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5、月

 前話との温度差で風邪など引きませぬよう、温かくしてお過ごしください。

「探しましたよ、美咲。主様がまもなくすっ飛んで来ます。帰り支度を、忘れ物はありませんか?」

「――びゃっ!!」

「…………まるでTKB当てゲームに負けた時のような悲鳴ですね。勝つ気すらないのですか?」

「あなたが耳元でいきなり囁くからでしょうが!! 好き勝手言ってくれちゃって、なんなら勝負しようか!?」

「余程の自信をお持ちのようで、自分が負けるとは微塵も思っていない様子――まさか……美咲は不感症、覚えました」


 売り言葉に買い言葉なだけだ。そんな夢のようなゲーム、挑まれたことすらない。


 というか…………誰?

 声を聴いた感じ、初めましてのはず。私の名前を知ってるってことは敵ではないのだろう。とすると味方か、ただの変態か…………うーん、判断がつかん。


「……あなた誰? 名前は?」

「Gといいます。呼ぶ時は『ジー』ではなく『ジイ』で、……何か違う意味に聞こえてきませんか?」

「口を閉じろ、へんたい」

「美咲には負けます。さっそくTKB当てゲームを開始するなんて。……負けず嫌いなんですね?」


 ……違う、声を頼りに手を伸ばしているだけだ。


「でも」


 うん?


「この暗闇では、いささかハンデがありすぎますね」


 ――――唐突な眩しさに慌てて目を閉じる。瞼を貫通するほどの閃光が瞬き、轟音とともに地下牢の天井が消し飛ぶ。瓦礫は降り注ぐことさえ許されない。


「…………平伏して敬語で接しようかな。今のを私に向けられたらたまったもんじゃない」

「心配いりません。ビームの性質を都合よく服だけ破ける仕様に変更しておきましたから。美咲なら、きっとうまく使いこなせることでしょう」

「ありがとう。でもごめんね。私、服は自分の手で脱がしたい派だから」

「……何だか寒気がしてきました。ふざけすぎましたか? ごめんなさい、子供なので許してください」


 ……私の舌戦についてこれるなんて経験豊富なお姉さんかなと思いきや、白日の元に晒さられたその正体は!? 身長は……私の妹くらいか……?

 しかも、少し似てる!

 妹の妹さんか?

 つまり、私の妹でもあるわけで――




「……主様、助けて」


 Gの命乞いに周囲を警戒する。突き刺すような視線を感じ、まさかと思い空を見上げると、これが俗に言う舞い降りるというやつだろう。逆光の中、空から人影がゆっくり下りてくる。



 ――――女性。

 背が高い。

 瞳が深紅に染まっている。ついでに蝙蝠の羽根みたいのが背中に生え、闇が滲み夜が来る。月まで空に浮かぶのはおまけか?

 

「……エリー、だよね?」

「美咲、覚えてるんですか!?」

「本気を出せば私の身長を超えられるなんて聞いてないんだけど? その翼は何? 小学生の時から背中に翼を生やすなんて早すぎでしょ。しかも私にも内緒で、ちやほやされたかったのか?」

「うわあ、いつもの美咲です。前世は自我が薄かったから、私色に染めるのも楽しかったのに……。素直で可愛かった美咲はもういないんですね」

「おい、遠い目をするな。今も十分可愛いでしょうが。……それで、その翼は?」

「……この翼は飾りです」

「嘘つけ。パタパタ動かしてたの見たぞ」

「着飾ってるんです」

「だれがうまいこと言えと――つまり、エリーは飛べるの?」

「とぶだなんて、美咲はえっちですね」

「ごめん、気が利かなくて。言い直すね……飛べるの?」

「むしろ、この体格差で逃げられるとでも? 怖がらなくても、美咲は私に身を任せてもらえれば――」

「おかしいな、会話が通じない。こんな性欲マシマシな子だったか?」

「主様、もう一つ懸念材料が……美咲は不感症のようです」


 Gからの横やり。

 訂正する機会を失ってただけだから安易に信じるな。


「……美咲、私を騙してたんですか? 今までのは演技だったんですか!? いや――自分で確かめます!」


 そんな質問どう答えていいか動揺していた隙に、エリーが私を正面から抱きしめてきた。一瞬、胸が痛んだが、大きさに負けたということにしておこう。トラウマなんて存在しない。


 それより、いよいよエリーは飛ぶ気のようだ。翼を大きく広げて準備万端。これからどこに連れて行かれ何をされるのかは考えない。空を飛ぶことへの期待感の方が大きい――おっと、そういえば。

 

「エリー、ちょっと待って。Gはどうする? 一緒に来る?」

「お二人がいなくなるとなれば、私は一人で致しますので。お気になさらず」

「名は体を表すって、きっとあなたみたいな人のことを言うのね」

「美咲を泣かせたこの国を破壊するのは時間がかかりそうなので、お先に帰って大丈夫ですよという意味ですが?」

「ごめん、人の名前にケチをつけるなんて私ってば最低ね」

「G、後はお願いします。美咲、翼で上に行きますので、しっかり掴まっててください」

「普通に飛ぶって言って」

「とぶだなんて、そんな恥ずかしいこと言えない。美咲みたいになりたくないです」

「ごめんねー、頭ピンク色でさー」


 初速はゆっくり、ただし風圧を消してただけで、あっという間にとんでもない高さまで上昇する。

 夜空に浮かぶ月と並走して飛ぶ姿は、側から見たらきっと幻想的な光景だろう。


「……綺麗だね、月にも手が届きそう」

「触っちゃだめですよ。ペンキ塗りたて注意って書いてます」

「うわぁ、付いちゃった」

「だから言ったのに……。その手をどこで拭う気ですか? 命を握られたような感覚。小学生みたいな真似はしないですよね?」


「せっかくのお姫様衣装なのに汚す羽目になるなんて……後で洗えば落ちるかなー?」



「気にしなくても大丈夫ですよ、だって……」




 こんなの、ただの夢ですから――――






シナリオに無視できない不具合が発生したので修正。 



 死んだ刀だ、‘‘雪走‘‘ついでに供養させてくれ


「……エリー、だよね?」

「違う、Gの姉。迎えにきた」

「大人になれるなんて聞いてないんだけど? その翼は何? 小学生の時から背中に翼を生やすなんて早すぎでしょ。しかも私にも内緒で……。ちやほやされたかったのか?」

「……う」

「泣いてちゃわかんないでしょ?」

「美咲に私が大人の姿にもなれるって知られたら、今までの無知な子供のいたずらだと思われてた行為がしゃれにならなくなる」

「泣いて謝れ」

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