーヌ様が突然立ち上がった。「見て、占い師の屋台!」

確かに、広場の端には紫の布で覆われた占い師の屋台があった。青と金の星の模様が描かれた看板には「星の導き—過去と未来を読み解く」と書かれていた。


「行ってみましょう!」セリーヌ様は私の腕を引いた。「前回とは違う占い師みたい」

拒否するという選択肢は、私にはない。屋台に近づくと、黒いローブを着た痩せた男性が座っていた。その顔は深いフードに隠れ、テーブルの上には水晶球が置かれていた。


「いらっしゃい」男は低い声で言った。「運命を知りたいのかね」

セリーヌ様は興味津々で前に進み出た。「はい、お願いします」

「座りなさい」男は彼女の前の椅子を指さした。


セリーヌ様が座ると、男は水晶球に手をかざした。彼の指は長く、青い指輪が光っている。「若き貴婦人よ、何を知りたい?」

「私の未来を」セリーヌ様は答えた。「特に…愛について」

彼女が言った最後の言葉に、私は思わず彼女を見た。彼女の横顔は真剣で、わずかに緊張しているようだった。

「愛か…」男は水晶球を覗き込んだ。「見える…あなたの心には既に特別な人がいる」


セリーヌ様の頬が赤くなった。「本当?」

「ああ」男は続けた。「あなたの近くにいる人だ。だが、何かが邪魔をしている。壁のようなもの…」

「その壁は?」セリーヌ様が身を乗り出した。

「身分の壁ではない」男は不思議な口調で言った。「心の壁だ。彼の心は封じられている」

私は警戒心を強めた。この男の言葉は単なる占いとは思えなかった。何か別の意図があるように感じられた。


「彼の心は…」セリーヌ様は小声で繰り返した。

「そして」男は突然私を指さした。「この若者も見せなさい」

私は躊躇したが、セリーヌ様の熱心な視線に促され、渋々椅子に座った。


男は私の顔をじっと見つめた。フードの下の彼の目が一瞬青く光ったように見えた。

「興味深い…」彼は呟いた。「あなたは自分が誰だかわかっていない」

「何を言っているのですか」私は冷静に答えた。


「あなたの中に、二つの人生がある」彼は水晶球に触れた。「表の顔と、隠された素性。記憶の扉が閉ざされている」

私の心拍が速くなった。これは前回の占い師と同じような言葉だ。


「あなたの夢に出てくる赤いバラ」男は続けた。「それは過去の記憶の断片。修道院の中庭で、あなたは誓いを立てた。星の紋章の下で」

私は体が凍りついたように感じた。どうして彼が私の夢の内容を知っているのか。私はセリーヌ様以外に誰にも話していなかったはずだ。


「そして」男は声を低めた。「雪に覆われた城。それはあなたの…」


突然、男は身を引き、水晶球から手を離した。「見間違えた」彼はぶっきらぼうに言った。「やはり、ただの平民だ」


私は混乱した。彼の態度が急に変わったのはなぜだろう。

「二銀貨だ」男は手を差し出した。


セリーヌ様が支払いを済ませると、私たちは急いで屋台を離れた。セリーヌ様の表情は複雑で、何かを深く考えているようだった。

「不思議な占い師ね」彼女はようやく口を開いた。「前回の人と似たようなことを言っていたわ」

「偶然でしょう」私は平静を装った。「こういった占い師は、人の反応を見て言葉を選ぶものです」


「でも」彼女は真剣な目で私を見た。「あなたの夢のことまで当てていたわ。赤いバラと修道院の中庭…」

私も不思議に思っていた。しかし、それを彼女に悟られるわけにはいかない。「単なる偶然です」


「レオン」彼女が立ち止まった。「あなたには本当に何も隠していることはないの?」

彼女の問いかけに、私は戸惑った。隠しているつもりはないが、確かに自分でもわからないことがある。夢や、時折感じる既視感、そして頭痛…

「私は」正直に答えた。「セリーヌ様に忠誠を誓う従者です。それだけが真実です」


彼女はしばらく私を見つめた後、小さくため息をついた。「わかったわ」

私たちがリリスと合流すると、彼女は心配そうな表情をしていた。「どうかしましたか?」


「いいえ、何でもないわ」セリーヌ様は笑顔を取り戻そうとした。「そろそろ帰りましょうか。買い物も済んだことだし」

帰り道、馬車の中は静かだった。セリーヌ様は窓の外を見つめ、時折深い考え事をしているようだった。リリスは彼女を心配そうに見ていた。


「あの占い師」突然、リリスが言った。「変な人でした?」

「ええ、少し」セリーヌ様は答えた。「でも、興味深いことも言ってたわ」


「どんなことですか?」

「レオンの心が封じられているって」セリーヌ様は私を見た。「心の壁があるって」

私は黙って聞いていた。確かに、自分の中に何か欠けているものがあるような感覚はある。しかし、それが何なのか、まだ理解できていなかった。


館に戻ると、侯爵が玄関で私たちを出迎えた。彼の表情には緊張が見えた。

「戻ったか」彼は言った。「無事で何よりだ」


「何かあったのですか?」セリーヌ様が尋ねた。

「北からの情報だ」侯爵は低い声で言った。「グラディーン家が、密かに何かを探しているらしい」

「何をですか?」


「それはまだわからない」侯爵は慎重に言った。「だが、彼らの魔道士が各地を回っていると聞く。何かを感知しようとしているようだ」

魔道士—私の脳裏に、青い光る目を持つ占い師の姿が浮かんだ。単なる占い師ではなかったのかもしれない。


「セリーヌ」侯爵が続けた。「明日からは館の外に出ないように。グラディーン家が来るまでは、安全を優先したい」

「わかりました、父上」彼女は素直に頷いた。


私は侯爵に近づいた。「侯爵様、今日町で奇妙な占い師に出会いました。彼の目が青く光り…」

侯爵の表情が一瞬こわばった。「どのような者だ?」


「黒いローブを着た痩せた男性です。水晶球を使い、奇妙なことを言いました」

「何と?」


「私の記憶について、そして雪の城のことを」

侯爵は深刻な表情になった。「警戒が必要だ。それはグラディーン家の魔道士アザゼルかもしれない。彼は読心術に長けていると聞く」


読心術—そうすれば私の夢の内容を知っていたことも説明がつく。「彼は何を探しているのですか?」

「それはまだわからない」侯爵は言った。「だが、彼が君に興味を持ったことは覚えておく必要がある」


私も頷いた。確かに、占い師は私に対して特別な関心を示していた。しかし、なぜ途中で態度を変えたのだろう。「最後に、彼は『見間違えた、ただの平民だ』と言いました」

「そうか…」侯爵はしばらく考え込んだ後、「今夜、書斎に来てくれ。話がある」と言った。

セリーヌ様とリリスは自室へと向かい、私は荷物を運んでから自分の部屋に戻った。窓辺に立ち、町の方角を見つめながら、今日の出来事について考えた。


占い師の言葉、セリーヌ様の問いかけ、そして侯爵の反応。全てが何かに繋がっているような気がする。だが、それが何なのかはまだわからない。


夕食の後、約束通り侯爵の書斎を訪れた。扉をノックすると、中から「入れ」という声がした。

書斎に入ると、侯爵は窓辺に立っていた。月明かりが彼の厳格な横顔を浮かび上がらせている。机の上にはいくつかの書類と、一通の封印された手紙があった。

「レオン」侯爵が振り返った。「今日の占い師の件だが、詳しく聞かせてくれ」

私は全てを話した。占い師の言葉、彼の青く光る目、そして彼の突然の態度の変化まで。

侯爵は黙って聞いていた。「そして、彼は最後に『ただの平民だ』と言ったのだな」

「はい」

「興味深い」侯爵は窓の外を見た。「彼は最初、君に何か特別なものを感じたが、読心術の結果、君が本当に自分を平民だと思っていることがわかり、見間違えたと判断したのだろう」

「つまり、彼は何か別のものを探していた?」

「そう考えるのが自然だ」侯爵は頷いた。「グラディーン家は常に、自分たちの地位を脅かすものを探している」

「私がその脅威になるとでも?」思わず笑いそうになった。「平民の従者が?」


侯爵は真剣な表情で私を見た。「レオン、私は君について知っていることがある。ヴァレンシュタイン学院長から聞いたことだ」

私の心臓が早鐘を打った。「何をですか?」

「君は特別な才能を持っている」侯爵は丁寧に言葉を選んでいるように見えた。「学院長は、君には『使命』があると言っていた」


私は学院長の手紙を思い出した。「なすべきことがある」と書かれていた。

「使命とは何でしょうか?」


「それは私にもわからない」侯爵は正直に答えた。「だが、グラディーン家がやって来るまでは、特に警戒が必要だ。君は常にセリーヌの側にいて、彼女を守ってほしい」

「承知しました」私は深く頭を下げた。「命に代えても守ります」

侯爵は満足げに頷いた。「ありがとう、レオン。君を信頼している」


部屋を出る前、侯爵がもう一つ言葉を添えた。「そして、セリーヌのことだが…」

「はい?」

「彼女は君に特別な感情を持っているようだ」侯爵は静かに言った。「私は彼女の幸せを願っている。だが、今は…時期ではない」


私は驚いた。セリーヌ様が私に特別な感情?そんなはずはない。

「侯爵様、それは誤解でしょう」私は慎重に言った。「私はただの従者です」

「そうかもしれない」侯爵は謎めいた表情で言った。「だが、運命には誰にも読めない糸がある」


彼の言葉の意味を考えながら、私は自室へと戻った。書斎を出ると、廊下の暗がりにリリスの姿があった。彼女は何か聞いていたのだろうか。


「リリス?」

「レオン様」彼女は少し驚いたように見えた。「遅くまでお仕事ですね」

「ああ、侯爵様と話していた」


彼女は意味深に頷いた。「お嬢様のことで?」

「いや、明日からの警戒についてだ」

「そうですか」彼女は小さく微笑んだ。「では、おやすみなさい」


リリスが去った後、私は自室へと向かった。窓の外には満天の星が瞬いていた。今日出会った占い師のこと、侯爵の言葉、そしてセリーヌ様の問いかけ。全てが混沌としていた。


ベッドに横になると、すぐに眠りに落ちた。その夜、私は再び夢を見た。


赤いバラが咲く修道院の中庭。今回はより鮮明だった。私の隣には少女がいて、私たちは手を繋いでいた。彼女の金色の髪が陽光に輝いている。

「約束して」彼女は言った。「必ず戻ってくると」

「約束する」夢の中の私は答えた。「星に誓って」

頭上では、塔の紋章が青く輝いていた。それは星の形をしていた。


朝、目が覚めると、夢の内容を鮮明に覚えていた。これは単なる夢なのか、それとも失われた記憶の断片なのか。わからない。しかし、一つだけ確かなことがあった。


夢の中の少女は、幼いながらもセリーヌ様にそっくりだったのだ。

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