エピローグ: 星に導かれて
戴冠式から一年が経った春の日、王宮の庭園では華やかな結婚式が執り行われていた。レオハルト王とセリーヌ・ド・ヴァランティーヌの結婚式は、国を挙げての祝祭となっていた。
庭園は色とりどりの花で飾られ、国内外からの賓客で溢れていた。アーチの下に立つレオハルトは、王としての正装に身を包み、威厳と喜びに満ちた表情をしていた。そして、アルベール侯爵に腕を取られたセリーヌが、純白のドレスに身を包み、ゆっくりと彼の元へと歩み寄ってきた。
「彼女は美しい」マーカスが小声で言った。彼はレオハルトの付添人として隣に立っていた。
「ああ」レオハルトは微笑んだ。「この日を夢見ていた」
セリーヌが彼の前に立ち、二人は見つめ合った。彼女の青い瞳には、幸せの涙が光っていた。
大司教ウルバンが二人の結婚の儀式を執り行い、誓いの言葉が交わされた。レオハルトが指輪をセリーヌの指にはめると、集まった人々から歓声が上がった。
「私は宣言する」大司教の声が響いた。「二人はこれより夫婦となった。王と王妃として、共に国を導くだろう」
レオハルトとセリーヌは手を取り合い、集まった人々に向かって微笑んだ。彼らの幸せは、国全体の喜びとなっていた。
宴の後、夕暮れ時、新たに王妃となったセリーヌは、王宮の高い塔から街を見下ろしていた。レオハルトが彼女の後ろから近づき、肩を抱いた。
「何を考えているんだい?」彼は優しく尋ねた。
「全てがどうやって始まったかを」セリーヌは答えた。「あなたが従者として我が家に来た日のことを思い出していたの」
「ああ」レオハルトも懐かしく微笑んだ。「レオン・ラグランとしての最初の任務だった」
「あの時は想像もできなかったわ」セリーヌは彼を見上げた。「あなたが王子で、私が王妃になるなんて」
「運命は不思議なものだ」レオハルトは星空を見上げた。「だが、それは偶然ではなかったのかもしれない」
「占い師も言ってたわね」セリーヌは思い出した。「星の力が失われた者を導き戻すと」
「そして、私たちが子供の頃に交わした約束」レオハルトは付け加えた。「星に誓って、また会うと」
二人は手を取り合い、夜空を見上げた。北極星が明るく輝いていた。王の星、旅人を導く星。
「これからも長い道のりがあるわ」セリーヌは静かに言った。「国を再建し、平和を守るために」
「ああ」レオハルトは頷いた。「だが、一人ではない。君がいてくれる」
彼らは静かに寄り添い、星明かりに照らされていた。王と王妃、かつては従者と主人だった二人が、新しい未来を共に歩み始めたのだった。
首都の上空に花火が打ち上げられ、色とりどりの光が夜空を彩った。民衆の歓声が街中に響き渡り、祝福の鐘の音が遠くまで届いていた。
十年の空位期間を経て、国にはついに真の平和が訪れようとしていた。レオハルト王の統治は、公正さと思いやりで知られるようになり、民衆の信頼を集めていた。立憲君主制の改革も順調に進み、貴族と平民の隔たりは少しずつ解消されていった。
そして何より、王と王妃の深い絆と愛情は、国全体の模範となっていった。二人の物語は、世代を超えて語り継がれることになるだろう。
星に導かれて出会い、試練を乗り越え、そして共に国を導く二人の物語を。




