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5、月

 前話との温度差で風邪など引きませぬよう、温かくしてお過ごしください。

 ――――――大丈夫、怖くない。

 泣いたりなどしない。


「探しましたよ、美咲。主様がまもなくすっ飛んで来ます。ここから出る準備を。忘れ物はありませんか?」

「――びゃっ!!」

「……まるでTKB当てゲームに負けたような悲鳴ですね。練習が大事とはいえ、勝つ気すらないのですか?」

「あなたが耳元でいきなり囁くからでしょうが!! 好き勝手言ってくれちゃって、なんなら勝負しようか!?」

「余程の自信をお持ちのようで、自分が負けると微塵も思っていない様子――――まさか……美咲は不感症、覚えました」


 売り言葉に買い言葉なだけだ。そんな夢のようなゲーム、挑まれたことすらない。


 というか…………誰?


 敵か味方か、ただの変態か…………うーん、判断がつかん。


「……あんた、誰?」

「秘密です」

「……真面目に」

「Gといいます。呼ぶ時は『ジー』ではなく『ジイ』で、……何か違う意味に聞こえてきませんか?」

「口を閉じろ、へんたい」

「美咲には負けます。さっそくTKB当てゲームを開始するなんて。……負けず嫌いなんですね?」


 ……違う。声を頼りに手を伸ばしているだけだ。


「でも」


 うん?


「この暗闇では、いささかハンデがありすぎますね」


 ――――唐突な眩しさに慌てて目を閉じる。瞼を貫通するほどの閃光が瞬き、轟音とともに地下牢の天井が消し飛ぶ。瓦礫は降り注ぐことさえ許されない。


「……外に出られたのはうれしいけど、平伏して敬語で接しようかな。今のを私に向けられたらたまったもんじゃない」

「そんな、私と美咲の仲じゃないですか。やり過ぎって思いっきり引っ叩いてくれてもいいんですよ……?」

「おかしいな、こんな変な子忘れるはずがないのに親密度がMAXなんだけど? ごめん、真面目な話。……初対面だよね?」

()()では初対面です。()()()()()()()()()とは深い仲でしたが……。遺体は泣きながら埋葬しました。二時間ほど前の話です。あなたは新しく生まれ変わったんです。姿形は違えど、元気そうで何よりです」

「………………は!? 何それ!? とても受け止めきれない!」

「真面目な話をしようって言ったのは美咲じゃないですか」


 死んで生まれ変わった?

 

 ……正直信じられないが、思い当たる節はある。この国で姫として生まれ育った記憶はもちろんあるけど、よくもまあ人形のように薄っぺらい人生を歩んできたと我ながら思う。ならばなおのこと、こんな危険人物に背後を取られたら、今までの私なら泣き喚いて会話すらままならないだろう。

 だけど今は、この子の頭を撫で回そうと隙を伺ってる自分がいる。 


「……主様が来ました」


 Gの声で思考を中断し、周囲を警戒する。まさかと思い見上げると、これが俗に言う舞い降りるというやつだろう。空から人影がゆっくり下りてくる。明らかに人外だ。



 ――――女性。

 背が高い。

 瞳が深紅に染まっている。ついでに蝙蝠の羽根みたいのが背中に生え、闇が滲み夜が来る。

 月まで空に上がったのはおまけか?

 

「……エリー、だよね?」

「美咲、覚えてるんですか?」

「――大人になれるなんて聞いてないんだけど? その翼は何? 小学生の時から背中に翼を生やすなんて早すぎでしょ。しかも私にも内緒で……。ちやほやされたかったのか?」

「うわあ、いつもの美咲です。前世は自我が薄かったから、私色に染めるのも楽しかったのに……。素直で可愛かった美咲はもういないんですね」

「おい、遠い目をするな。今も十分可愛いでしょうが。……それで、その翼は? もしかして……ただの人間じゃない……?」

「……この翼は飾りです」

「嘘つけ。パタパタ動かしてたの見たぞ」

「着飾ってるんです」

「だれがうまいこと言えと――つまり、エリーは飛べるの?」

「とぶだなんて、美咲はえっちですね」

「ごめん、気が利かなくて、言い直すね。……飛べるの?」

「心配しなくとも、美咲の身体のことなら隅から隅まで把握しています。怖がらなくても大丈夫です。身を任せてもらえれば――」

「おかしいな、会話が通じない」

「主様、もう一つ懸念材料が……美咲は不感症のようです」


 Gからの横やり。

 訂正する機会を失ってただけだから安易に信じるな。


「……美咲、私を騙してたんですか? 今までのは演技だったんですか!? いや――自分で確かめます!」


 そんな質問どう答えていいか動揺していた隙に、エリーが私を正面から抱きしめてきた。一瞬、胸が痛んだが、大きさに負けたということにしておこう。トラウマなんて存在しない。


 それより、いよいよエリーは飛ぶ気のようだ。翼を大きく広げて準備万端。これからどこに連れて行かれ何をされるのかは考えない。空を飛ぶことへの期待感の方が大きい――おっと、そういえば。

 

「エリー、ちょっと待って。Gはどうする? 一緒に来る?」

「お二人がいなくなるとなれば、私は一人で致しますので。お気になさらず」

「名は体を表すって、きっとあなたみたいな人のことを言うのね」

「美咲を泣かせたこの国を破壊するのは時間がかかりそうなので、お先に帰って大丈夫ですよという意味ですが?」

「ごめん、人の名前にケチをつけるなんて私ってば最低ね」

「G、後はお願いします。美咲、翼で上に行きますので、しっかり掴まっててください」

「普通に飛ぶって言って」

「とぶだなんて、そんな恥ずかしいこと言えない。美咲みたいになりたくないです」

「ごめんねー、頭ピンク色でさー」


 初速はゆっくり、ただし風圧を消してただけで、あっという間にとんでもない高さまで上昇する。

 夜空に浮かぶ月と並走して飛ぶ姿は、側から見たらきっと幻想的な光景だろう。


「……綺麗だね、月にも手が届きそう」

「触っちゃだめですよ。ペンキ塗りたて注意って書いてます」

「うわぁ、付いちゃった」

「だから言ったのに……。その手をどこで拭う気ですか? 命を握られたような感覚。小学生みたいな真似はしないですよね?」


「せっかくのお姫様衣装なのに汚す羽目になるなんて……後で洗えば落ちるかなー?」



「気にしなくても大丈夫ですよ、だって……」




 こんなの、ただの夢ですから――――






シナリオに無視できない不具合が発生したので修正。 



 死んだ刀だ、‘‘雪走‘‘ついでに供養させてくれ


「……エリー、だよね?」

「違う、Gの姉。迎えにきた」

「大人になれるなんて聞いてないんだけど? その翼は何? 小学生の時から背中に翼を生やすなんて早すぎでしょ。しかも私にも内緒で……。ちやほやされたかったのか?」

「……う」

「泣いてちゃわかんないでしょ?」

「美咲に私が大人の姿にもなれるって知られたら、今までの無知な子供のいたずらだと思われてた行為がしゃれにならなくなる」

「泣いて謝れ」

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