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6,結

道を開けろ!

ハピエン村の住人だ!!

 ――――まだ耳に残ってる。大好きな人の声だ、忘れるわけがない――だけど、もう思い出せない。時刻の確認が最優先。その日のやる気が決まると言っても過言ではない大事な儀式。視線は真っすぐ定位置へ――すでに昼近い。起きたらやることを順番に並べていく。


「エリー、起きて。朝」

「………………吸血鬼なんで朝に弱いんです」

「はいはい、それじゃあご飯出来たら呼ぶから、そのまま寝てな。……今日の予定は?」

「…………美咲といっしょ」

「朝ごはんは何食べたい?」

「……美咲とおなじやつ」


 手早く着替え、ベッドから落ちかけているエリーを寝かせ直し軽く頭を撫でておく。静かにドアを閉め、一階へ。閑散としたリビングに寂しさを感じる間もなく、朝食の準備に取り掛かる。

 今日は休日だから寝かせたままだけど、いつもならエリーの着替えから始まり学校への送り迎えと、妹の世話は中々に大変だ。


「……ええ、何で、Gがここにいる?」


 黒光りしてる奴ではなく、夢の中で会った命の恩人。リビングのソファーの上でぐーすか寝てる。どっから湧いて出た。

 そういえば、妹は背中から翼を生やせたんだった。まだ僅かに残る月のペンキとやらが付いてる指先が、夢なんかじゃないと主張してる。


「……そういえば、大人になれるんだっけ? ……ふーん、別にいいけど」


 もう子供じゃないと言われようが朝は起きられないし、中身は子供のままだ。たとえ見た目が変わろうが――――変わろうが……なんだ?

 ――

 ――――

 ……そう!

 可愛い妹なことに変わりはない。








「美咲、おはようございます」

「……どうした? 格好良くポーズなんか決めちゃって。しかも、朝から大っきくしちゃうなんて……いけない子」

「大人になれることがバレたからお披露目したのに、卑猥な言い方はやめてもらえます? それより、どうですか? 惚れ直しちゃったりするんじゃないですか?」

「そんなことよりGがいるんだけど、そこで寝てる」


 大人になったエリーの背は、夢から覚めた本来の私ですら若干届かない。しかも動作に幼さなど微塵も感じられず、Gに駆け寄る姿も優雅で直視し辛い。正直、詰め寄られたら妹バリアを全力で展開しなければ誘惑を跳ね除ける自信がない。


 それにしても――――


「……Gとエリーって似てるよね。姉妹だったりする?」

「えぇ、まあ、そんなとこです」


 ……いいや、Gを抱き上げる仕草はまるで――


「……はっ! お母さん許しませんよ!? その歳で子供なんて!?」

「え”!?」

「えぇ、何その反応!? もしかして本当に!?」

「――――私は美咲の妹です」


 されるがままエリーに抱っこされていたGがいきなり目覚め、深紅の瞳を向けてくる。さらに心なしか光ってる、なんだこれ!?


「私は美咲の妹なんです。仲が良い三人姉妹です。ふう……洗脳完了です」

「おい、変な光線を飛ばすな! 家が吹き飛ぶかと思った」

「なっ!? 洗脳が効かない!? ……もしかして主様が防御を!?」

「うぬぬぬぬ!!」

「二人がかりでも効かないなんて!? まさか不感症設定がここで活きるとは!!」

「……眩しいからやめて。Gも、私の妹になりたいなら素直にそう言えばいいじゃない。私は大歓迎だよ?」

「……いえ、いつか伝えねばと怯えて過ごすよりは真実をお伝えします。許さないと言われましたが…………私は美咲と主様の魂を掛け合わせて作られました――つまり、あなたの娘になります」

「……うん?」

「お母さん」

「何やってるエリー!! 催眠光線の出力を上げろ――――!!」

「……疲れました。お腹も空きましたし、ご飯にしましょう」


 ――――諦めが早すぎる!! えっと、つまり、なんだ……私たちの子供? 待て待て!!


「エリー、何勝手なことを!?」

「ちゃんと美咲と相談して決めましたよ? 前々世の記憶は無いんでしたっけ?」

「あるわけないでしょう、そんなの!」

「それなら私の記憶を美咲に分け与えます。ラブラブでドロドロで濃厚だった日々を美咲に再インストールです」

「――ちょっと待てい!! 何をしてたんだ私たちは!? 姉妹でしょうが!?」

「ぇえ?? 違いますよ? 美咲の妹――ってことにして家族には誤魔化そうって二人で決めたじゃないですか? 催眠光線は効かないのに自己暗示は引くレベルなんて、私が妹っぽく振舞いすぎたのが原因とかなんですか?」


 ……え、だって、エリーは妹で……まだ子供で…………妹なんだから、恋愛感情とかありえないよねって自分に言い聞かせてきたのに――――


「私の名前はエリザベートです。美咲とエリザベート、姉妹の名前だと思いますか?」

「……バリバリ違和感がございます」

「美咲の本当の気持ちはとっくに知ってます。夜な夜な私のことを想って泣いてたことも知ってます」

「……し、知ってた? …………やばい、死にたい」

「そんなこと言うから、変な奴に目をつけられて実験台にされるのですよ? 泣くほど我慢するなら思い切って言っちゃってください」


 ――実の妹ではないと知っただけで告白できるのなら、そもそも悩んでなどいない。

 恋心などとっくの昔に閉ざしたままで、その生き方はきっと魂にまで沁みついちゃってる。


「お姉ちゃん大好きって、昔みたいに言ってくれてもいいんですよ?」

「……そんなこと言ってない」

「ああ、すみません。これは前々世の出来事でしたね。ついでに結婚式の様子も語りましょうか?」

「……やったの?」

「その結果。生まれたのが私です」

「Gはあっち行ってなさい」



 ――知られている。

 そして、エリーは待ってる――――



 ……言えと?

 さっきまで妹として扱ってきたのに?


「顔、真っ赤ですよ?」

「うるさい」

「おはようって言われたら、おはようって返すのと同じです。好きですって言われたら結婚しようってちゃんと返しますから、怖がることはないんですよ?」

「過程が省略されすぎてる!」

「過程はとっくに済ませてます。こんなのはただの確認です」

「……………………えっと」

「はい、式はいつあげますか?」

「ひぅ! まだ――まだ言えてない……から!」

「はい、待ってます」

「……えっと、本当は…………エリーのことが好きで……。ずっと――大好きでした!! 出会った時から、いつからなんて忘れたけど、ずっと前から!!」





「最後の一撃は、せつない」


 そんなことないよ、何度修正したことか。

 書き終わったか――納得していないを何度繰り返したことか。


 そんなわけで、この文章が世に出たってことは完結させたってことです。

 短いですが、ここまで読んでくださってありがとうございました。







 最後に、使えなかった文章を供養して終わろうと思います。


「美咲、その手」

「うん、まるで月のペンキみたいだよね。でも、大切な記憶だった気がするのに何も思い出せないの」

「ばっちり覚えてるじゃないですか」

「でも、月のペンキって月の石よりもレアじゃない? 大金持ちになれるかも」

「美咲は自分の言葉に疑問を持たないんですか?」

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